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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年4月号

コミュニケーション支援機器
開発の動向と今後の展開

小野栄一

はじめに

一般に支援機器と支援技術、それらを活(い)かせる環境(人材的な面、機器の供給システムや、広くは社会環境)が揃(そろ)うことで、初めて支援機器が適切に活用され、必要とされる方々に喜ばれ、その方々の自立した日常生活や社会参加の促進につながる。

支援機器は道具の1つであり、道具は使いようであるが、モノとして存在しても、適切に活用できる状況でなければ、ほとんど意味がない。パソコンも電源を入れることができなければ、パソコンとして活用できない。一方、モノだけで解決できることは限られているが、少しでも良い道具が手に入りやすくなることを期待し、今回いただいたテーマになるべく添って、コミュニケーション支援機器に関する一端を紹介する。なお、個別の機器の詳細は、他の著者や紹介するデータベースなどを参考にしていただければ幸いである。

ロボット技術や未来の技術から観る

映画やテレビの番組では、まだ現実に存在しない、未来的な技術や機器が出てくることがある。その多くは、現在の技術では実現困難なものや物理的にあり得ないものもある。しかし、その中には、人がこうあったらいいなぁというものや、その当時の最先端の知見から将来に可能かもしれないというものもある。

そういう観点で昔の番組を見ると、現在ある程度は実現されているものもある。また、そのような番組の刺激を受けて育った人々が、実際にそれらの研究や開発に関わることも少なくない。

現在、ロボット技術の研究者で60歳前後の人は、手塚治虫の「鉄腕アトム」や横山光輝の「鉄人28号」の影響を受けた方々が多くいる。私もその一人である。ロボットに関心があり、大学時代から経済産業省の研究所へとロボット研究に関わりさまざまなことを学んだ。その中で人とロボット(機械)のコミュニケーションを考えると、人と人、人と動物なども参考となる。

ロボットは、さまざまな技術を統合したシステムなので、コミュニケーション支援機器に関わる技術も含まれる。

鉄腕アトムのように人とコミュニケーションできる技術はどうしたらできるか。まず、人が話す言葉を認識する技術が必要である。音声情報処理の技術が進み、どこから音が出ているか(音源定位)を知り、その音を音声認識処理することで、認識率を上げることができる。雑多なパーティの中でも話をしている人の声がうまく認識できる「カクテルパーティ効果」という現象があるが、それに近いことができる。

聖徳太子が一度に何人もの人の話を聞き分けたとも言われているが、2005年の愛知万博(愛・地球博)で東芝のロボットは、複数の人が、喫茶店で飲み物を同時に頼み、声を聞き分けて依頼内容を確認するというデモンストレーション(以下、デモ)を行なっている。

また、産業技術総合研究所では、テレビなど周りから音が出ている状態でも、音声認識により電動車いすを操作可能とする、すなわち、シートに座っているユーザが指示する声のみに反応し、周囲にいる人の音には反応しない「マイクアレイ搭載電動車椅子」のデモを10年程前に行なっている。

人は言葉だけなく表情や身振りの見た目(視覚情報)も使い、意識的にせよ、無意識的にせよ、コミュニケーションを行なっている。手話は意識的な視覚情報によるコミュニケーションである。表情やボディランゲージは、無意識的に行う場合もある。

1992年に通商産業省(現経済産業省)が立ち上げたリアルワールド・コンピューティング(RWC)プロジェクト(10年計画)では、コンピュータとの自然な対話を目指して、音声、画像、手やしぐさ、表情による感情の伝達など人からの情報把握する研究が進められた1)(図1)。このプロジェクトでは、日立が手話認識システムの研究を担当している。

図1 RWCプロジェクト マルチモーダル機能領域の研究対象注1
図1 RWCプロジェクト マルチモーダル機能領域の研究対象拡大図・テキスト
注1:RWCプロジェクト研究成果概要(平成14年2月)、P6参照

同じく、産業技術総合研究所の研究担当のテーマの一部で、VisWear2)がある。これは、近年実用化が進みつつあるウエアラブルビジョンで、眼鏡をかけると、見えている環境に必要な情報が重ねて表示できる。たとえば、人がいない席を見ると、その席の利用者の情報が空間に投影されたり、家電製品を見ると空間中にリモコンスイッチが表示され、そのスイッチを手で触ると家電製品を操作できるなど、活用範囲が広い。

