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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年9月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

TOMODACHI ADA LEAD ON! TOUR Japan Series 2016

冨川功喬

「本当に帰ってしまうのだなあ」と嘆息したのは、成田空港で出国審査を受けているアメリカユースメンバーの後ろ姿を、最後の最後まで見送った時のことでした。10日間ほどの濃密なスケジュールを共に駆け抜け、ほっとすると同時に、彼らとつくりあげた時間がいかにかけがえのないものであったかに気付き、何ともいえず寂しい思いをしたのです。

昨年から日米若手障害者交流セミナーとして、日米の交流プログラムを実施しています。昨夏は「TOMODACHI ADA25 LEAD ON! Tour」と題して、日本の若手障害当事者・介助者・スタッフを含めた66人が自立生活運動発祥の地であるアメリカを訪問し、ADA25周年企画に参加し、学び、交流を深めてきました。この訪米は米国の人々にとって、あたかも黒船(日本からの訪米ですから白船でしょうか)が来た!というような大きなインパクトを残したそうです。今年は6月27日~7月6日まで、「TOMODACHI ADA LEAD ON! TOUR Japan Series 2016」と銘打って、アメリカから若手障害当事者5人とシニアリーダー2人を迎える企画を実施しました(写真1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

目的は3つです。1つ目は、日米の若手当事者リーダーの交流を促進し、ネットワークをつくること。2つ目は、アメリカでの自立生活運動の現状やADAの取り組みを学ぶこと。3つ目は、日本の自立生活センターの取り組みをアメリカの皆さんに見ていただくことです。教える、教えられるという関係を越えて、お互いの活動から共に学びあうことを目指しています。

来日プログラムは大きく3つで構成しました。全国自立生活センター協議会(JIL)の総会への参加、各地の自立生活センターの訪問、被災地の訪問です。JIL総会では、全国から集まった350人の自立生活センターのスタッフと交流し、全米自立生活センター協議会(NCIL)事務局長ケリー・バックランドさんにアメリカの自立生活運動の現状を、アクセスリビング副代表デイジー・フェイトさんには自立生活センターの取り組みを講演していただきました。さらに、メインストリーム協会が支援しているコスタリカの自立生活センター・モルフォから事務局長のウェンディさんも参加してくださり、障害者自立法を成立させるために今年取り組んだCosta Rica TRYの取り組みをお聞きすることができました。日本の支援とともに、自立生活運動が世界に広がっている様子をアメリカの皆さんにも知っていただくことができました。さらに、日本のユースの企画による日米の運動を語り合う分科会も実施しました(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

JIL総会の後、ユースメンバーは1人ずつ全国の自立生活センターへと向かいました。日本の自立生活センターがどのような取り組みを行なっているのかを見ていただき、さらに、アメリカでの取り組みも報告してもらいました。各センターが全力で交流を盛り上げてくださり、とても仲良くなり、本当に良いプログラムとなりました。

その後は、仙台に集合し、CILたすけっとの全面的な協力をいただき、東日本大震災の被災地を訪問しました。津波がきた被災地を訪れ、被災者から直接話を伺うことができました。さらに、被災地障害者センターの取り組みなどもお聞きすることができました。NCILでは今後、防災への取り組みを強化するそうで、活発な意見交換が行われました。自然災害の多い日本ならではの経験やアイデアを伝えることができ、皆さん熱心に聞いていました。

ツアーの締めくくりとして、7月6日(水)に東京で報告会を行いました。助成をいただいた米日カウンシル―ジャパンTOMODACHI INITIATIVEにもご出席を賜り、ユース一人ひとりの熱のこもった報告を聞いていただきました。彼らが日本で何を感じ、これからの活動にどうつなげていくかという決意に、一事務局員である私も心を強く揺さぶられました。最後に、DPI日本会議事務局長の佐藤聡(さとうさとし)が、日本の自立生活センターが実施している途上国の自立生活センター支援のプレゼンテーションを行いました。当事者による当事者支援によって世界に広がる自立生活運動について、ユースメンバーは深い感銘を受けたそうです。

以上が本ツアーのプログラムです。10日間で実施されたとはとても思えないほど、密度の高いものであったことがお分かりいただけると思います。アメリカのメンバーたちは、慣れない国での活動でとても疲れたのではないかと思われますが、遅刻をすることもなくしっかりと、そして楽しみながら謙虚に、みんなで学ぶという姿勢を崩さずツアープログラムに参加していました。その精神力はまさに圧巻の一言です。

彼らは何事からも学ぼうとしていましたし、メンバー同士を思いやる優しさや連帯感がとても印象的でした。1つエピソードをご紹介します。

JIL総会に参加するために浜松へ向かう途中、都内で電車に乗ろうとした時のことです。通勤時間帯にぶつかってしまい、駅構内と車内は超満員でした。駅員さんに誘導されつつも、乗る電車を何本か見送らされ、やっとの思いで乗車となりました。車内は限度を超えた満員です。人々の持っている鞄(かばん)やリュックは、ちょうど車いすユーザーの顔の高さです。電車の発進・停車時には鞄が揺れ、彼らの顔を押しつぶしそうになって肝を冷やす場面が何度もありました。

障害のため、自分の力では鞄を払いのけることができない人がいました。私の手が届かないところだったので、私は乗客に注意喚起をする程度のことしかできないでいました。しかし、とうとう彼の顔に鞄が当たるのではないかというその瞬間、鞄を手で制止したのはユースメンバーその人でした。下車をして、日本の電車利用に際する現状について話し合っていると、「We enjoy!楽しんでいるよ。何でも勉強になる」と言ったのです。私のアメリカ人のイメージの中には、個人主義的で自国文化至上主義的なところがあると思っていたのですが、彼らは仲間に配慮をし、どんな事柄からも学びを見出そうとしていました。

こういった態度はそこかしこに散見され、ユース同士のミーティングの時も、誰もが平等に話すことができるように、時間配分を考えて発言の機会を調整していました。みんなで団結することの大切さを心の髄から分かっているかのようでした。そういえばカラオケに行った時も、マイクを平等に回して歌って、みんなで盛り上がっていましたね。遊びの場面でもそういった気遣いがみられるというのは、なんだか本当に優しさを感じてしまいました(写真3)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

さて、今年の取り組みは次へと続きます。2017年7月には、ワシントンDCにとうとう世界中のILセンターを招いてグローバルILサミットを開催することが決定しました。運動に身をやつす世界中の活動家が一堂に会し、地球規模のILネットワークを形成しようというものです。彼らの優しさや熱い志がつながる舞台ができると思うと、今からとてもワクワクしませんか?そんな気持ちを胸に抱いて、本サミットの開催地であるアメリカでこの原稿を書いています。

ぜひ皆さん、来年の夏には一緒にアメリカへ行って世界中のリーダーと志を共にしましょう!

LEAD ON!

(とみかわあつのぶ 全国自立生活センター協議会)