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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年5月号

ワールドナウ

APDF総会及びESCAPワーキンググループ会議に出席して

嶋本恭規

2017年2月27日~28日、APCD研修センターにてAPDF(アジア太平洋障害フォーラム)総会、3月1日~2日、ESCAP本部にてESCAPワーキンググループ会議が、タイ・バンコクにおいて開催されました。両会議とも、共に活動した経験が少ない国際手話通訳者(フィリピン・マレーシア)が同行したため、会議の主旨を理解し、ポイントを掴(つか)んだ上で通訳をしているのかどうか不確かな状況でした。その辺りをご理解いただいた上で、ご一読ください。

APDF総会

私は、世界ろう連盟アジア地域事務局長として出席しました。

APDF総会のテーマは「インチョン戦略、5年の優先課題」です。

初日は、次回の開催時期や場所について話し合われました。開催時期は、2018年または19年。フィジー、パキスタン、モンゴルなどが候補地として上がりましたが、結果としては、開催地未定。今回、パキスタンからは不参加だったため、次回のパキスタン開催は見送りとなりました。

また新役員選出があり、会長Mr. Kyeong Taik Byeon(「韓国障害フォーラム(KDF)」 国籍:韓国)、副会長Mr. Joseph Kwok(「香港障害者協議会」 国籍:香港)、Ms. Nelly Celeb(「太平洋障害フォーラム」国籍:フィジー)、事務局長Ms. Yoo Myung Hwa(「韓国障害者リハビリテーション協会」国籍:韓国)と決まりました。事務局は、引き続き韓国が担うことで確認しました。

次に、規約改正について話し合いがあり、投票権は「1団体が1票の投票権を有し、国レベルの組織は1団体が複数の投票権を持つこともあるが、投票権総数の10%を超えない範囲」とすることを確認しました。

2日目は、タイ国籍、自閉症の19歳の青年Tanapon Cheenmanee氏から特別講演がありました。果敢な精神で人文社会科及び情報科学プログラムの専攻。障害者が自立できるようロールモデルを目指しています。また、差別のない社会を目指して、今後は、情報技術専門家として、啓発活動や情報発信などに取り組むと意気込んでおられました。

次に、『インチョン戦略』の実施について、日本からJDF副代表、藤井克徳氏が報告しました。

1.障害者権利条約批准までの経緯と批准後の取り組み、2.持続可能な開発目標(SDGs)と障害分野の関連、3.東日本大震災ならびに熊本地震の支援のあり方、4.日本での障害分野の主な出来事(相模原事件、相次ぐホーム転落事故)、5.イエローリボンによる啓発運動の推進の5つのポイントを話されました。

私からは、手話言語法制定に向けた取り組みなどを、(一財)全日本ろうあ連盟の立場から報告しました。障害者権利条約には「手話は言語」と明記されており、わが国においても手話は言語であることを法に位置付けていくよう働きかけています。この取り組みに関連した国内状況も説明しました。

午後からは『アジア太平洋障害者の権利を実現するインチョン戦略』に関わる国連ESCAPの実施及び監視システムを秋山愛子氏(ESCAP)より講演がありました。

インチョン戦略中間年評価ハイレベル政府間会合は、2017年11月27日~12月1日までの5日間、北京で開催されます。CSOの傍聴参加も可能であり、多くの参加を期待したいと、お話がありました。

最後に、「インチョン戦略の実施を促すためのCSO共同宣言」について、十年推進に向けて、ESCAP、各国政府、ワーキンググループ、CSOがそれぞれ一層力を出し合うことの確認や議論がありましたが、最終的には合意されました。

第4回ESCAPワーキンググループ会議

次に、2017年3月1日(水)~2日(木)に第4回ESCAPワーキンググループ会議が開催されました。

『アジア太平洋障害者の十年』の後半についての取り組み、『インチョン戦略』の実施に対し支援をするための活動、今年11月に、中国・北京において開催されるハイレベル政府間会合の内容確認がありました。

「障害者の航空旅行に関するガイドライン草案」について、国際民間航空機関(ICAO)の担当者からWebカメラを通じてICAOの取り組みに関する活動報告があり、それらに質疑応答する形で進められました。その一つに、リチウム電池を搭載した電動車いすに関する安全な飛行機旅行を中心とした航空による危険物の輸送に関する国際基準の発表がありました。また、国際航空運送協会(IATA)にも伝えることを提案する話がありました。

聴覚障害者には補聴器や人工内耳を装用している方もいます。これらは空気電池によって稼働しますが、この電池について記載する必要性を問うと、バッテリー容量が一定量以下であり、補聴器、人工内耳装着のまま、搭乗可能であることから、特に一文は必要ないと回答がありました。

また、世界ろう連盟アジア地域副事務局長のClarissa氏(「マカオろう協会」国籍:マカオ)からは、一定人数を超える聴覚障害者が一つの飛行機に搭乗することを拒否された懸案事例がある。航空会社側の判断により、一便に4人までなら搭乗は了承、それ以上は次の便に回された事案があり、その理由は説明されなかったということです。ICAOとして、このような基準があるのかを問うと、「権限は航空機のパイロットにあり、ICAOとしてはどうすることもできない。各地でこのような懸案事例があることは聞いている。ICAOとして、各国政府やIATAと連携があるので情報として伝えておく」と回答がありました。

今後、「障害者の航空旅行に関するガイドライン草案」作成の取り組みとして、個人的な経験を2017年3月31日までに提出し、6月30日までに作業部会メンバーで改訂ガイドライン草案を作成し、8月中旬までにICAOとIATAに、障害者の航空旅行に関するガイドラインを提出することを確認しました。

次に、ESCAP事務局が、ESCAPアジア太平洋障害者の十年のためのマルチドナー信託基金の状況報告がありました。事務局は、この基金が対象をアジア太平洋地域の障害者に絞ること、すべての加盟国を基金に貢献するようお願いしました。ワーキンググループ会議において、1人の委員が基金に貢献する加盟国が少ないことを懸念し、貢献を拡大するための戦略を策定することを提案しました。

各々財政が厳しいことから、会議開催のあり方についても一同が集まる会議だけでなく、Webカメラによる会議の必要性も取り上げられ、今後、検討することになりました(会議は継続の予定ですが、次回の開催地は未定)。

韓国政府からはMake the Right Real Fundの説明がありました。権利を実現するための基金の最近の活動を報告し、関心のある団体は2017年に応募するよう招待しました。韓国はCSOと政府のどちらからも基金の援助を受けられると述べていました。

私たち聴覚障害者の最重点課題である情報保障について、今回の会議すべて、理不尽にも情報保障費は当事者団体で負担しました。第61回国連総会で採択された障害者権利条約に反しているのではないかと懸念しています。

その他、私たち団体内部課題となりますが、新たな課題として、アジア地域における国際手話通訳の育成や組織化がまだまだ進んでおらず、急務課題であることが分かりました。

問題・課題山積ですが、会議に出席することで課題が整理され、取り組むべき方向性が見えてくるため、今後も積極的に外部組織との関わりを持ち続けたいと思っております。

(しまもとやすのり (一財)全日本ろうあ連盟理事)