このように実用化される基となる研究は、一般に10年程度、また、それ以前に実施されている。なお、2000年に郵政省(現総務省)は「五感情報通信技術に関する調査研究会」を開催しており、報告書(P111、2001年)では、「障害者等に対する日常生活支援」について感覚を何らかの形で提示することで情報的バリアを取り除くことが期待される、とある。

研究と開発

今回は開発の動向と今後の展開というテーマであるので、まず、研究と開発の言葉について説明する。企業の視点に立つと、次の言葉が分かりやすいと思う。

「研究とは、顧客に高い価値を提供すべく、不可能と思える困難な目標が実現できることを示すこと(途中略)、開発の過程では、確認された技術だけを使って決められた納期までに決められたコストで市場の要求に合った商品を仕上げなければならない。」3)

以下、開発については現在進行中の支援機器の補助事業を中心に、今後の展開については研究や新事業の状況を踏まえてその一端を述べる。

国内データベース、海外データベース

開発途中で商品化せずに終わったもの、商品化されたが諸事情により現在は手に入らないものが多いと思われるが、今までに開発されているもの(商品や無料で手に入るもの)、現在、手に入るものを、左記のウエブサイト上のデータベースや一覧などで知ることができる。

国内では、

1.情報通信研究機構(NICT)の「情報バリアフリーのための情報提供サイト」

2.「東京都障害者IT地域支援センター」

3.「かながわ障害者IT支援ネットワーク」

4.「国際福祉機器展」の[製品の検索]

5.「テクノエイド協会」の[福祉用具情報システム]

6.国立特別支援教育総合研究所の「特別支援教育教材ポータルサイト」

などがある。6は、教材が中心で、昨年度から作製を始めたデータベースのため、掲載されている商品は1000件に届いておらず(2016年3月現在)、データ増加を計画中である。

海外では、

7.AbleData

8.European Assistive Technology Information Network

などがある。それぞれウエブ検索していただければ幸いである。

コミュニケーション支援機器等でデータベースを調べると、コミュニケーションを直接に支援する機器と適切なコミュニケーションを促す、もしくは障害児の教材とも一部重なるが、どのような場合に、どのように話せば適切かについて画像で示すというようなコミュニケーションブックも含まれている。コミュケーション支援機器等と「等」をつけた理由は、ハードウエアのみでなくアプリケーションソフトウエアも販売されているからである。

これらウエブサイトを眺めると、技術の進展によるIT(情報技術、Information Technology)、ICT(情報通信技術、Information and Communication Technology)の普及に伴い、ハードウエアとして一般の人が多く活用しているスマートフォンやタブレットを利用できるアプリケーションソフトウエアが多い。障害のある人へのIT活用支援にあたり、先駆け的に作業療法士を中心として作製した障害者IT活用支援ガイドブック(日本作業療法士協会、2008年発行)なども一役を担ったと思う。

コミュニケーション支援機器関連を含む開発促進事業など

支援機器の開発については、2015年度現在で進行中の事業として、

1.厚生労働省の「障害者自立支援機器等開発促進事業」(2010年度~)4)

2.文部科学省の「学習上の支援機器等教材研究開発支援事業」

3.国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の「情報バリアフリー事業助成金」

4.国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「課題解決型福祉用具実用化開発支援事業」

などが挙げられる。それぞれの事業の特徴を挙げると、

1は、開発中の機器について開発費用のみでなく、障害のある人を良く知る医療専門職等のアドバイザーのサポートをし、実証試験を行なって実用性の高い機器が効率よくできるよう開発を促進する。

2は、障害のある児童生徒の教材開発が目的であり、ICT機器等の活用も注目されており、その中にはコミュニケーション支援機器等も含まれる。

3は、「誰もが等しく通信や放送のサービスを利用できる環境を整備」するための機器の開発やサービスの提供を行う事業を公募の対象としており、意思伝達支援サービスや電話リレーサービスなど、コミュニケーションに関連するサービスも採用されている。

