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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年5月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

トイレを語る1日?!
日身連フォーラムTOKYO・バリアフリートイレde街づくり~2020、そしてその先へ~

佐藤加奈

日身連は、全国組織をもつ障害当事者団体として活動するなかで、特に期待されてきたことの一つに、住んでいる街に安心して暮らせる環境の整備があります。このことは、誰もが思う当たり前のことですが、障害者にとっては同じ生活環境でも、社会に存在するバリアによって困難が生じていることがたくさんあります。しかし、そのことに気づかない、あるいは気づいてもらえない状況があるのも現実です。そこで、日身連では、街なかのバリアを調査し、その課題を解消するための提案を発信してきました。その一つが、歩道橋調査であり、障害者の日常生活の実態調査等でした。

今回の事業のきっかけになったのは、その歩道橋の実態調査でした。歩道橋から福祉の街づくりへと話題が広がるなかで、車いすトイレのあり方について熱い議論となり、トイレの存在が、障害者にとって、とても深刻な課題を抱えていることを痛感しました。そこで、トイレに関心があるあらゆる分野の人たちと一緒に考える機会の場を作る必要性から、今回のフォーラムが企画されました。

2月28日、羽田国際線旅客ターミナルビル内で、障害者のトイレの困りごとは何か、誰にもやさしいトイレとは何か、そんな視点から身近で大切な存在の「トイレ」をテーマに、日身連フォーラムを満場のなか開催しました。

1964年のオリンピック東京大会後、洋式トイレが爆発的に普及し、日本のトイレ事情は衛生や設備の面でも世界トップクラスだそうです。では、障害者にとって現状はどうか、社会の認識のギャップは、トイレからみえる未来とは…。

フォーラムのスタートは、体験談「トイレと私」。スピーカーに犬島朋子さん((公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会大会準備運営第一局パラリンピック統括部パラリンピック統括チーム)、田口亜希さん(パラリンピック射撃アテネ、北京、ロンドン大会日本代表)、小西慶一さん((公社)東京都身体障害者団体連合会会長)の車いす利用者の3人、コーディネーターは全盲の大胡田誠さん(弁護士)が務めました。

犬島さんは、難病で入院、療養時に辛いトイレ体験をされました。トイレは理性を越えた圧倒的な存在、退院して一番嬉(うれ)しかったことは、自分の足でトイレに行けたこと。小学生でも関心があるトイレを皆で語り合えることが大切と話されました。

小西さんも「トイレは苦しい思いがたくさんある。昔と比べればトイレの設備は素晴らしく良くなったが、数年前にデパートの多目的トイレで倒れ、広さが災いして緊急ボタンが押せずに、体のマヒを感じる恐怖のなか何もできなかった」ことを話されました。

田口さんは、アメリカ滞在中は少しもトイレの心配をしたことがなかったのに、日本に帰国した途端、トイレの場所を確認しないと外出できないと、今の生活事情を話されました。お話のなかで、扉を少し広くするだけで車いすでも入れるトイレができることや、車いす用トイレしか選択肢がない人がいることに気づいてもらいたいと、社会のマナーについても言及されました。

最後に、大胡田さんから、共生社会を作っていく上で、物と心両面のバリアフリーが必要、それはトイレに限らず社会全体を向上させる一つの視点と締めくくられました。

次に、新国立競技場界隈等の駅、公衆トイレ、商業施設、公園、コンビニのトイレの実態調査と、2014年に日本トイレ研究所が行なった『トイレの困りごとを教えてください!』アンケート結果が報告されました。実態調査は、髙橋儀平東洋大学教授の指導で、1月31日から2月2日の3日間、身体障害者相談員の方と東洋大学人間環境デザイン学科の学生の方にご協力をいただいて行なったものです。チェックシートでトイレの広さや構造などをメジャーで測ったり、車いすから移乗して使い心地等を試しました。

報告者として、車いす利用者の平井晃さんと東洋大学の学生の方からは、効率よい空間配置と設備の選択、必要な数の確保、あのトイレがあるから安心と思える街づくりが必要、“気づき”からやさしいトイレへと変貌できる社会への期待が呼びかけられました。

続いて、加藤篤さん(日本トイレ研究所代表理事)からアンケートの集計・分析が報告されました。改善すべきトイレは、公衆トイレ、駅、公園。困りごと要素の1位は、男女ともに衛生・維持管理。特記事項別の困りごとでは視覚障害者の44%が、全体の3位が付属機器等となり、実態調査での指摘と同様の結果となりました。また、分析からみえた5つのない(ものがない、わからない、使えない、使いたくない、配慮がない)の改善が、2020年とその先へつながると訴えました。

シンポジウムでは、長井総和さん(国土交通省安心生活政策課長)、東俊裕さん(弁護士、熊本学園大学教授)、犬島朋子さん、太田冬彦さん(東京国際空港ターミナル(株)旅客サービス部長兼CS推進室長)をシンポジストに、コメンテーターを加藤篤さん、コーディネーターは髙橋儀平さんが務めました。これまでの話を受け、それぞれの立場からバリアフリートイレを切り口に、2020年とその先を見据えたさまざまな議論が交わされました。

長井さんは個人的な意見とした上で、バリアフリーを進める上で、将来を見据えてトイレの課題を克服できる整備のあり方を考えたい、ニーズの総合理解が街のバリアフリー促進だと考え政策作りに励みたいと述べ、ハードソフト一体で、誰もが暮らしやすい街を目指し取り組んでいきたい、と今の気持ちを話されました。

犬島さんからは、ガイドラインに基づき進めていく、トイレも然り。誰もが楽しめ、排除しないインクルーシブな大会にしたいと話されました。

太田さんからは、羽田国際空港は設計段階から障害者の方などとワークショップを重ね、現在の建物ができた。スパイラルアップを基本にユニバーサルデザインの牽引役として頑張りたい、空の玄関口をバリアフリー発信の基地として貢献していきたいと意欲が語られました。

東さんは、熊本地震で被災した障害者の支援活動を続けている立場から、仮設住宅や避難所でトイレやお風呂が使えないといった障害者の実情が報告されました。バリアフリーとは何か、障害への無知、無理解が社会的バリアを生んでいる、そのことが今回の災害で浮き彫りにされた。日頃から障害者の存在が社会に受け止められる状況がなければいけないと訴え、さらに、法律で埋められない都市部と地方の格差是正も指摘されました。

そして、髙橋さんからは試案として、「トイレの機能分散と設備の組み合わせ」が紹介され、整備を進める中で、さらに次のステップに進めるかどうかは、一緒に力をあわせていくことが鍵と胸中を話されました。

閉会のあいさつの、当企画実行委員長の坂巻煕さん((福)潤沢会理事長)からは、2020トイレ世界一の東京の実現をと、トイレを切り口に、福祉の街づくりを前進させたいとフォーラムを統括しました。

参加者からは、「新鮮で貴重な経験ができた」「自分たちの意識を変えることで前進することを知った」「障害についてもっと話を聞き理解を深めたかった。また、同じテーマでフォーラムを開いてもらいたい!」など多くの感想をいただきました。

トイレを使う時、このトイレはどうだろうという意識=気づきを持ってもらえることが、まずは第一歩です。こうしたことを社会に根づかせ、誰もが同じように生活できる社会環境に向けて、私たちの活動につなげていきたいと思います。

(さとうかな 日本身体障害者団体連合会事務局)