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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年7月号

時代を読む81

初めてのテレビ字幕放送

テレビの字幕放送(当時の用語は文字多重放送)は、1983(昭和58)年10月3日、NHK連続テレビ小説『おしん』によって開始された。当時の日本聴力障害新聞は「まだ実用化試験の段階で当面東京、大阪地域に限られる。だが高嶺の花」と報じている。実は、京都の貧乏な私もこの字幕を見ることはできなかった。

字幕には二つの方式がある。一つは映像と字幕が一体となったスーパーインポーズ略して「スーパー」、もう一つはテレビ映像と字幕を分離して、視聴の必要に応じて映像に字幕をリモコン操作で「オン・オフ(出し入れ)」できる「字幕放送」である。

外国ものは吹き替えでなければ「スーパー」だが、かつて日本ものには字幕が付かず、テレビ番組は聴覚障害者に縁遠いものだった。全日本ろうあ連盟等はNHKなど放送局に字幕を付けることを長年要望していた。しかし、字幕は健聴者にとって目障りで、この矛盾を解決することが課題だった。そこでの発案が「字幕放送」で、それが前出の記事である。

しかし、当時は「オン・オフ」機能は標準規格でないので、一部の高価なテレビにしか付かない。だから別に、約10万円のアダプター(文字放送デコーダー)が必要になり、多くのろう者には高嶺の花だった。ここにも差別があるが、1994(平成6)年に厚生労働省がアダプターを日常生活用具と認め支給するようになり、やっと聴覚障害者もテレビを身近にできたのである。

阪神・淡路大震災では字幕がどのテレビにも出ず、聴覚障害者は大切な情報から取り残された。かくてはならじと、自ら放送局を持とうと民間企業と協力して衛星放送局「目で聴くテレビ」を創立、1998(平成10)年9月に放送開始。ところが、アナログ放送からデジタル放送に転換した時点で「オン・オフ」機能内蔵のデジタルテレビが標準規格となり、どのテレビでも「字幕放送」を見られるようになったが、字幕を全番組に付けるために、字幕の製作と発信の課題は残っている。

現在、問題となっているのは手話と視覚障害者の副音声放送である。どちらも「オン・オフ」できるテレビはない。そこで再度「目で聴くテレビ」は民間企業や科学者と協力して、「字幕・手話・副音声」の3点セットを「オン・オフ」できる技術を開発して、採用を国際電気通信連合(ITU)に働きかけた結果、国際標準規格H.702として認定された。ITU加盟国の日本はH.702を標準規格として、2020年東京オリンピックまでに全テレビに採用しなければならない。

IT世界はめざましく発展しているが、そこには常に、障害者の視点を欠くデジタルデバイドがある。障害者自らの放送局運営に困難は多いが「完全参加と平等」実現のために、世界唯一の実験放送局というべき「目で聴くテレビ」を「国際障害者放送局」に発展させる必要を痛感するこの頃である。

(高田英一(たかだえいいち) 全日本ろうあ連盟参与)