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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年9月号

列島縦断ネットワーキング【鳥取】

「手話を広める知事の会」設立!
~手話の普及と聴覚障がい者の更なる自立・社会参加の実現を目指して~

鳥取県障がい福祉課

1 はじめに

「我々は『手話を広める知事の会』を設立し、手話がろう者とろう者以外の人達とのかけ橋となり、ろう者の人権が尊重され、互いを理解し、共生する地域社会を実現していくことをここに宣言する」。

平成28年7月21日、東京都永田町の参議院議員会館の一室において、「手話を広める知事の会」の設立が高らかに宣言されました。【写真1】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

2 鳥取県のご紹介

わが鳥取県の平井伸治(ひらいしんじ)知事は、「スタバはないけど日本一のスナバ(鳥取砂丘)はある」をはじめとするダジャレでも有名ですが、全国で初めて手話を言語として認めた手話言語条例を制定した知事としても一目置かれています。

平成25年10月に「鳥取県手話言語条例」を、全国のトップを切って制定して以降、鳥取県では、1.手話の普及、ろう者に対する理解促進、2.手話を使いやすい環境整備の考え方を基本としたさまざまな取組を実施しています。たとえば、県民の方々を対象としたミニ手話講座の開催、企業等が手話学習会を開催する場合の経費の助成、タブレット型端末を活用した遠隔手話通訳サービス・電話リレーサービス、県内の学校の児童生徒・先生への手話ハンドブックの配付、全国高校生手話パフォーマンス甲子園の開催、等々。学生時代にボランティアで手話に触れていた平井知事の、手話や障がい福祉に対する理解の深さが、このような取組の推進に影響していると思います。

手話言語条例制定後、イベント等への手話通訳者の派遣依頼や手話検定受験者が増加するとともに、ろう者からも、手話が認められたことはろう者が認められたこと、自信がついた、というような声が寄せられました。県民の意識が、少しずつですが変わってきていると実感しています。

3 「手話を広める知事の会」設立の経緯

他の自治体においても同様の手話言語条例が次々と制定され、全国に広がってきています。7月15日時点で52自治体が条例を制定しています。(※注1)

また、手話言語法(仮称。以下「法」という)の制定を国に求める意見書は、平成28年3月3日に1,788のすべての自治体議会で採択され、法制定に向けた機運が一気に高まりましたが、国の動きは慎重でした。

そんな中、障がい福祉分野で先駆的な取組を進める鳥取県に以前から注目し、ご支援くださっていた一般財団法人全日本ろうあ連盟から、当県知事に次のような相談がありました。

「国に対し、法制定を全国一丸となって働きかけてほしい。また日本全国に手話の普及を推進し、手話を使いやすい社会環境づくりの機運を高めるため、都道府県知事によるネットワークを立ち上げてくれないか。そしてそのリーダーシップを鳥取県に任せたい」

切実なこの思いに応えるため、あらためて全日本ろうあ連盟、日本財団、鳥取県聴覚障害者協会、そして鳥取県が集まって話し合い、知事によるネットワークの設立に向けて動き出すことを決めました。

鳥取県知事だけではネットワークになりません。他の都道府県知事の賛同が必要です。当時、近く手話言語条例の制定を予定しておられ、また、鳥取県から全国に展開している「あいサポート運動」(※注2)において鳥取県と協定を締結していた長野県知事にまずお話をし、賛同をいただいた後に、全国の都道府県知事に働きかけを行いました。

4 「手話を広める知事の会」及び「全国手話言語市区長会」設立

都道府県知事のネットワークより一足早く、全国の賛同市区町村長を会員とする「全国手話言語市区長会」が、6月8日に設立されました。全国で2番目に手話言語条例を制定された、北海道石狩市の田岡克介(たおかかつすけ)市長が会長となられ、設立当日までに250市区町村長が入会されました。当県知事は顧問に任命され、当日開催された手話言語フォーラムでは、ビデオメッセージにより設立をお祝いしました。なお、その後会員数は徐々に増えているようです。

