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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年4月号

3.11復興に向かって私たちは、今

あの震災から5年、そして未来へ

髙橋秀信

私は宮城県立視覚支援学校で鍼やマッサージ等を教えています。学校は仙台市の中心部からやや北側に位置し、バス・地下鉄等利便性も高いところです。私の自宅は仙台駅から南へ5キロほど離れたところにあり、こちらも地下鉄沿線・バスの利用等公共交通機関の利用ができ、ショッピングや病院・区役所等公共施設もそろった所に住んでいます。

私は生まれて1歳で小児癌のために両眼を摘出し、全盲となり、小学校から現在勤務している学校へ入学し、勉強し、筑波大学理療科教員養成施設を経て教員になりました。

実家は気仙沼湾(けせんぬまわん)に浮かぶ大島(おおしま)にあり、子どもの頃は浜で遊び、夏休みは毎日のように海水浴をしたものです。両親は海の仕事ではなかったものの、回りはほとんど海に関する仕事をしていたので、地震と津波の話はよく聞いていたように思います。

小学6年生の時に宮城県沖地震を体験し、大きな地震の恐ろしさも記憶に残っています。そして、まもなくあの東日本大震災から5年を迎えようとしています。

現在は、学校も自宅も修理が終わり、仙台市内中心部はほぼ何事もなかったような町並みに復興しているとはいうものの、学校の近くには復興公営住宅が建ち、本会の会員も昨年11月に、仮設住宅から復興住宅へ引っ越しするなどしています。

昨年5月には仙石線(せんせきせん)の全線開通、12月には地下鉄東西線(とうざいせん)の開業、仙台うみの杜(もり)水族館の開園等明るいニュースも増えてきています。

震災後、この5年間の中で感じたことは、視覚障害者の立場をどのように社会全体へ啓発していくか、この一点にかかっているのではないかということです。

震災後1年は、本当に何も考えられない日が続き、その日何とか暮らせればそれでいいという感じの時間経過だったように思います。そんな中でも、会員の安否確認・義援金の分担・いろいろな相談等、余震の不安を抱えながら時に支援者になったり、被災者になったりをしていたように思います。

私は震災の起こった年から本会の会長となり、今日まで活動しております。震災1年後からは、岩手県・宮城県・福島県の被災団体と日盲連が協力しながら復興支援プロジェクトを立ち上げ、電話相談や語り部活動・情報誌の発行・防災研修会の実施等を行なっています。

当初、私自身は語り部活動をしていませんでしたが、26年12月に富山県視障協に講師として呼ばれ、活動を始めています。また27年3月には、仙台で第3回国連防災世界会議が開かれ、私もその中で行われたパブリックフォーラムに参加しています。8月に行われた災害看護学会主催市民公開講座では、視覚障害者としての震災体験や安全な誘導方法について話す機会も得ています。

視覚障害者にとって、平時でも非常時でも情報の受発信が円滑に行えないことが大きな問題です。私は避難所暮らしをしていませんので、実体験として上手く表現はできませんが、避難所生活をした視覚障害者はトイレから食事の問題・外出困難・視覚障害者にとって情報を得る手段がない等、たくさんの困難を抱えているそうです。

そして、視覚障害者の中でその困難を乗り切った方々は、日頃からしっかりとしたコミュニティーを持っていた方々です。これは、どんなツールよりも確実なものだったと考えられます。

私もその一人ですが、たとえばスーパーで買い物をしようとした時でも当初は品数が限られ、時間制限もあり、健常者でも苦労して買い物をしていたようです。私は普段からそのスーパーを利用していたので、スーパーのスタッフが私の言ったものをあっという間にそろえてくれます。このようなことは他の視覚障害者に聞いてもそうだったそうです。

もちろん、避難場所を家族で決めておいたり、非常食や飲料水を多めに買っておく等も大事ですが、障害者が地域にいることを知らせておくことが大事だと感じています。

先日、東北ブロックの視障協の団体長を集めて研修会をここ仙台で行い、荒浜(あらはま)再生を願う会の方の話を聞いたり、津波避難タワーに上り、仙台市の減災対策について学びました。

このように障害者自身が社会啓発を自ら行うことが、自身の減災にも繋(つな)がるものと思います。視覚障害者は、マッサージや鍼で痛みやこりをほぐし、病んだ心を癒すことができます。震災直後は、ボランティアで避難所にて治療をされていた方々がたくさんおります。これも大きな啓発活動です。

私は会長として、一人の視覚障害者として、今後も機会があるごとに視覚障害者の社会啓発に力を尽くしていきたいと考えています。

(たかはしひでのぶ 仙台市視覚障害者福祉協会会長)