音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年11月号

1000字提言

当事者へは居場所を 介護者へは支えを

柴本礼

平凡に暮らしていた13年前、当時43歳だった夫がくも膜下出血を起こし、高次脳機能障害という後遺症が残った。この障害は脳卒中や交通事故などが原因となる中途障害であるから、誰でもいつでもわが身となる「身近な障害」である。2年半にわたる真っ暗闇の日々からやっとこさ抜け出てきた私は6年前に『日々コウジ中』(主婦の友社)を書き、現在は講演で日本各地を回ったり、当事者とその家族からなる「コウジ村」という家族会を作って活動したり、ブログで相談に乗ったりしている。

各地に家族会ができ始めた20年以上前は、この障害に関する情報はおろか本すらなかったというが、夫がこの障害者になった時も少なかった。その中で、中島恵子氏の『脳の障害と向き合おう!』(ゴマブックス)は手垢がつくほど読み、周囲から夫の障害を理解されずに孤立していた私は、ユーモラスなキャラクターの「脳くん」に癒され、「私の友達は脳くんだけだ」とさえ思った。この時漫画やユーモアの持つ力を知った私は講演の度に、当事者やその家族に、特にユーモアの大切さを説いている。ユーモアとはすなわち、つらい状況を上から見下ろして笑い飛ばせる、心のゆとりだからだ。そのほか「時の経過」や「仲間」も、当事者家族には味方となる。

今は関係書籍や講演・勉強会も増え、当事者家族のブログも盛んで、情報が格段に入りやすくなった。全都道府県に高次脳機能障害支援拠点機関が置かれ、支援コーディネーター制度もできた。さらに精神科医のみならず脳外科医やリハビリ医などが診断書を書けるようになるなど、この障害を支援する制度は充実化の一途を辿っているかのように見える。

だが、国内に50万人いるという調査結果は今から8年も前のものであるし、1年に増える当事者の数は3千人という人もいれば1万人という人もいて、最近ははっきりしたデータがない。6年前に『日々コウジ中』内で示した数々の問題がそのまま今の社会で通じること、また在庫切れのまま増刷もされないことは、社会の関心の低さを示し、落胆している。

さて、当事者家族として私が特に必要だと感じてきたものは、「当事者の居場所」と「介護者への支え」である。居場所とは理解ある会社、学校、リハビリを兼ねたデイサービス・作業所、グループホームなど、そして家庭も含まれる(この障害を負うと妻から離婚されたり、家族からさえ理解されない場合もある)。せっかく助かった命を再び輝かせる場所が必要であるのだが、まだまだ足りていない。

また障害や病気を負う本人にばかり支援の目が向くが、実はその隣にいる疲れた介護者の方こそ支えが必要なのではないだろうか、と思っている。介護者が健康な精神でいなければ、当事者も元気になれないからだ。これについては、次回に書きたい。


【プロフィール】

しばもとれい。1963年生まれ。イラストレーターとして仕事をしていた2004年に、夫がくも膜下出血から高次脳機能障害を負う。夫のリハビリと社会復帰を支えたあと、主婦の友社よりコミックエッセイ『日々コウジ中』『続・日々コウジ中』を出版。現在は家族会「コウジ村」の代表を務めつつ、講演活動を行なっている。