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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年9月号

1000字提言

病名のつかない人びと3
「ニーズ」から出発する支援を

おしたようこ

私には不可解な癖がある。誰かに初めて聞く病名がついた、という話を見聞きすると、“その病気が指定難病なのかそうでないのか”反射的にスマホをいじって調べてしまうのだ。結果、3回に一度くらいしか指定難病にはお目にかかれない。自分の病気も含め、“指定難病ではないけど、難しげな病気”はまだまだ山ほどあるということだろう。

病名が何であれ、難治性の病気に苦しむ人たちが共通して訴えるのは“医療費の補助を受けたい”ということだ。それには「より安定して、より良い治療を受けたいから」以外にも理由がある。体力がない者は、日常生活を送るための体力をお金で買っている。「現金を支援してくれ」とは言えないので、医療費だけでも軽減されたら、それを他のところにまわしたい、というわけだ。

私の家事負担を劇的に楽にしてくれたのは、お掃除用モップのレンタルサービス(置き型掃除機つき)、乾燥機、食洗機、ネットスーパーや生協の個人宅配サービス…等々、巷(ちまた)にあふれる有料サービスや道具の数々だ。それらに助けてもらって家事に使う体力を減らし、布団で充電のできる時間を増やすことで、最低限の家事以外に自分が楽しむための時間を持てるようになってきた。

これを現行の制度にある居宅支援などで補うのは実は難しい。決まった曜日時刻にヘルパーさんが来て掃除をしてくれる、というサービス利用計画を立てたとしても、当日に低気圧が近づいてきたら、私は布団から這い上がれずインターホンに応答できず、その日はキャンセルになり掃除はできない…という具合だ。

介護保険では、人力でするサービスは1割負担。同様に、私が病気をきっかけに使いはじめたサービスや道具の利用料金がもし1割負担になったら、経済的にも少し楽になるし、家族に対する申し訳なさも少し軽減する気がする。

しかし今のところ、レンタルモップの月額使用料を1割負担にする、という斬新な『福祉サービス』は無い(と思う)。この国の福祉制度には、まず「病名」とか「障害名」とか、その人の社会的障壁につく名前が必要だ。そしてさらに、サービスのメニューはそれらの名前を想定して決められていて、支援してほしいことをそこに無理やりにでも当てはめないと利用できない。

線を引けば、内側と外側が必ずでき、その枠から外れる人がもれなく出るのだ。たとえ少数であっても、その結果“漏れた人”がこの社会に対して感じる疎外感は、とてもとても根が深い。「ニーズ」から出発する制度設計ができれば、病名がつかない人にも何らかの福祉サービスが手に届き、その深刻な疎外感すらも軽減されるのではないだろうか。


【プロフィール】

アラフォーの主婦。難治性慢性疼痛疾患である線維筋痛症等々の持病のために、家事はほぼ放棄して、布団の中でスマホと戯れていることが多い。時折布団から這い出して「(NPO)線維筋痛症友の会」理事、「今後の難病対策関西勉強会」実行委員、など、出会った人との縁のなかで見つけたいろんなことをして、ぼちぼち暮らしている。