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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年3月号

陸前高田市訪問調査の実施

小山貴

JDFいわて支援センターでは、南相馬市に次いで全国で2例目の個人情報の提供を陸前高田市から受け、陸前高田市にお住まいの障害手帳をお持ちの方々の対面調査を行なった。

陸前高田市から開示された情報は、1,357人分、内訳は療育手帳保持者、身体障害者手帳保持者、精神障害者保健福祉手帳保持者、自立支援医療(精神通院医療)受給者証保持者であった。またこの間、「障害をお持ちの方」を対象とした各種調査が被災地で行われてきたが、そのほとんどが「65歳以上の方は含まれない」調査であり、障害があることにより発災時から避難生活で生じた問題は検証されることがなかった。

この点では、「共生社会を目指す」とした陸前高田市の方向性と、ほとんどの被災地域で高齢化率が高いことから、制度で年齢を分けるのではなく、障害特性に配慮した防災対策等を立てるためには全年齢調査は必要であるという認識で行なった。

この調査の目的は、被災から1年余が経過した時点での障害者等の実態を把握し、訪問調査の中で把握したニーズを行政や関係機関と共有しながら対応し解決していくことである。第一に、緊急のニーズ把握を行う。第二に、今後の復興を含めた障害者行政の基礎資料とする。第三に、今後の障害者の防災計画作成の基礎資料とする。調査方法は、個別訪問による対面調査とした。

調査項目の内容は、大きく分けると次の4つとなる。

1.当事者情報の整理

手帳情報は、その個人の状況しか記載されないため、世帯主を含めた家族情報や連絡先などを調べるには住民基本台帳と照合する必要があった。そのために緊急連絡先を含め、家族の状況などを一つのものにする。

2.発災時から避難時の状況確認

避難情報の入手経路から、実際の避難誘導や移動支援の状況や避難状況等を時系列を追いながら確認し、その際に起こった問題点等を確認する。

3.現在の生活状況の確認(生活・医療・福祉サービス利用状況等)

ここでは震災の前後を比べながら生活状況の確認をする。特に具体的に困っていることや心配なこと、また今後の行政に求めることを聞き取り、今後の障害福祉計画に生かすことを目的にする。

4.今後の災害発生時に対象者に必要な支援の確認

2で発災直後からの状況や明らかになった問題点を踏まえ、今後の災害発生時にその方に必要な支援を考える。

また、今後見直される災害時要援護者名簿への登録の確認と、新たな災害が発生した際、速やかに専門的な医療や支援を対象者が受けることができるように、市が当事者支援が必要と認めた場合、行政が認めた支援団体等に個人情報を開示してよいか否かの確認も行う。

このように市と調査内容を確認し、2012年7月6日から11月12日まで調査を行なった。

陸前高田市訪問調査結果の概要(単純集計)
■東日本大震災における情報入手について

避難情報の入手経路(複数回答)

1.テレビ 14 1.6%
2.ラジオ 32 3.6%
3.巡回広報車 2 0.2%
4.防災行政無線 181 20.6%
5.有線放送 5 0.6%
6.民生委員 4 0.5%
7.保健師 0 0.0%
8.行政職員 4 0.5%
9.福祉サービス事業者 118 13.4%
10.地域防災組織 7 0.8%
11.消防・警察 26 3.0%
12.近隣住民 126 14.3%
13.家族・親戚 122 13.9%
14.その他( ) 238 27.1%
合計(人) 879 100.0%

避難誘導の支援(複数回答)

1.家族・親戚 163 21.7%
2.近隣住民 76 10.1%
3.地域防災組織 5 0.7%
4.消防・警察 25 3.3%
5.福祉サービス事業者 121 16.1%
6.行政職員 4 0.5%
7.保健師 0 0.0%
8.民生委員 3 0.4%
9.その他 74 9.8%
10.支援なし 281 37.4%
合計(人) 752 100.0%

調査には、全国から派遣されたJDF関係者(調査員)、JDFいわて支援センタースタッフ、いわて障がい福祉復興支援センター気仙圏域センター職員で調査チームを編成し、原則として1チーム2人で訪問調査を行なった。1クール1週間の交代制で、調査従事者は、延べ531人(内訳、復興支援センター職員105人、JDF調査員426人)となっている。

調査を始めるにあたり、行政職員でない人間が訪問するために問題が生じる恐れがあった。そのため、行政には広報での市民への周知と行政からの調査協力依頼の文書や、災害FMを通じて調査の概要について毎日放送していただいた。そのおかげで訪問時にトラブルになることは無く、調査自体を拒否された方も1357人中21人だけであった。

