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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年9月号

民間の支援活動

生活支援における「つながりの回復」=「関係支援」が再犯を防ぐ

牧野賢一

特定非営利活動法人UCHI(うち)は、「生きにくさ」を抱えた軽度知的障がい、発達障がいのある人の「関係支援」を行うために2014年に創立、障害者総合支援法の共同生活援助(グループホーム)の事業を、神奈川県茅ヶ崎市と寒川町で開始した。

創立メンバーは、同じ地域で1997年より社会福祉法人のグループホーム設立から運営に携わり、多くの支援を必要とする軽度者との出会いによって、社会的孤立の在宅、入所施設、精神科病院、児童養護施設、矯正施設からの利用者の受け入れを行なってきた。そのなかで、彼らの「生きにくさ」に対して「関係支援」を、より機動力をもって取り組む必要性を感じ、社会福祉法人から独立することになった。

グループホーム「うち」は2016年8月1日現在、13住居(本体8、サテライト5)に、25人が入居している。療育手帳軽度(B2)所持が88%だが、障害程度区分の平均が3.32と高く、発達障害合併が28%で、多くの支援が必要な軽度者が中心である。一般就労率が72%、生活保護受給率が12%で就労による収入と障害基礎年金での自活の割合が多い。援護実施は、神奈川県12市町と県外1で、多くの支援を必要とする軽度者の受け皿は少なく、県内全域の受け皿となっている。

「関係障害」と「関係支援」

これまで罪を犯した人の受け入れは、成人7人、未成年3人の合計10人で、そのうち、矯正施設出所、退院(出口)は6人、起訴猶予、執行猶予(入口)は4人で、支援後の再犯率は30%だが、未成年及び犯歴なしか1犯の再犯率は0%、犯歴3犯以上の再犯率は100%と、罪を犯した人に早期に関わることの重要性を示している。

罪を犯した10人のうち、家族との問題を抱え、社会的に孤立していた人がほとんどである。幼い頃から家族関係不全が基盤にあり、(1)相手との関係がつくれない(相互関係障害)、(2)多くの相手との関係がつくれない(社会関係障害)、それらの関係不全を調整する支援がないことで、(3)生きていくために必要なことを決めることの関係がない(自己決定障害)という、「関係障害」を抱え、それがすなわち本人の「生きにくさ」になっている。

このように「生きにくさ」の原因になっている「関係障害」の解消に向けては、生活支援のなかで「関係支援」という観点からの取り組みが必要であり、それが再犯を防ぐという結果につながっていくものと考えている。

「うち」では、(1)相互関係をつくるために、1.話を聴く、受け止める、伝えるという精神的支援、2.その人のつながりを実感するための関係確認支援、3.つながりの中で問題解決する関係調整支援、(2)社会関係をつくるために、1.出会いと参加のきっかけをつくる移動支援、2.日中活動によって地域・社会との関係をつくるための交流支援、3.課題を地域・社会で共有するための表現支援、(3)自己決定するための、1.身近な関係の中での意思決定支援、2.多くのつながりの中での自己決定支援を「関係支援」として取り組んでいる。

「関係支援」と「自分史作成支援」

「関係支援」によって、「生きにくさ」を抱える人の生活の安心と安定の基盤が構築されると、まとまりかけた生活を自ら壊すことがあり、再犯はその行動の最も大きいものである。彼らの否定的な過去にあえて向き合い、これまでの自分を確認するなかで今の自分を再確認し、これからの自分に何が必要かを考える関わりをしたらどうか、それが自分史作成支援の出発点だった。

言葉に浮かんだ過去のエピソードを箇条書きで書き出す。本人と支援者はパソコンの画面に向かい、支援者が入力した言葉を画面で確認しながら語る。最後に時系列に並び替えると、自分の言葉で幼いころから今までがつながる。否定的な過去には、それを乗り越えたあなたがいると、支援者がその時思った言葉を伝え、そんな中で自分史作成の作業は進む。一度作って終わりではなく、節目節目で更新していく。前回語ったことがそれと異なる事実が綴られることがあるが、過去は人が関わることでそのありようが変化する。

罪を犯した人の自分史は、これまでに多くの人たちの前で発表の機会を与えられ、地域生活定着支援センター、社会福祉士会、NHK厚生文化事業団、東京大学など、彼らは初めて会った人たちの前で、自分の壮絶な人生を語る。

私が彼らと初めて会う場所は、アクリル板越しで隔たりを感じるが、出会ってみると罪名と本人の実像にも大きな隔たりを感じる。しかし、彼らの話を聴くと、自分との違いはその隔たりとは相反して小さなものに感じる。彼らは特別な人間ではなく、もし、自分がその境遇だったらそちらにいたかもしれないという実感である。自分史発表で、彼らは多くの人たちにそんな感動をもたらし、そうした反応から自分が多くの人にも受け入れられ、人の役に立つ存在であることを実感する時間である。

「つながりの回復」=「関係支援」

彼らは本当の声が届かないという孤立のなかで、「生きにくさ」を犯罪という手段で社会に伝えているのだと感じる。その意味で考えるなら、誰もが隠し持っている手段であり、たまたま私はアクリル板の向こう側にいなかったに過ぎない。「生きにくさ」の最大の要因は、本当の声を分かち合う関係が失われること。その「つながりの回復」=「関係支援」には、彼らと出会った人たちが、特別なことではなく誰しもが関われるものでなくてはならない。

(まきのけんいち 特定非営利活動法人UCHI理事長)