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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年3月号

ほんの森

職業リハビリテーションの基礎と実践
―障害のある人の就労支援のために

日本職業リハビリテーション学会 編集

評者 石渡和実

中央法規
〒151-0053
渋谷区代々木2-27-4
定価(本体3,000円+税)
TEL 03-3379-3861
FAX 03-3379-3820

先日、高次脳機能障害がある方が利用するデイサービスを訪問した。年齢も障害の状況も異なる方々が、和気あいあいとカレーライスを作っていらっしゃった。所長さんが話の最後に、「でも皆さん、どなたも働くことを望んでいらっしゃるのですよ」と絞り出すようにおっしゃった。「そうだよね」と、改めて思わされた。そうした思いに応える確実な支援が、ぎっしりと詰め込まれているのが、この書物である。

障害者の就労支援に関わる研究者や実践家の集まりである日本職業リハビリテーション学会が、昨秋、刊行した本である。学会の40年以上にわたる蓄積と、会員の情熱とが伝わってくる。「基礎編」と「実践編」との2部構成で、初心者や専門外の人にも分かりやすい記述が貫かれている。

第1章の「職業リハビリテーションとは何か」で、まず「就労支援とは労働市場における賃金労働を代表とするペイドワークのみならず、ときに、労働の対価としての賃金はないが、そこに働くことの価値や自己実現を見出すことのできるアンペイドワークを含む多様な働き方、すなわち暮らし方を支援することでなければならない」と述べている。そして、「支援対象者を『働かせる』という視点からのアプローチではなく、その『働きたい』を支援するというスタンスに立つ」という点が強調されている。

さらに、「職業リハビリテーションの展開」では、対象者を「生物・心理・社会的な障害のある人」と捉えている。「社会的な障害」とは機能・形態障害はなくとも社会参加を制約されている人とされ、生活保護者、母子家庭の母親、引きこもりの若者、ホームレス、刑余者などが挙げられている。「働きたい」を支える実践は、ここまで視野を広げ、支援の中身も多彩になっている。

「実践編」では、「情報の収集・整理 プランニング」から始まり、「職場への移行支援」「職業生活の継続支援」「障害者雇用に対する企業支援」という支援過程が詳しく紹介されている。具体的な事例が随所で生き生きと紹介され、最後に、地域のネットワーク、連携システムに触れている。

この本を通読して感ずるのは、職業リハビリテーションがILOが提唱する「ディーセントワーク」、すなわち「働きがいのある人間らしい仕事」の実現を地道に支えていること、そして、「障害」がある人と真摯に向き合ってきた実践は、「働くこと」に困難を抱える多様な人々の支援へと確実に広がってきていること、である。まさに、ユニバーサルやインクルージョンの理念であり、障害者権利条約で強調される「多様性の尊重」が、職業リハビリテーションにおいては着実に具現化しているのである。

(いしわたかずみ 東洋英和女学院大学教授)