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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年4月号

利用者の声

患者当事者にとっての意思伝達装置

岡部宏生

私にとって意思伝達装置は3つの要素で構成されている。1つは意思伝達のためのツールと方法、つまり手段である。2つ目はその手段を開発または製作する人、と実際に使えるように設定・設置する支援者、つまり人である。3つ目はそういう方々の患者に対する熱意とその熱意を支えや希望にしている患者、つまり人の想いである。

コミュニケーションツールとの出合い

2006年発病。2007年に在宅療養開始が私のコミュニケーションツールとの付き合いの始まりである。

私が発病してから意思疎通のために使ってきたものは、パソコンと透明文字盤と口文字の3種類だ。パソコン入力は手足の動きに合わせてマウスを7つ、トラックボールも使用し、スイッチ(ジェリービーンや軽く親指で押せるゲーム用のスイッチ等)も換えてきた。その後、2008年の秋頃から現在まではオペナビを継続して使用している。最初はピエゾで使用。その後、ワンキーマウスと左右の腕で同時に使用、現在は左足でエアバック(ディップスポンジ)を使用しているが、最近はだいぶ辛くなってきている。

未来に向けての装置・機器について

HALの技術を応用したサイバニクススイッチは、2012年初めに生体電位の検出を試し、同年末にはスイッチとして初試用。動かない右腕でパソコンが入力できた時の驚きは、観ていた人以上だった。今年販売予定である。製品精度が上がれば、他のスイッチを使えなくなった患者も使えるという期待と希望を私たちに与えてくれる。

心語りは改良版も試用。私の正答率は70→80%程度に向上、大きな期待を寄せている。大阪大学の吉峰先生が中心で開発中のBMIも、未来の技術として患者に希望を与えている。

もう一つ、従来とは違ったコミュニケーション装置にこころかさねがある。言語ではなく、感情や気持ちの変化を捉えてディスプレイに表示する。私たちの病気は進行すると言語によるコミュニケーションがとれなくなる場合もある〈そうなる患者は少ないことが最近の研究で明らかになってきたが〉。コミュニケーションは決して言語やYES・NOに頼るだけでない、と無限の広がりを感じさせてくれる。

最近、注目されている機器に視線入力装置がある。これについても1つお伝えしたいことがある。私は以前よりスピードは落ちたが、相当量のコミュニケーションを口文字と文字盤とパソコンで行う。だが、視線入力は使えなくなった。気管切開後、毎年視線入力を試し、とても使いやすく、将来使用しようと考えていた。しかし2年前から視線が固定できず、入力が難しい。無理をして使ってみると、使用後に大変な目の痛みが残る。目の痛みは丸一日続き、口文字や文字盤にかなり支障がある。

私以外にも同様の事例はある。私たちの病気は個別性が強く、必ず眼球運動が最後まで残るとは限らないことを支援者の皆さんにお伝えしたい。だが、やはり視線入力装置は多くの患者にとって大変有効であり、例外を理解した上でぜひ試してほしい。

人との出会いと人の想い

最後に、意思伝達装置を使うために私が出会った方々を紹介していきたい。

発病後しばらく、私のコミュニケーションの支援者は友人であった。症状が進行し専門家の力が必要になり、私が最初に出会ったのは川村義肢の日向野さんだった。それが大変幸運なことだと分かったのは随分後のことである。日向野さんがスイッチの神様と言われていることなど知らずに、スイッチとその適合を繰り返してもらった。ほぼ支払いが無く、オペナビ導入でやっと日向野さんの仕事になったとホッとしたことを覚えている。8年前には想像もしていなかったが、日向野さんとは現在、支援講座でご一緒している。

その頃に出会ったPTさんに本間里美さんがいる。私の身体の様子を注意深く観察して、意思伝達装置のために環境を整えてくれた。この本間さんも、今では私の事業所で一緒に働いている。

気管切開直後、さくら会の川口さんに紹介されたのが、ICT救助隊の今井さんと仁科さんである。2人は今に至るまで、私のスイッチやパソコンの環境を整えてくれている。私も救助隊の支援講座に参加し、当事者として支援者と交流の機会をもらっている。その後もたくさんの支援者に出会って、現在の私の暮らしと活動がある。

HALスイッチの開発者である、サイバーダイン社の山海先生と当初の担当者の新宮さんは、世界的な科学者であるが、常に真摯に患者と向き合い患者の声に耳を傾けて開発にあたり、私たちに未来と希望を見せてくれている。島根大学の伊藤史人先生は私のパソコンを設定してくれたばかりでなく、さまざまなコミュニケーション支援活動でお力をお借りしている。そして忘れてはならないのが、私のヘルパーさんたちである。最も身近でコミュニケーションを支えてくれている。特に永山さんは、さまざまな工夫によって専門家の隙間(すきま)を埋めてくれている。

意思伝達装置=言語によるコミュニケーションを想像するが、その枠を超えて私に影響を与えてくれたのが、都立神経病院の本間武蔵先生である。マイボイスの開発で有名だが、最近開発が進んでいるこころかさねもとても本間先生らしいと思っている。この装置は決して明確な手段としてコミュニケーションがとれる訳ではないが、人の究極のコミュニケーションは言語によるものでなくて、心でするものだということが分かる。それは、私たち進行性の病気の患者にとって極めて心強い。

このような方々に支えられ、患者は決して孤立しておらず、希望を持って生きていける、ということを心よりお伝えしたく、この原稿を書いている。これからも全国にたくさんいる支援者の皆様の益々の支援をお願いしたい。

(おかべひろき 日本ALS協会副会長)