全国手話言語市区長会を追いかけるように、その約1月半後の7月21日、全国の賛同知事によるネットワーク「手話を広める知事の会」が設立しました。全国に賛同を呼びかけた期間がとても短かったにもかかわらず、皆様の深いご理解と、全日本ろうあ連盟や関係団体の方々の熱心な働きかけにより、設立当日には、半数以上の33知事が入会してくださいました。なお、その後もさらに2知事の入会があり、現時点、会員は35知事となっています。

会長は当県知事、副会長に阿部守一(あべしゅいち)長野県知事と鈴木英敬(すずきえいけい)三重県知事、顧問には笹川陽平(ささかわようへい)日本財団会長、相談役には石野富志三郎(いしのふじさぶろう)全日本ろうあ連盟理事長と田岡石狩市長(全国手話言語市区長会会長)という強力な役員体制が成立しました。そして、全日本ろうあ連盟及び日本財団の多大なるご支援もいただき、7月21日に、設立総会・イベントを開催することができました。

設立イベント会場は、370人を超える方々が参集し、熱気に包まれました。その中で力強く発表されたのが、冒頭の「設立宣言」です。

当初、設立宣言は、阿部長野県知事お一人に発表していただく予定でした。しかし、阿部知事から、聴覚障がいのある人もない人も共生する社会を目指すという観点であるなら、ろうの方と一緒に宣言したい、と、社会福祉法人長野県聴覚障害者協会の井手(いで)理事長及び本木(もとき)副理事長にも呼びかけられ、3人による発表となりました。まさにろう者と聞こえる者との共生を目指す宣言となりました。【写真2】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

午前中の設立イベントでは、笹川日本財団会長の記念講演、久松三二(ひさまつみつじ)全日本ろうあ連盟事務局長の基調報告、平井知事による手話言語条例制定県としての事例発表等も行いました。笹川日本財団会長は、「手話は言語!」と大きく書かれたオレンジ色のうちわを終始掲げながら、法の早期制定を強く訴えられました。平井知事は、手話を広める知事の会会長挨拶として、皆で一緒に手話革命を起こしましょうと呼びかけました。【写真3】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

午後は、全日本ろうあ連盟主催による手話言語フォーラムが開催され、藤井克徳(ふじいかつのり)日本障害フォーラム幹事会議長のご挨拶、群馬県、埼玉県、沖縄県、神奈川県の手話言語条例制定県による事例発表、井手裕彦(いでひろひこ)読売新聞大阪支社編集委員のミニ講演、そして、泉房穂(いずみふさほ)明石市長が事務局長を務められる全国手話言語市区長会の取組を報告されました。

藤井日本障害フォーラム幹事会議長は、今年の夏は手話にとって、コミュニケーション問題にとって、変化のあった夏だったと言えるようにしようと呼びかけられました。また、国会議員の方々もたくさんおいでくださり、出演者の訴えに対し、皆で力を合わせてがんばりましょうと、力強いお言葉をくださり、会の設立を盛り上げてくださいました。

最後の総括として、石野全日本ろうあ連盟理事長が、全日本ろうあ連盟が来年創立70周年を迎えることを踏まえ、県民の意識が手話言語条例の制定前と制定後で大きく変わったように、一つ一つ、成果を国政に求めていきたい、一緒に頑張りたいと締めくくられました。

5 今後の取組

「全国手話言語市区長会」が設立され、「手話を広める知事の会」が立ち上がりました。これから、よりよい社会を築くための具体的な取組を検討していきます。今後は全国手話言語市区長会とも連携を図りつつ、各自治体の手話に関する取組状況を共有しながら、更なる施策の展開につなげるとともに、法制定を一体となって国に働きかけることにより、もっと手話が使いやすい社会環境、またろう者もろう者以外の人たちも、共に暮らしやすい共生社会の更なる実現を目指し、会員一体となって、力強く手話革命を起こしていきたいと思います。


※注1…全日本ろうあ連盟HP引用

※注2…平成21年11月に鳥取県で始めた運動。多様な障がいの特性、困っていること、必要な配慮などを理解し、障がいのある方に対するちょっとした手助けや配慮を通じて、障がいのある方が暮らしやすい地域社会(共生社会)を県民とともにつくる運動。