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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年7月号

解説・障害者差別解消法 第2回

合理的配慮のポイント

川島聡

■合理的配慮とは何か

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下、解消法)は、不当な差別的取扱いとともに合理的配慮の不提供を禁止している。これらの2つの差別のうち、とりわけ理解が難しいと言われているのは、おそらく合理的配慮の不提供である。では、解消法における合理的配慮の概念とはどのようなものであろうか。

解消法は「合理的配慮」という言葉自体を用いていないため、その内容を理解するためにまず注目したいのが基本方針(6条)である。基本方針とは、政府が、差別解消に関する「施策を総合的かつ一体的に実施するため」、基本的な考え方を示したものである(2015年2月24日閣議決定)。また、基本方針に沿って作成された対応要領(9-10条)と対応指針(11条)も重要である。

対応要領とは、国・都道府県・市町村などの役所で働いている職員が差別禁止義務(7条)に適切に対応するために作成されるものである(国については法的義務、都道府県・市町村については努力義務)。役所の職員は、対応要領を守って仕事をしなければならない。

対応指針とは、レストランやバス会社などの事業者が差別禁止義務(8条)に適切に対応するために作成されるものである。事業者は、対応指針に沿って差別解消に向けて主体的に取組むことが期待されている。

以下においては、基本方針と対応指針などに適宜言及して、合理的配慮(の提供義務)がどのような概念であるかを理解するためのポイントを示したい。

■個々のニーズ、非過重負担、社会的障壁の除去

合理的配慮に関して、解消法7条2項は行政機関等の法的義務を、8条2項は事業者の努力義務をそれぞれ定める。だが、どちらも合理的配慮の概念それ自体は同じである。7条2項と8条2項の下で、行政機関等と事業者は、1.現に社会的障壁の除去に関するニーズを有する障害者からの「意思の表明」が存在する場合で、かつ、2.過重負担が存在しない場合に、3.権利利益侵害とならないよう、4.「社会的障壁の除去の実施について(の)必要かつ合理的な配慮」を提供する法的義務または努力義務を負うことになる。

ここでいう「社会的障壁の除去の実施について(の)必要かつ合理的な配慮」の略称が、「合理的配慮」である(内閣府のQ&A参照)。そして基本方針をみると、合理的配慮の内容というのは、基本的には、1.個々のニーズ、2.非過重負担、3.社会的障壁の除去、という3つの要素からなっていることが分かる。

まず、合理的配慮というのは、障害者の日常生活と社会生活の支障となっている障壁(社会的障壁)を除去するための措置だということができる(3)。ただ、社会的障壁を除去する措置がすべて合理的配慮だというわけではない。行政機関等と事業者は、過重負担を負ってしまうような場合には、社会的障壁を除去する必要はない(2)。基本方針によれば、過重負担の有無は、個別の事案ごとに、事業への影響の程度、費用の程度、実現可能性の程度などを考慮し、「具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断する」必要がある。

また、合理的配慮は、障害者一般(集団)のニーズを満たすために提供されるものではなく、個々の場面における特定個人のニーズを満たすために提供されるものである(1)。たとえばレストランが、来店する障害者一般のために入り口付近の段差をあらかじめなくしておくのは合理的配慮ではなく、事前的改善措置である。

合理的配慮とは、基本的には、障害者個人が特定のレストランに、段差という社会的障壁を除去してほしいと伝えた後に、レストラン側がそれを除去することをいう。合理的配慮は個別的・事後的性格を有するのに対して、事前的改善措置は集団的・事前的性格を有するのである。

■意向尊重、本来業務付随、機会平等、本質変更不可

基本方針を見ると、解消法の下で相手方が提供しなければならない合理的配慮は、(i)意向尊重、(ii)本来業務付随、(iii)機会平等、(iv)本質変更不可という条件――これらが前記の3要素(1・2・3)または他の要素にどう位置づけられるかは議論が必要であるが――を満たしたものであることが分かる。

(i)基本方針に含まれた「建設的対話による相互理解」という表現が含意するように、合理的配慮とは障害者の意向(プライバシー保護の意向を含む)を十分に尊重したものでなければならない。障害者の意向を尊重しないような対話は、「建設的対話」とはいえないし、「相互理解」にも至らないからだ。

(ii)合理的配慮は本来の業務に付随したものに限られる。この点、国土交通省の対応指針は、「例えば、医療行為など実施にあたって高度な専門知識や法令上の資格が必要とされる行為や、食事・排泄等の介助行為などは、国土交通省所管事業の本来の業務に付随するものとはいえず、合理的配慮の対象外と考えられる。」と指摘している。

(iii)障害者の機会平等を実質的に実現できないような非効果的な措置は合理的配慮ではない。もしそのような措置を講じれば、合理的配慮の提供義務に反するといえる。

(iv)合理的配慮は、事業の本質を変更するものではない。たとえば、暗闇での飲食を売りにするレストランは、聴覚障害者のために、手話用の明かりを用意する必要はないだろう。

(かわしまさとし 岡山理科大学総合情報学部社会情報学科准教授)