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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年5月号

食物アレルギー対応ツアーへの取り組み

鎌田直美

沖縄県では、2007年2月に全国に先駆けて「沖縄観光バリアフリー宣言」を発表し、“誰もが安心して楽しめるやさしい観光地”を目指して観光のバリアフリー化に取り組んでいる。

食物アレルギーへの対応は、2007年にモニターツアーを受け入れた久米島で地域事業者の連携による先進的な取り組みが行われており、その取り組みは沖縄本島の南城市など他の地域にも広がっている。2015年6月には、県内の宿泊・飲食業者に対して食物アレルギー対応を支援する一般社団法人アレルギー対応沖縄サポートデスク(以下「サポートデスク」)が設立された。沖縄ツーリスト代表取締役会長の東良和(ひがしよしかず)が、代表理事を務めている。まずは、サポートデスクの取り組みについてご紹介したい。

沖縄には年間約44万人の修学旅行生が訪れる。小中高生の約5%(注1)、つまり20人に1人が何らかの食物アレルギーであると言われており、年間2万人強のアレルギー児を受け入れていることになる。沖縄県全体の入域観光客数も2015年に776万人と初めて700万人の大台を超え、2016年は861万人と右肩上がりに増加していることから、宿泊・飲食事業者にとって食物アレルギーへの対応は重要な分野である。しかし、食物アレルギーへの対応に漠然と「何かあったら怖い」「大変」といったイメージを抱く場合も少なくない。

そこで、サポートデスクでは、事業者にとって食物アレルギー対応をより安心で取り組みやすいものにするために、専門家による食物アレルギーについての講習や料理教室を開くなど、知識の普及、ノウハウの構築と共有に努めている。将来的には、事業者に供給できるアレルギー対応食のセントラルキッチン(集中調理施設)設立構想もあり、2020年までに沖縄をアジアに誇る食物アレルギー対応の先進観光リゾートにしたいと考えている。

このような取り組みを背景に、沖縄ツーリストでは今年、「旅行部門の社員全員が食物アレルギーの基礎知識を蓄えること」を会社の重点的な取り組み事項に掲げ、社員に対する研修を行なっている。また、東京支店では、アレルギー児とその家族も安心して参加できる「食物アレルギー対応ツアー」を実施している。

このツアーでは、旅行中のすべての食事で代表的アレルゲン10品目(乳、小麦、卵、そば、落花生、エビ、カニ、ゴマ、大豆、ナッツ類)を除去したメニューを提供している。さらに、すべての食事について原材料、調味料を調べ、メニューブックにして出発までに参加者に配布している。これにより、参加者は安心して食事を楽しむことができる。

メニューの開発においても、メニュー案の確認やアレルギー対応の調味料提案など、施設側との協力、連携は欠かせない。客室の寝具やアメニティも使用素材や成分を事前にお客様へ開示する。さらに、食後は1時間程度の休憩をとるなど、行程を組む上でも配慮を欠かさない。また、事前に現地の専門医とも連絡をとるなど緊急時の対応への準備も行う。

これらは、一般のツアーよりも入念な準備ではある。しかし、担当者は、ツアー当日、お客様が喜んで食事をしているのを見たときに、思わず涙がこぼれたという。参加者の中には、学校で皆と同じ給食を食べられないため、お母さんがつくった“なるべく給食と同じメニューの弁当”を毎日持参している子どもや、家でも学校でも、テーブルを別にして食事しないといけない子どももいる。そんな子どもとご家族が、旅行先で、皆と同じテーブルで同じものを食べ、団らんが持てるということに、心から喜んでくださり、感謝され、泣き出すお母さんもいたという。

「この取り組みには、本物の感動があります。旅本来が持つ『心を満たす』価値と力があります。」とは、サポートデスク代表理事としての東の言葉であるが、まさにそのとおりであり、ここに旅行業として担える役割があると思う。

沖縄ツーリストでは、今後アレルギー対応ツアーだけではなく、個人旅行でも安心してお申し込みいただけるように対応力を向上させていきたいと考えている。そのために、沖縄の観光事業者だけでなく、他の旅行会社、他の地域とも連携し、沖縄県全体の食物アレルギー対応力の向上を目指して取り組みを進めていきたい。

(かまたなおみ 沖縄ツーリスト(株)専門職執行役員、経営管理推進室室長、JATA障害者差別解消法特別委員会委員)


注1:日本学校保健会「学校生活における健康管理に関する調査」(2013)