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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年12月号

ほんの森

障害者虐待
その理解と防止のために

宗澤忠雄編著 日本高齢者虐待防止センター編集協力

評者 小賀久

中央法規
〒151-0053 渋谷区代々木2-27-4
定価(本体3,000円+税)
TEL 03-3379-3861
FAX 03-3379-3820

障害者虐待に関してようやく待望の文献が出版されました。この10月に出版された宗澤忠雄編著『障害者虐待 その理解と防止のために』(中央法規)がそれです。本書は、1障害者虐待の取り組みの全体像、2事例から考える障害者虐待、3都道府県・市町村における体制整備の課題、4障害者虐待の定義と発生関連要因、5障害者虐待の防止・対応の要点とプロセス、6虐待防止支援における事実確認の方法の6つの章で構成されています。「はじめに」では、編著者が虐待研究に取り組まざるを得なかった経緯と問題意識がコンパクトな文章で厳粛に記されており、その内容に、本文を早く読みたいという期待が掻き立てられるはずです。

私はこれまでの虐待に関する報道のあり方に疑問を感じてきました。それは報道に限らず、いわゆる啓発書や研究書に至っても同様でした。虐待者は絶対悪として責めたてられ、糾弾されはするものの、なぜ、そしていかに虐待という人権侵害行為に手を染めてしまったのかという背景やプロセスが問題にされることがほとんどないからです。

虐待者を責めたて厳罰化するだけでは虐待が減少することはありません。虐待に関する正確な分析と評価、そして虐待者と被虐待者(になる可能性のある)双方への支援が求められているのです。親子神話と恩恵的・慈恵的福祉観がいまだに根強いがゆえに、親や福祉職員が虐待者であるような場合は、愛情や人権意識の希薄さといった虐待者の属性のみが問われてしまい、告発型の議論が主流になってしまうのです。そうなると虐待者に対する罪と罰の追求のみが主要な論点となり、「何が障害のある人とその家族を苦しみと生き辛さに追い込んだのか―(中略)―支援者本来の志と営みはどのようにして圧し曲げられてしまうのか(編著者)」という問いに対して向き合い、解明することはできません。

本書は行政職員が虐待防止プログラムに沿って的確に支援を遂行する上でも十二分に役立つでしょう。虐待対応のあり方を具体化し、支援システム・ネットワーク・社会資源開発、虐待発生の構造的要因などについて議論し、事例研究やチェックリスト・アセスメントシートなどを新たに作成し、誰(だれ)もが虐待事例に向き合い利用できるように提示されています。

日本高齢者虐待防止センターの方々も執筆(編集協力)しており、類書のない画期的な文献です。第一刷りは発売から3週間で完売しており、重版が進んでいるとのことです。

(こがひさし 北九州市立大学)