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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年7月号

当事者からの声

制度の狭間に置かれてしまう高齢障害者

大澤美紀

市役所からの「65歳を超えているので介護保険サービスを利用してください」という連絡を機に、長年の生活習慣の変更を余儀なくされたMさん。Mさんは、東京生まれ東京育ち、22歳の時に埼玉県に引っ越し、現在は1人暮らしをしています。20代中頃に統合失調症を発症。これまで2回の入院で15年もの入院生活を経験しました。精神障害者の地域生活をサポートするやどかりの里を利用するようになってから35年。再入院することなく、今年70歳を迎えます。

毎日起きてお弁当をつくり、自転車で駅まで出掛け、電車からバスに乗り換えてやどかりの里に到着。仲間や職員1人1人に声をかけながらあいさつ、そして活動に参加。この生活を35年続けています。しかし突然、介護保険に切り替えるよう行政からの指導が入り、Mさんは何のことだか理解できませんでした。やどかりの里の職員が障害福祉サービスの継続が必要だと市役所に伝えましたが、「介護保険サービスが充実している自治体なので、介護保険利用が優先です」との返答。

近隣の自治体では、「その人の障害特性に応じて」と、65歳を超えてもやどかりの里利用を継続している人がいます。転居すれば解決するかもしれませんが、長年住み慣れた場所を変えたくはありませんでした。介護保険申請、認定調査を受けた結果「要支援1」、週1回のデイサービスが利用できる程度の内容でした。

介護保険利用に切り替わることで、通所先が変わるだけでなく、35年間続けてきた週5日通所の生活もなくなってしまうということになります。35年前の在宅中心の生活に戻ることにもなりかねません。再発再入院のリスクも高くなります。

現在、障害福祉サービスの利用は手続き上終了となっていますが、やどかりの里の利用を続けながら、週1回の介護保険デイサービス利用の定着を試し、ホームヘルプサービスの利用も開始しているところです。Mさんが築いてきた長年の生活習慣を変えるには時間が必要ですが、制度上の経過措置はなく、また、障害特性に応じた対応の見直しもありません。

Mさんのような制度の狭間に置かれてしまう人たちを出さないためにも、年齢や障害の有無にかかわらず、生涯にわたり切れ目のない支援が受けられる制度が必要です。介護保険のあり方も考えていくべきではないでしょうか。そして活動拠点が生活圏ごとに整備されれば、65歳問題だけでなく、多くの地域課題の解決につながるはずです。

(おおざわみき サポートステーションやどかり)