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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年5月号

ワールドナウ

パラグアイに南米初の障害平等研修ファシリテーターが誕生!

大野純子

皆さんはパラグアイと聞くと、どのようなイメージを持たれるでしょうか。南米の小国、サッカー、アルパと呼ばれる小型ハープ…。実際、日本ではあまり知られていないパラグアイですが、訪れてみると、意外にも日本を身近に感じる国であることに驚きます。1936年から始まった移住事業で約7千人の日本人が移住し、現在も1万人近くの日系人が暮らしています。

移住者はもちろん、日系2世、3世はスペイン語と日本語を自由自在に使いこなし、パラグアイ社会にしっかりと根を下し、この国の発展にも大きく貢献しています。現在のパラグアイの主要作物の一つである大豆を導入したのは日本人移住者ですし、首都アスンシオンを走る乗用車は6~7割が日本の中古車。また、日本の食卓にのぼる白ゴマの約25%(2013年)がパラグアイからの輸入品で、そのゴマをパラグアイに紹介したのも日本人及び移住者であるなど、パラグアイ人にとって日本はとても親しみのある国なのです。

日本政府によるパラグアイへの経済・技術協力の歴史は1959年に遡(さかのぼ)り、障害分野の協力も1989年のJICAボランティア派遣に始まり、2000年代からはJICAによりさまざまな形態のプロジェクトが継続して実施されています。今回のJICA専門家派遣は、こうした協力の流れを踏まえつつ、パラグアイ政府が2008年9月に「国連障害者権利条約」を批准したのを受けて、2012年に設立した障害者権利庁(以下、SENADIS)の政策・事業形成・実施に関する能力強化を目的としています。

パラグアイでは、人口685万人のうち約12%に何らかの障害があるとされ(2012年国勢調査結果)、比較的大きな割合を占めているものの、教育、就労、社会保障、基礎的インフラや行政サービスへのアクセス、情報保障の面で、障害者は依然として非常に不利な立場に置かれているのが現状です。SENADISを筆頭に、障害者の社会参加を促進するためのさまざまな政策が策定・実施されており、すべての子どもが地域の普通学校で学ぶことを原則とする「インクルーシブ教育法」や、公的セクターにおける5%の法定雇用率を定めた法令、物理的アクセシビリティを規定する法律、パラグアイ手話を言語として定めた法律等も存在しますが、現場レベルでの技術・知識・人的資源の不足、監督機能不在、施行令がないなど、実施面で多くの課題があります。

また、障害当事者の声を政策に反映させる仕組みとして、SENADIS傘下に障害者権利国家評議会(以下、CONADIS)が設立されており、障害当事者組織や障害者支援組織の代表が閣僚レベルと対等に意見交換することが可能な場となっているものの、知的障害や精神障害の当事者は参加しておらず、多くは支援者組織の代表が当事者を代弁する形式を取っているほか、首都との格差が大きい地方に住む障害当事者の声を聞き、当事者組織からの提言に反映させることができる国内ネットワークが十分機能していないなど、代表性の面での課題も抱えています。

これらの課題解決には、障害当事者及びその組織のエンパワメントやキャパシティ・ディベロップメント(CD)が不可欠です。条約や法令に関する知識はもちろん、障害当事者の権利・平等を具体的な行動策として主張できるアドボカシー能力を身に付けた障害当事者リーダーの層の厚みを増すこと、リーダーとなる障害当事者を支える基盤となる当事者組織のCDと、障害種別・地域を超えた当事者組織間の連携の強化により、当事者の声をより効果的に政策に反映させていく必要があります。

一方、障害当事者組織は、政府より一定の資金援助を受けているものの、経済的基盤は極めて脆弱であり、当事者リーダーは、本職の傍ら当事者組織の活動に従事しているため、十分な時間と労力を投じることが困難であることに加え、現場における実践経験が不足しているために、知識は豊富にあっても、現状に即した具体的な施策に落とし込める建設的な提言ができるリーダーは非常に限られています。

これらの現状を踏まえ、JICAはパラグアイの障害当事者リーダーとその後継者となる若手当事者を対象に、「障害平等研修(DET)ファシリテーター養成講座」を実施。同養成講座はJICAのプロジェクト等を通じ、すでに36か国で実施されてきましたが、南米ではパラグアイが初めての実施国となりました。

講師はJICA国際協力専門員の久野研二氏と、日本初のDETファシリテーターで国内外でのDET実施経験も豊富な曽田夏記氏。関係者の期待は非常に高く、16人の定員に対し30人近くの肢体、視覚、聴覚、精神それぞれの機能障害のある当事者からの応募がありました。今後の活躍が期待できる当事者が選抜され、DETを実施するファシリテーターとなるための11日間の集中講座に参加する中で、講座の内容理解はもちろん、機能障害によるニーズの差異や相互コミュニケーション方法を体得するとともに、今後、国内で活動していく上で貴重な財産となる信頼関係を構築することができました。

特に、地方から参加した7人は研修施設に併設された宿舎で、研修のない土日を含め連続18日間共に生活したことから、大家族のように親密な友情を育み、養成講座終了後、地方で初めて実施されたDETには、別の地方から助っ人として2人がバスを乗り継いで駆けつけるなど、強固な連携体制を築いていました。

参加者からは、「パラグアイでは『インクルーシブな社会を!』というスローガンだけが先行しているが、具体的に課題を解決する行動が先行しなければならないことを学んだ」「どうやって自分をエンパワーするか理解することができた。あとは実践あるのみ!」「私自身が変革の主体になることができた。今後、可能な限りDETを実施する。まずは自分の職場をよりインクルーシブに変えていきたい」といった感想が飛び交い、養成講座の目的が十分達成されたことが伺われました。

今後は、養成講座を修了した20人のファシリテーターがパラグアイ全土で実施するDETを、SENADISのカウンターパートとともに適宜モニタリングし、各ファシリテーターのスキルアップを図りつつDETの継続実施を促すとともに、そこからあがってくる具体的なアイデアをSENADISの地方支部とも協働しながら実践に移していく計画です。プロジェクトの残り期間はわずか1年4か月ですが、今回の養成講座で醸成された「一つ一つの行動は小さくても、それを積み重ねれば必ず大きな社会変革につながる」という共通認識を持つ20人の同志の結び付きは、10年、20年後のパラグアイ社会がより一層インクルーシブなものになっていく上で、大きな資源となるに違いないと確信しています。

(おおのじゅんこ JICA 障害者の社会参加促進アドバイザー)


【参照】

1)外務省ホームページ パラグアイ共和国基礎データ
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/paraguay/data.html#section1

2)在パラグアイ日本国大使館 二国間関係
http://www.py.emb-japan.go.jp/itpr_ja/nikokukan-kankei.html