現在、JDFではこの調査結果を分析中のため、ここでは、全体を通じての私見にとどまることをお許し願いたい。上掲の表は、2013年1月11日に発表した速報値である。

1,357人の調査対象のうち、対面でお話をお聞きすることができた方は1,021人であった。地域との関係性が密な地方都市では特に「障害があるといったことを周りに対して隠したい」という傾向があるが、陸前高田も同様である。特に精神障害に関しては、地域のみならず家族間での障害受容も難しい問題となっている。そのため、震災直後に県が行なった調査でも、かなり難しかったという話も聞いていた。こういった事情を踏まえ、自立支援医療受給者証のみの方は訪問調査に伺った時点で、その家庭に何らかの問題を生じかねない恐れがあったことから、行政と相談し調査対象から外すことにした(この方々に関しては、保健師が状況を把握できていることもあったため調査不要とした)。

その他、調査不要と判断された方は、特別養護老人ホーム等、高齢者施設への入居者・入院中の方、重度の入所施設利用の方、市外転出の方等となっており、274人であった。また、それらの方々を除いたうち、調査拒否をされた方が21人、調査期間中の死亡者32人、転居先不明等でお会いできなかった方々が12人という内訳になっている。その他、実家へ戻ってきた等の理由により名簿外の方の調査も若干人行なったため、調査票の合計数が多くなっている。

今回の震災における避難情報の入手経路についてだが、発災直後に電気が絶たれたため、通常の情報入手手段としてのテレビやラジオはほとんど使えなかった状況が分かる。防災行政無線からの情報入手が20.6%と最多であったが、地域により聞こえにくかったという問題もあった。その他は、日中の時間帯ということもあり福祉サービス事業者によるものが13.4%、家族・親戚が13.9%、近隣住民からの情報が14.3%と普段からの関わりがある人からの情報は合わせて28.2%となった。

それらの情報を基に実際に避難した方は533人であり、その誘導を行なった人は家族・親戚が一番多く21.7%という数字になっている。次に多いのが、前述と同じ理由で福祉サービス事業者が16.1%と続いた。逆に支援が無く、自分で避難された方も37.4%もいた。

避難であるが、避難をしなかった方も4割近い404人いたが、高台等に居住していたなどの理由のほか、「避難をしたかったができなかった」という方も2.7%あった。理由のほとんどが自力での移動困難者であり、浸水地域の方も1名あったため、今後に課題を残す結果となる。

■避難経験の有無について

避難経験
533 52.2%
無(※) 404 39.6%
死亡・入院・施設入所等 41 4.0%
不明 43 4.2%
合計(人) 1021 100.0%
※避難無の理由
必要なし 364 90.1%
出来なかった 11 2.7%
不明 29 7.2%
合計(人) 404 100.0%

この発災直後の状況を聞くことにより、今後、同じような災害が発生した時に考えなければならないことを調査の最終項目で伺った。その結果、緊急避難の際、何らかの移動支援が必要か否かという設問で、全体の65.2%の方が人的支援や車両支援を必要としていることが分かった。また、84.1%の方が避難所での生活面や医療面での配慮を必要としていた。

■今後の災害発生時の要支援度(避難時について)

避難時・避難先の支援や配慮が必要 445 43.6%
避難時の支援のみ必要 55 5.4%
避難先の配慮のみ必要 215 21.1%
不要 170 16.7%
死亡・入院・施設入所等 49 4.8%
不明 87 8.5%
合計(人) 1021 100.0%

これらの訪問調査で、最後に市からの依頼であった「災害時要援護者名簿への登録の可否」をお聞きしたが、制度の理解や制度自体を知らない方が大多数であった。そのため、対象の方の震災時に置かれた状況に当てはめながら丁寧に噛(か)み砕いた説明を行い、本人がイメージできた上での登録の可否を伺ったところ、68.7%の方はその場で登録を承諾した。

また個人情報保護の壁が仇(あだ)となり、今回の震災では専門的なサービスや医療に速やかにつながらなかったことを踏まえ、災害時に市が適当と判断した専門機関に個人情報を開示し、速やかに支援が行われるよう「緊急時の情報開示の可否」も併せて伺ったところ、71%の方が承諾をした。これは、震災直後に医療や福祉面で困難な場面を経験したからこその結果と考える。

陸前高田市では今後、この調査結果を立教大学の協力の下、新しい障がい福祉計画に生かすことにしている。また、JDFも検証し報告を行う予定である。

いつ何時、どこで災害が起こるかは分からない。しかし、確実に自然災害は発生する。その時に、今回起きてしまったことを経験として生かさなければ犠牲になった方に申し訳が立たない。1,000人を超す方々の貴重な声を聞かせていただいた我々に課せられた課題は大きいと私は考える。

(おやまたかし JDFいわて支援センター事務局長)