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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年9月号

ひろがれ!AP(Asian&Pacific)ネットワーク

去る7月11日(月)から22日(金)まで、戸山サンライズ及び日本財団において、日本財団アジア太平洋パートナーシップ事業ワークショップが開催された。ワークショップに参加したダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業研修修了生のうち、3人の方に自国での活動を伺った。

フィリピン ろう者運動とフィリピン手話の確立

ラフィール・ドミンゴ〔2期生〕

私は、フィリピンろう連盟と大学における仕事を紹介します。どちらもフィリピン手話を言語として認めてもらう活動です。

ろう協―フィリピン手話を言語として認める活動

フィリピンのろう者は、日常会話ではフィリピン手話を使い、公的な場所(たとえば学校など)では、アメリカ手話(ASL)を使っています。

2011年に政府の教育関係の長官が、ろう学校ではASLを使用することを打ち出したことがきっかけで、ろう者が立ち上がり活動が活発になってきました。教育関係の法律の中で、フィリピン手話の使用について明記されているのですが、ろう者のコミュニケーションをきちんと保障するには、現在の教育関係の法律よりも上位の憲法のような法律に明記していこうと活動しています。

これがきっかけとなり、他の障害者団体も加わって、ろう教育だけでなく、障害児教育を変えようという検討会が発足しました。ろう者のほかに視覚障害や盲ろう者団体なども参加して、私も委員として参加しています。

手話通訳と司法に関して1つの動きがありました。それは、フィリピンでは、ろう女性が性的被害や暴力に遭うことが非常に多いのです。裁判の時の通訳は、被害を受けたろう女性の家族が行うことが多いのですが、家族内で使っている手話など、きちんとした手話通訳ではないために、ろう女性が裁判の場でうまくコミュニケーションが取れないという問題があります。

私たちは手話通訳を付けてほしいと要望していたのですが、なかなか手話通訳を付けてくれませんでした。しかし、今年3月に、2人の手話通訳者が司法の場に雇われました。報酬もきちんと支払われることになりました。被害を受けたろう女性はとても多いので、2人の手話通訳ではまだまだ人数が足りませんが、この制度ができたことにより、裁判の件数が増え、手話通訳の有用性が認められれば、手話通訳者の数が増えるのではないかと期待しています。

現在、ろう学校では、ほとんどASLが使われています。フィリピン手話の資料をきちんと作成し、教育の現場から政府に要望を出して、政府から資金を出してもらい、作成した資料を各学校に配布していきたいと考えています。将来的には、教育の場で使用されている手話をASLからフィリピン手話に変えていきたいと思っています。

大学での研究―料理の専門用語を手話にする

次は、大学の仕事についてです。私が大学で学んでいた時は、手話通訳の制度がありませんでした。大学内にろう者のユニットがあり、ろう者は聴者とは別にそこで学んでいました。大学卒業後、私は大学のろう学生のサポートセンターで働くことになりました。そこで、ろう学生を集めて料理や絵画、ITなどを学びたい学生が手話通訳を付けて授業を受けられるよう大学と交渉して、手話通訳を付けてもらえることになりました。費用は、大学が支払います。しかし、料理コースの授業の時に料理の専門用語に対応する手話がないために、手話通訳者が指文字ばかりを使うという問題が起こりました。

現在の私の仕事の1つは、料理コースの授業で必要となる単語を集めて手話を作る研究をしています。まず単語の意味を考えて表現し、それをろうの仲間たちと確認しています。仲間たちとの検討が終わった後は、手話のうまい人やホテルで働いている人など有識者に手話を見てもらって、その手話が適切かどうか分析しています。

新たなプロジェクト

今年から、2年後に私立の高校をつくるプロジェクトが始まりました。ろう学校でASLを使用していることは、先ほどお話しましたが、新しく作る高校では、手話とのバイリンガル教育を進めようとしています。このプロジェクトは日本財団の支援を受けて行うことになっています。

フィリピンの高校は、日本でいう中・高の6年間にあたります。私が担当するのは、前半の3年間(中学1年~3年まで)でフィリピン手話のカリキュラムを作ることです。この高校をモデル校として、5年後に成果を示すことができたら、公立校がカリキュラムを取り入れていくのではないかと思っています。

待っているのではなく、まず、私たちがカリキュラムを作り、それを提示して、これに対してきちんと支援をしてください、という進め方をしたいと考えています。

(まとめ 編集部)