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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年5月号

障害のある方の旅行参加推進に向けて
―旅行業界の取り組み

田中穂積

日本旅行業協会では、障害者差別解消法が公布されて間もなく、「障害者差別解消法特別委員会」を設置し、全国旅行業協会や日本添乗サービス協会と連携しながら、旅行業全体として同法の施行にどのように向き合い、どういった対策や対応をすべきか協議しました。

また、旅行業の対応指針策定にも積極的に参画、監督官庁である観光庁や国交省はもちろん、内閣府や障害者団体の方々とも意見交換をさせていただきました。

障害者差別解消法の施行を前に

まずは同法の施行について、旅行業は積極的かつ適切に対応するという方針のもと、委員会を進めることとしました。少子高齢化や人口減少、若者の旅行離れ、さらにはネット社会の成熟や海外OTA(オンライン・トラベル・エージェント)の台頭、海外におけるテロの続発など、旅行業への向かい風ばかりですが、今回の施行を機に、今まで旅行参加に躊躇(ちゅうちょ)されていたご高齢の方や心身などに障害をおもちの方、ご病気をおもちの方々の旅行参加意欲の向上につながってほしい、というのが旅行に携わる事業者の共通の思いであることが確認されました。

また、障害者団体や一般消費者と意見交換する中で、旅行業界が誤解されていることも痛感しました。一般的な旅行会社は、直接お客様にサービスを提供する立場になく、ほとんどが運送宿泊機関や観光施設、各種観光施設の手配、それらを組み合わせた旅行の企画販売を生業としておりますが、この辺りが一般消費者には十分認識されていないことから、旅行会社への過度な期待、過剰な要求につながり、旅行業が対応できない内容を求められるケースがあります。

こういった方針や背景を基に、委員会では同法の趣旨や目的から業界としての対応について、情報発信など働きかけを業界に向けて行いましたが、もともと当協会では「ユニバーサル・ツーリズムの推進」を目的とした部会を設け、各種啓発やセミナー・勉強会を日本全国で実施するなど、旅行会社の意識改革を図っていました。さらに、特別な配慮やお手伝いを要する旅行者への対応マニュアルやチェックリストを作成し、旅行会社がより積極的に「ユニバーサル・ツーリズム」に取り組むことを後押ししてまいりましたので、基本的な取り組みは、この活動を発展深化させることとしました。

旅行業全体での取り組み

同法への対応として、まずは対応指針策定に関する検討を行いましたが、業界のみならず障害者や一般消費者の方々のご意見ご要望をできるだけ反映させ、「お客様のご要望をしっかりとお伺いし、旅行のプロとしてのご案内やお手伝いをしっかりしましょう」という姿勢に基づいた対応指針となるよう観光庁に働きかけました。この姿勢は同法が施行されるからではなく、もともと旅行業が得意としたお客様対応で、その原点に改めて戻りましょう、という姿勢です。

次に行なったのが、旅行会社の店舗や現場に向けた業界向けの「手引き」の編纂(さん)です。この作業において委員会が心掛けたのが、前述のような姿勢をベースとした「障がいのある方の旅行参加を推進するための手引き」とすることと、障害者差別解消法の趣旨のみならず、その施行の背景までもご理解いただけるようなものとすることです。また、お客様との最初の接点であるお申し込みや受付時の対応方法、旅行前の手配や旅行中のお客様対応についても解説するなど、実際のお客様対応を想定してのマニュアルと致しました。

「手引き」完成後は、日本旅行業協会と全国旅行業協会のホームページで会員旅行会社に開示し、さらに製本したものを携えて日本全国で説明会を実施しましたが、各会場ともほぼ定員を満たす盛況で、これはある意味で旅行会社の“不安”の表れと思われました。当協会としては少しでもこの “不安”を払しょくし、より実践に即した解説を加えることで、前向きに対応してもらう、逆のベクトルにしていくセミナーと致しました。また、説明会で寄せられた質問や問い合わせを取りまとめ、「手引き」の改訂版に盛り込むこととしました。

さらに同法では相談窓口の設置を求めていますが、旅行業ではそれぞれの会社が「お客様相談窓口」を設置するほか、当協会のみならず全国旅行業協会でも「消費者相談窓口」を設置しており、一般消費者の方々からのお問い合わせや相談には対応できる体制ができておりましたが、会員旅行会社が相談できる窓口が必要であると、日本旅行業協会と全国旅行業協会で「障害者差別解消法相談窓口」を設置し、旅行会社からの相談を受け付けています。

共生社会の実現に向けて

障害者差別解消法が施行されて1年となりますが、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、社会的関心からニーズがますます高まる中、引き続き当協会では、業界向けセミナーやシンポジウムの開催を通じて、同法が目的とする共生社会の実現に向け、「ひとりでも多くの方に旅を楽しんでいただくために」をスローガンに、旅行業が取り組むべき対応について検討していきます。

(たなかほづみ 一般社団法人日本旅行業協会 障害者差別解消法特別委員会副委員長)