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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年5月号

トラブルあってのトラベル☆
~だから楽しい~

海老原宏美

旅が好きです。普段のルーティンな日常から飛び出し、何が起こるか、どんな人と出会うか予測のつかない「非日常」は、生きていくのに欠かせない刺激です。いつもと違う環境、文化に身を置くことで、普段の自分の考え方や価値観をあらためて感じ直すことができたり、「自分の不安や悩みも、この世界の広さから見たら大したことないなぁ!」とリフレッシュできます。

国内ももちろんおもしろいですが、海外のおもしろさはやっぱり比べものにならないです。

暑い国の人たちはグダグダとマイペースで時間にルーズだし、アジアの人たちはとにかくご飯が大事。自分の意見を積極的に伝えていかないとあっという間に置いていかれちゃう国、トイレが常にビチャビチャでも全く気にしない国、すぐ傍らをでかいゴキブリが横断してもスルーな国など…。

日本という国の、日本ならではの価値観の中にいると「こういう人はおかしい。排除すべきだ」なんてことでも、世界を見ればさまざまな人たちがいるのが当たり前。

中学2年に上がる春休みの初海外旅行だったオーストラリアを皮切りに、ヨーロッパ、中央アジア、中東、アメリカなど10か国以上を訪れました。海外旅行自体は20回くらいになります。

でも、「旅をしたい」とは言うものの、一筋縄ではいきません。一番の問題は、人工呼吸器。国内線は最近は航空会社の対応もずいぶん慣れてきましたが、国際線では人工呼吸器をつなげて飛行機に乗る人って、まだほとんどいないのです。だからどの航空会社も、ほとんど呼吸器ユーザーを乗せた実績がなく、直前で予約がキャンセルになることも。機内では車いすから降りて座席に移らなければならないし、バッテリーの扱いでもめることもしょっちゅう。でも、トラブルなくスムーズにこなせた時の達成感!クセになります(笑)。

ホテルに到着したら、ベッドを90度回転させて狭いツインルームでも車いすで動きやすい広さを作り出し、トイレやお風呂の介助体制をどうするか、自宅とは違うので、配置や広さを見てイメージトレーニング。

お風呂に浴槽がない場合には、トイレに座り、その上からじゃぶじゃぶお湯をかぶって入浴します。荷物は、ホテルのタンスやクローゼットに全部移します。スーツケースの開け閉め、出し入れを極限まで少なくすることによって、介助の負担も大幅に違うのです。寝るのも一苦労。私の身体は側弯(そくわん)が強いので、普通のマットレスだと、突起している背骨や尾骨があっという間に真っ赤になって褥瘡(じょくそう)の一歩手前までいってしまうのですが、飛行機内でよく使われるエアーピロウを体の凹凸にうまく合わせると、かなり圧力分散されていい感じだと発見しました。

また、ホテルの布団は重すぎるので、自分の着替え用の服なんかをバサバサかけて毛布代わりにします。そんなふうに、普段、自分の家とは全然違う環境のホテルをどう使いこなすか試行錯誤することも、一期一会的な旅の醍醐味です。

何でそこまで苦労して旅するの!?と言われることもあります。確かに、旅すればするほど障害も重度化するし、住み慣れた環境で生活するよりリスクも高いです。でも、そんな非日常の中での小さな出会いや成功体験が、私を旅の虜にするのです。

日本人と違って、道ですれ違う時に「Hi!」と笑顔で手を振ってくれる人、バリアフルな街で困っている時にさっと手を貸してくれる人、だんだん車いすの扱いに慣れてきて介助したがるホテルマン、「呼吸器の人は初めて出会うよ!」といろいろ質問してくるタクシー運転手、男たちがいなくなると、急におしゃべりに花を咲かせるイスラムの女性たち、「ねぇねぇ、バッタ捕まえたからあげるね!」と車いすにも全く怯まずひと懐っこく寄ってくる子どもたち…。障害者である前に1人の個性的な人間でしかない、というシンプルな事実を再認識し、なんだかほっこりできることが、海外の方が多い気がします。

最近は、「安全・安心」を売りにした障害者向けの旅行会社が結構増えてきています。でも、私は、日常と環境が違う旅にはトラブルやリスクがつきものだと思っているし、時にはバリアを楽しむということが、旅の醍醐味だとさえ思っているのです。自分が、なぜその旅先に行きたいか、自分の体調はどうか、障害についてのサポートはどれくらい必要か、絶対なければならない配慮と、あったらうれしい程度の配慮はどんなことか、我慢できるレベルのバリアは?自分で対処できるリスクは?それらを自分で把握した上で「本当に行きたい!」と思っているのであれば、リスクは、どうにでも楽しめるものになります。そして、見知らぬ土地でのさまざまな不安は、結局、「どうにかなる!」のです。どこまででも多様性を受け入れられるでっかい人間になるためにも、もっともっと、旅を通して世界を見たいのです。

(えびはらひろみ 自立生活センター東大和理事長)