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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年6月号

SDGsはみんなの目標です

千葉潔

はじめに

2016年1月に「持続可能な開発目標(SDGs)」のゴールを目指す15年にわたる取り組みの期間が正式にスタートを切ってから、1年半が過ぎました。マラソンに例えれば、序盤の4.2キロほど走ったところ。世界的にも、また国内においても、さまざまなステークホルダーの取り組みが始まっています。

本稿では、あらためて、2030アジェンダとその中核を構成するSDGsについて、基本的なことがらを確認したいと思います。

1 人間と地球のためのビジョンと目標

2030アジェンダは、貧困問題の解消や教育アクセスにおける進展や情報技術の発展などの好機をとらえながら、世界のすべての形態の貧困をなくし、持続可能な復元力のある世界へのシフトを目指す、21世紀の人間と地球のための憲章です。

2015年9月25日、首脳レベルで開催された国連総会で、国連に加盟する193か国(そのうち150か国以上は首脳が参加)が全会一致で採択した決議で、正式なタイトルは「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」です。

世界で十億単位の人々が貧困に苦しみ、人間の尊厳を否定され、国家間、国内において拡大する不平等、自然災害、紛争、暴力的過激主義、テロ、人道危機、気候変動の影響などの脅威が深刻化するなか、今のままでは人間も地球も持続しないとの強い危機意識の共有のもとにつくられました。

このアジェンダのビジョンの実現のための具体的な目標がSDGsです。2015年に達成期限年を迎えたミレニアム開発目標(MDGs)の成果のうえに、その後継としてつくられましたが、その内容はMDGsをはるかに超えるものです。

MDGsでは8つの目標、21のターゲット、そして達成状況を測るための60の指標が設定されていたところ、SDGsでは17の目標のもとで、169のターゲットが打ち出され、昨年3月には、国連統計委員会が機関間専門家グループ(IAEG-SDGs)の提案に合意し、230の指標が設定されています。さらに、この指標は今年3月に改訂され、現時点で、計232を数えます。

SDGsのロゴ拡大図・テキスト
http://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_logo/

2 マルティラテラリズムの体現として

基本的なことになりますが、2030アジェンダは国連総会で採択された決議ですから安保理決議とは違って、法的拘束力はありません。また、署名や批准などの手続きが必要な国際条約として採択されたものでもなく、各国に定期報告の義務はありません。ハイレベル政治フォーラム(HLPF)という、各国による報告の場は用意されましたが、ここでの報告はあくまでも経験共有のため自主的になされるものです。

しかし、193の国連加盟国がそれぞれの立場の違いを乗り越えて決議として採択し、しかも世界各国から首脳たちがそのために参集したという事実が、2030アジェンダ/SDGsに各段の重みを与えています。

その草案も、国連総会のもとに、世界の5地域の加盟国から指名を受けた30か国の代表で構成する「持続可能な開発目標に関する開放型作業部会」で、2013年3月から1年以上に及ぶ協議が行われ、策定されたものです。

作業部会は、2012年6月、国連持続可能な開発会議(リオ+20)に参集した180を超える国々(そのうち100か国以上が首脳レベル)が合意した「私たちが望む未来」によって、持続可能な開発目標(SDGs)をポスト2015アジェンダと整合的に統合する、包摂的で開放的な政府間プロセスとして、設置を求められたものでした。さらに重要なことは、この政府間プロセスと並行して、非政府レベルで、市民社会や企業を含めた、さまざまなステークホルダーの声が広範に聴取され、それらが包摂されたということです。

これらのことは、まさに国連におけるマルティラテラリズムを体現するものとして、2030アジェンダ/SDGsの正統性と実現性のレベルを高めました。

3 「見える化」に巧みさと凄み

また、SDGsは、持続可能な開発という大テーマのもとに、目標を並べるとともに、ターゲットと指標を提示して、実施の「見える化」を図ったところに方法論としての巧みさもあります。問題の核心はもはや、やるかやらないかではなく、どれだけ達成できるかにあるとして、具体的な実施を求めるやり方に凄みのある迫力が感じられます。