4は、中小企業を対象とし、全く同一の機能、形態の製品が存在しないという新規性、技術開発要素を有していることが条件の一部になっている。

開発促進事業の関連採択テーマ

2010年度障害者自立支援機器等開発促進事業に採択され実用化したモノを中心にいくつか紹介する(詳細は、厚生労働省の報告書のウエブサイトを参考4))。

「タブレット型情報端末を利用したトーキングエイドの開発」が従来、専用機であったものをタブレットでできるようにし、さらに機能を追加し、活用の範囲を拡げたものである。これはユーザによる評価試験を行なっている最中より極めて好評で商品化が望まれており、当初は「トーキングエイドfor iPad版」のみであったが、現在はWindows版や発達障害用認知・訓練アプリケーションも販売されている。なお、開発では、タブレットを落としても壊れないようにタブレット型情報端末専用ケースを同時に開発、商品化している。

「音声認識し文字表示するメガネや携帯可能な支援機器」も、ユーザの要望が高かった。現在、「UDトーク」として広く利用されている技術の基である。

「リモコン操作によるハンズフリー型人工咽頭の製品化」は、喉頭摘出された方々で、手で電気式人工喉頭を喉に押しあてて話す方々が、必ず片手が使われるため、両手を自由に使いたいという要望からスタートした開発した。

「言語障害者向けに人間味のある声で会話補助する支援機器の低価格化に向けた開発」は、喉頭摘出など喉の手術を受ける方、またはALS(筋萎縮性側索硬化症)などの障害で、声を失う可能性のある方が声を残せる時期に自分の声を収録し、声を失った後に自分の声の合成音声で会話ができる支援機器を低価格化するための開発で、現在、「自分の声ソフトウエア ボイスター」としてその開発成果が活かされている。

「(バス・車両用)車載型磁気ループ補聴システムの開発」では、バスや電車に搭載できる磁気ループ補聴システムを開発した。現在、萩市(2011年)、高松市(2014年)の路線バス、観光バス(イーグルバス株式会社、名古屋市場運輸(株)(2014年)、宇部市交通局(2015年))、横浜市社会福祉協議会の福祉バスに磁気ループが搭載され始めている。

「視覚障がい者用のペン「ワイヤレス型触図筆ペン」の商品化」は、視覚障がい者用に開発した筆記具である。インクとして蜜蝋を溶かして用い、紙の上に描くと20秒ほどで盛り上がって固まるので、その場で字や絵が書けるもので、ワイヤレスタイプと子ども用を開発商品化した。これでもって、視覚に障害のある人が立体的な粘土細工のみでなく絵も楽しめるようになり、美術の世界がより拡がった。盲学校では、全盲の児童と弱視の児童同士でも絵を介したコミュニケーションも広がった。

「“電子点字図書 薄状(B5程度)の点字ディスプレイ”の開発」は、もともと、2009年度の補正予算で行なった障害者自立支援機器等研究開発プロジェクトにて、アルプス電気(株)、産業技術総合研究所、東京大学、慶應義塾大学から成るメンバーが、「携帯電話の両面にも装着可能な軽量で薄い(薄さ約1ミリ)点字デバイスの開発」で、ナノカーボン高分子アクチュエータを使って同メンバーが開発した点字デバイスを改良・発展させようとしたモノである。残念なことに、東日本大震災の影響により開発中止になった。当時は、スマートフォンより携帯電話の方が多く普及しており、その携帯電話の両面に貼り、音声やメール文字を点字にするという薄さ1ミリのデバイスを目指して開発開始された。もし、順調に開発が進んでいれば、点字ディスプレイのタブレット版が世界初でお目見えしたかもしれない。点字も斜め読みできるそうであるが、現在、パソコン用の点字ディスプレイやメモ用デバイスに付いている点字ディスプレイは1行文しか表示されないため、パソコン画面の文字も1行ずつしか表示できない。タブレットのように持ち歩きが容易で、紙媒体の点字ファイルの代わりに代替えできたら点字を読める人にとり、それは画期的なことである(図2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図2はウェブには掲載しておりません。

以上、個別の開発に至る経緯など詳細は書けないが、開発者は企業努力をしつつ情熱を持って開発を進めている。その際、ユーザ側を含む障害のある人を良く知る適切な専門職のアドバイスなどの支援があれば、効率よく実用的なモノ、ひいては価格的にもリーズナブルなモノができやすい。1の開発促進事業は、医療専門職等の協会の応援も得て実施している事業である。

