音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年9月号

生きにくさを抱えた人たちを福祉が支援するために
―かりいほ研修道場と支援者ネットワーク

石川恒

1 かりいほがたどり着いたところ

かりいほでは、生きにくさを抱えた人たち一人ひとりに応じた個別の生き直しの支援をしてきた。その実践の積み重ねから、生き直しの支援の目標を本人を良い人にするのではなく、本人が自分自身の人生を了解、納得することに置いた。さまざまな問題、困難を抱えていても、孤立させずに、その人なりの生活を支え続けることをかりいほの役割とした。

その取り組みでもっと支援が必要な人たちがはっきりしてきた。それはこれまでの人生で重荷を背負い、その重荷を下ろせずに必死に耐えている人たちの存在、そしてとても衝動性が強く、何度も同じ問題を繰り返し起こす人たちの存在である。

2 共生社会を創る愛の基金の助成事業

かりいほでは、平成24年から共生社会を創る愛の基金から助成金をいただき「生きにくさを抱えた知的障害者を支援し続けるための人材育成研修」を行なってきた。かりいほ利用者のこれまでの人生の語りを参加者が傾聴し、参加者に生きにくさの理解、支援について考える機会を提供する研修であるが、それは同時に、語る本人の生き直しの場でもあることが、語りを何度も行う中で分かってきた。

この4年間、語りを行なってきた人は、まさにこれまでの人生の重荷を背負い、その重荷を下ろすことができずに苦しみ続けてきた人である。語りを真剣に聞く参加者の存在は、語る本人をさらに語らせる。真剣に聞くことが本人を肯定することになる。それは福祉の現場における利用者と支援者の関係と同じである。語りは支援のひとつの大事な方法になることが分かった。

一方、衝動性が強く、何度も同じ問題を繰り返す人への対応は、かりいほというひとつの福祉事業所の支援の限界をはっきりさせた。問題が起きて生活し続けることが困難になった時、現状では自力で医療や司法、警察、そして他の福祉事業所などに助けを求めるしかない。それがうまくいかなければ利用者は居場所を失うことになる。事業所の孤立。これが現実である。事業所を孤立させない仕組みがほしい。そのためのネットワークを創(つく)ろう。これが平成27年から助成事業に加わった。

3 生きにくさを抱えた人たちを支援し続けるために

かりいほを運営する社会福祉法人紫野の会では、今年度二つの事業を行う。一つは常設での「かりいほ研修道場」の設置、もう一つは社会福祉法人武蔵野会と一緒に、東京都を中心にした一般社団法人「生きにくさを抱えた障害者等の支援者ネットワーク」の設立である。支援者や事業所を孤立させず、生きにくさを抱えた一人ひとりを支援し続けるための仕組みづくりである。

生きにくさを抱え、福祉の支援を必要としている人たちは、これまで福祉の支援を受けてこなかったか、受けても枠の決まった支援に適応を求められることになじまなかった人たちである。本人に必要な支援が提供されなければならない。本人の生きにくさを理解し、必要な支援を本人と支援者との関係の中で創り出さなければならない。

一つの事業所が苦しむのではなく、福祉事業所が本人の生活支援の中心になり、医療や司法、警察、さまざまな福祉事業所等と連携して、本人に必要な支援を創り出さなければならない。これは福祉が本人の生活、人生を支え、つきあい続ける、居場所になり続けるということである。

そのためにはどうするのか。困難に直面した時、その困難を打開するために必要なものは創り出す、みんなで英知を集めて創り出す、その覚悟の気持ちを私たち支援者が持つということなのだ。

○かりいほ研修道場

支援者も生きにくさを抱えた人と同じである。支援の中で孤立すればさまざまな問題を抱え込む。そこまでいかなくても、支援で悩むことは日常的にある。

かりいほ研修道場は、生きにくさを抱えた人たちを支援する人たちの交流の場であり、覚悟を定め、やる気をおこす場である。ここからさまざまな取り組みのアイデアが生まれ、支援の試みが始まる。障害者支援施設かりいほに常設する。

○一般社団法人「生きにくさを抱えた障害者等の支援者ネットワーク」

これまで東京都内を中心に、福祉関係事業所、矯正施設、弁護士、社会福祉士、報道関係、行政関係等の20以上の事業所、個人の参加で矯正施設の見学や研修会を重ね、一般社団法人で支援者ネットワークをつくることで合意した。現在、その設立準備を進めている。支援者や事業所を孤立させず、本人を支援し続けるためのネットワークである。必要な支援がなければ、参加事業所、個人の英知でそれを創り出すネットワークである。

私たちはどれだけ一人ひとりの生きにくさを抱えた人たちのことを理解しているのだろうか。これまでの福祉の支援では、生活を支えることが難しかった人たちだ。一人ひとりをしっかり理解しなければならない。そして、必要な支援を創り出さなければならない。今福祉に求められるのは、その覚悟と必要な支援を創り出す経験を福祉の現場が持つことだ。

(いしかわひさし 障害者支援施設かりいほ施設長)