この「見える化」で、世界の関心を大いに高め、資金を動員するなどし、貧困削減に多大な成果を上げた先駆がミレニアム開発目標(MDGs)でした。

成果としては、たとえば、MDGsの目標1(絶対的貧困と飢餓の半減)では、1990年には開発途上国の人々の半分近くが1日1.25ドル未満で生活していたところ、2015年にはその割合が14%まで減少。これは10億人が絶対的貧困から救いだされたことを意味します。また、開発途上地域における栄養不良の人々の割合は、1990年からほぼ半分に減少しました。

目標2(初等教育の普遍化)については、開発途上地域における小学校の純就学率が2000年の83%から2015年には91%まで上昇。目標3(ジェンダー平等)についても、開発途上地域全体で、初等、中等及び高等教育における男女生徒間の格差状況が解消されました。

もちろん、MDGsの目標がすべて十分に達成されたわけではありません。その目標群はおおむね達成されたとはいうものの、進捗の度合いにはばらつきがあり、特にアフリカ、後発開発途上国、内陸開発途上国、小島嶼開発途上国などにおける進展は芳しいものとはいえませんでした。依然として、世界で8億以上の人々が一日の生活費が平均して日本円でわずか100円程度という、絶対的貧困の暮らしを余儀なくされていますし、母子保健、乳幼児の健康、リプロダクティブヘルスなどの目標は未達成に終わっています。

4 MDGsを超える野心的目標

まず、これらの未完の仕事を仕上げなければなりませんが、2030アジェンダはMDGsが残した仕事を引き継ぐだけのところに留(とど)まるものではありません。

MDGsと同様に、2030アジェンダで筆頭に置かれるのはやはり貧困対策ですが、MDGsでは、絶対的貧困を1990年のレベルに比べて2015年までに半減することを目標としていたところ、SDGsはすべての形態の貧困の半減、絶対的貧困の根絶という野心的な目標を設定しています。

また、包摂的な策定プロセスの結果ともいえますが、SDGsの目標はなにしろ多岐にわたります。貧困、飢餓、健康、平等な教育、ジェンダー平等、水と衛生、エネルギー、包摂的で持続的な経済成長、完全雇用、レジリエントなインフラ、国内外の格差、持続的な都市づくり、持続的な消費・生産パタン、海洋保全、エコシステムの持続的利用、平和的かつ包摂的な社会の促進、実施手段の強化など、実にさまざまです。

さらに、持続可能な開発と平和の問題は不可分であるとしたうえで、紛争の予防や紛争後の国々への支援などの努力の倍増の決意を表明し、その目標の一つとして、「平和的で公正かつ包摂的な社会の構築」を加えたことも、2030アジェンダのダイナミックなところでしょう。平和への取り組みは、ミレニアム宣言では筆頭にあげられた課題でありながら、開発にフォーカスしたMDGsではカバーされませんでした。2030アジェンダはその前文で、目標とターゲットの重要分野として5つに分類し、人間(People)、地球(Planet)、繁栄(Prosperity)、パートナーシップ(Partnership)とともに、平和(Peace)を提示しているのです。

5 経済、社会、環境の三側面の均衡

持続可能な開発を大テーマとする2030アジェンダにおいては何よりも、持続可能な開発の統合的な三側面ということを理解することが肝要です。つまり、私たちの世界は持続可能な開発の社会、経済、環境という三側面の均衡を保って発展していかない限り、持続しないのだという考え方です。

時代を遡(さかのぼ)れば、1960年代から90年代まで、国連総会において、4回の「開発の10年」が宣言され、開発に関する国家施策や国際協力はそのなかで定義されました。その間、開発の社会的側面について、数々の目標も設定されて、経済と社会との相互関係の理解は進み、SDGsの前身であるMDGsも生まれたわけですが、国際的な目標を設定するうえで、この相互関係を環境面に及ばせて明確に認知するところまでにはなかなか至りませんでした。

ところが、近年、気候変動の影響が次第に明らかになるとともに、有限な自然資源に対する世界的な認識が高まったことを背景にして、この三側面の統合が明確に打ち出されることになったのです。

さて、大きな括りを把握したうえで、SDGsのそれぞれの目標が個別に相互に関連することを考えなければなりません。たとえば、女子教育に取り組むことは、女性の貧困の解消(目標1)、やがて産まれる子どもの健康(目標3)や教育(目標4)、ジェンダー平等(目標5)、ディーセント・ワーク(目標8)など、さまざまな目標の達成につながる可能性があるということを理解することが重要です。