今後の展開

今後の展開については、左記に示す研究例や交流会などを眺めると、ニーズはあまり変わっておらず、それらを満たすべくIT、ICTやロボット技術を使った新しい支援機器が増えており、今後も増えると思われる。私見であるので、アドバイスやコメントなど不足や誤りがあればご教示いただければ幸いである。

ネットワーク環境がますます進み、コンピュータや通信速度がより速くなり、過去の研究成果が身近に活かされるようになるにつれ、共用品的な支援機器が増えると思う。2009年、厚生労働省の事業で、「障害者が自立して住みやすい住環境モデルの構築」5)で、音声認識、ジェスチャー認識、さまざまなスイッチ類と家具や電化製品などをネットワークで結び、障害に合わせた装置で自在に操作する、生活を支援するデモが行われている(図3)。それらの技術はコミュニケーション支援でも応用でき、現在進行中の表情を読む技術や触手話ロボットなど、さまざまな研究が将来実用化するかもしれない。

図3 RTミドルウェアを介した各種福祉機器のネットワーク化注3
図3 RTミドルウェアを介した各種福祉機器のネットワーク化拡大図・テキスト
注3:厚生労働省のHP、平成21年度障害者自立支援機器等研究開発プロジェクト成果報告書一覧より

企業は、赤字でなければ開発を行う。そのためには、ユーザのニーズを的確に把握し、ビジネスモデルを構築し、商品化した際に売れるか否かの見通しを立て、赤字でなく対応できるかを考える。支援機器の普及方法の検討も必要であるが、それ以前にユーザのニーズ把握が重要である。

厚生労働省では、2014年度より、シーズ・ニーズマッチング強化事業で、シーズ・ニーズマッチング交流会を行なっており、コミュニケーション支援機器も展示されている。テクノエイド協会のホームページに詳細があり、2015年度は大阪、東京で、9つの障害当事者団体、2015年度障害者自立支援機器等開発促進事業の採択開発テーマの試作機を含むさまざまな障害者支援機器の開発企業およびNEDO、NICT、国立障害者リハビリテーションセンター(国リハ)が出展し、ユーザ側と開発側の情報交流に努めている。

2014年度よりニーズ&アイデアフォーラム(NIF、Needs & Idea Forum)が開催されている(NIFのウエブサイト参照)。ニーズ&アイデアフォーラムは、医療・福祉系、デザイン系、工学系の学生が混成チームを作り、福祉の課題のニーズを解決するアイデアを形にして、ユーザ側や開発側に留(とど)まらず、一般の多くの方々に、ニーズを知っていただくと同時に、適切な支援機器があれば、日常支援や社会参加の促進になることを知っていただく場として国リハ主催で開催している。2015年度は8校が連携し、理学療法、作業療法、特別支援科学教育専攻、デザイン、電子工学、機械工学、ロボティクス、建築学の49人の学生参加で13件の発表があった。

ニーズが開発側に適切に伝わり、ユーザ側がどのような開発技術、商品が存在するかを知り、お互いの情報共有と連携を進める、効率的で適切なマッチングの促進がますます重要となってきた。マッチングのきっかけは、ネット上での情報やTVなどのメディアが多いと思うが、交流会などで直接、ユーザ側と開発側が交流する場が増えることを期待する。

(おのえいいち 国立障害者リハビリテーションセンター研究所長)


【参考文献】

1)「RWCプロジェクト研究成果概要」2002年2月、技術研究組合新情報処理機構

2)「VizWear:コンピュータビジョンとウェアラブルディスプレイによる人間中心インタラクション」蔵田武志、他 高臨場感ディスプレイフォーラム2001、pp.47-52(2001)

3)滝口孝一「21世紀への提言 企業における研究のあり方」未来材料、2006、pp.52-53

4)「2010年度障害者自立支援機器等開発促進事業 成果報告」 厚生労働省のHP→福祉・介護の障害者福祉→施策情報の調査事業等の公募→3障害者自立支援機器等開発促進事業の成果報告書一覧

5)「2010年度障害者自立支援機器等研究開発プロジェクト 成果報告」