6 人間一人ひとりを大切にして

こうした目標が途上国だけを対象としたものでなく、国際社会全体に共通で普遍的であるとしているところもまた、2030アジェンダの大きな特徴です。先進国ももはや途上国援助という視点だけに甘んじることなく、国内のさまざまな問題に取り組むことが求められます。たとえば、日本でも、子どもの6人に1人が貧困ライン以下で暮らしているといわれますが、そうした国内の状況の改善を図ることはSDGsの目標達成につながるのです。

2030アジェンダは人間を中心に置きます。「誰も置き去りにしない」をスローガンに、一人ひとりの尊厳を大切にし、特に脆弱な人々に関心を払うことを求めています。若者、HIV感染者、高齢者、先住民、難民・避難民、移民、また世界で7人に1人の割合を占め、さらに、その8割の人が貧しい生活を余儀なくされているという障害者など、脆弱な人が守られて、エンパワーされる世界を描いているのです。

2030アジェンダは、現世代ばかりではなく、将来の世代を救うことも目指します。そもそも持続可能な開発という考え方は、「環境と開発に関する世界委員会」が1987年、その報告書「我ら共有の未来」のなかで提唱し、「将来のニーズを満たす能力を損なうことがないような形で、現在の世界のニーズも満足させること」と定義したものです。それは、未来の世代と地球への豊かな想像力を要する理念であり、目に見えない将来の世代を想像し、今の若者たちが彼らにトーチを手渡す姿を心に描いて行動することを私たちに求めています。

7 実施、レビュー、フォローアップ

目標の達成を確実にするには、実施の手段とパートナーが不可欠です。SDGsにおいて、「実施の手段と持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップ」と題された目標17では資金調達、技術、能力構築、貿易、体制面(政策・制度的整合性、マルチステークホルダー・パートナーシップ、データ、モニタリング、説明責任)に分類してターゲットが設けられました。

資金調達においては、開発途上国への国際支援を通じた、各国の徴税能力などの改善による国内資金の動員の強化を求めるとともに、先進国の開発途上国への政府開発援助(ODA)を国民総所得(GNI)比で0.7%、後発開発途上国へのそれは0.15~0.2%を設定しています。2015年6月の開発資金会議で採択された「アディスアベバ行動目標」が実施手段を補完するものとされています。

実施においてはまた、各国の異なる実情、能力、開発レベルを勘案することが求められています。フォローアップ及びレビューについても、各国政府がそれぞれの国の実情などを踏まえたうえで、自発的に行われることが求められます。各国のオーナーシップが重視されているのです。

グローバルレベルのフォローアップとレビューは、国連総会と経済社会理事会のもとで、持続可能開発委員会に代わって設置された、「ハイレベル政治フォーラム」(以下、フォーラム)で行われます。その際、前述の232の指標が使われますが、それらのターゲットをどのように各国の施策に取り入れるのかは、各国が自ら決定することとされます。

SDGsの進捗状況は、国連事務総長が毎年、国連システムとの協力のもとに報告を作成し、フォーラムに提出されます。また、これとは別に、Global Sustainable Reportという報告も提出されることになっています。後者の報告については、形式などがこれから決められますが、目的は、各国の政策立案者が科学的な裏付けをもって貧困撲滅及び持続可能な開発を促進できるよう科学と政策間の橋渡しを強化することとされています。

フォーラムは経済社会理事会のもとで毎年開催されます。国家主導で報告が行われますが、国連諸機関、市民社会、民間セクターなど、その他のステークホルダーの報告も奨励されます。今年7月のフォーラムの自主報告には日本を含む44か国が臨む予定です。

さらにフォーラムは国連総会のもとでも、4年ごとに首脳レベルで開かれます。こちらは2030アジェンダの実施、進捗及び課題の特定、更なる実施促進のための動員を行うための政治的ガイダンスを提供するもので、第一会期が2019年に予定されています。

おわりに

SDGsのレースはこれから徐々に中盤に入っていきます。ゴールは明確です。私たち一人ひとりがこのレースの参加者です。今から13年と半年後、将来の世代の存在を傍らに感じながら、「誰も置き去りにしなかった」と胸を張って、成果を祝う私たちの姿を想像したいと思います 

(ちばきよし 国連広報センター)


(本稿の内容は、国連あるいは国連広報センターを代表するものではない。文責はすべて筆者個人にある)