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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年6月号

持続可能な開発目標(SDGs)に関する国の取組

横地晃

1 はじめに

2015年9月、ニューヨークの国連本部で開催された首脳会合において、「持続可能な開発のための2030アジェンダ(以下、2030アジェンダ)」が採択された。2030年とその先の地球の未来図を示す「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」がすべての国連加盟国のリーダーによって合意された歴史的な瞬間であった。この文書の採択にあたっては、各国首脳の他、世界各地の地方自治体や市民社会、民間セクターなど幅広い関係者の代表もニューヨークに駆けつけ、その合意を祝ったとされる。

本稿においては、日本から遠く離れたニューヨークで決定された国際的な目標が、我々の暮らし、とりわけ障害者の福祉向上とどのような関係があるのか、昨年、内閣に設けられた持続可能な開発目標(SDGs)推進本部の活動も含め、紹介したい。

2 持続可能な開発目標(SDGs)とは

SDGsとは、2030アジェンダにおいて定められた、17の目標と具体的に達成すべき169のターゲットからなる国際的な開発目標であり、2016年から2030年までの15年間を実施期間としている。

SDGsが目指すのは、経済成長、社会問題の解決、環境保全がバランス良く達成された持続可能な世界である。そして、その過程で、貧困層、障害者、女性など、脆弱な立場に置かれやすい人々を「誰一人取り残さない(No one left behind)」ことを誓っている。これは、「人間中心(peoplecentered)」の考え方に根ざすものであり、日本が国際社会の中で主導し、また、このSDGs策定プロセスにおいて、その重要性を訴えてきた「人間の安全保障」の理念を具現化するものである。

ところで、SDGsに先立つ国際目標として、2015年まで実施されていた8つの目標及び21のターゲットからなる「ミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)」がある。SDGsはいわばMDGsの後継となる国際目標だが、その内容は策定プロセスにおいて大きな違いがある。

第一に、その内容として、MDGsは途上国が抱える貧困や保健等の問題の解消に焦点を当てていたものだが、SDGsは先進国を含むすべての国が取り組む目標として設定されている。地球規模で人やモノ、資本が移動するグローバル経済の下では、一国での経済危機が瞬時に他国に連鎖するのと同様、気候変動、自然災害、感染症といった地球規模の課題もグローバルに連鎖する時代になってきた。SDGsはこうした国際環境の変化を踏まえ、すべての国が取り組む普遍的な目標として設定されたものである。したがって、それぞれのゴール設定も単にMDGsより数が増えているというのみならず、包括的でお互いに関連し合った構成となっている。

第二に、策定プロセスとして、MDGsが国連の一部の専門家によってまとめられたのに対し、SDGsは各国政府の代表の他に地方政府、市民社会、民間セクター、青少年等の広範な関係者が2年以上の時間をかけて検討・策定された。

SDGsは、国際機関や各国政府を中心として策定された“官製”の目標ではなく、地方自治体や民間企業、市民社会をも巻き込んだ“全員参加型”の目標である点が特徴である。SDGsが提唱するこのアプローチは、今世界で起きているあらゆる問題に対応するには、これまでのやり方を一新し、すべての人々が結束しなければ乗り越えられない、という国際社会の強い危機感と決意の表れであり、世界共通の目標としてまとめ上げた歴史的な合意である。

3 持続可能な開発目標(SDGs)と障害者との関係

SDGsの前身であるMDGsの時代にも、各国政府や国際機関等は障害者支援施策を実施してきたし、日本政府も、国内の政策及び国際協力において、障害者支援に関するさまざまな取組を実施してきた。他方、MDGs自体には障害者の視点は明確には盛り込まれておらず、目標のみならず、達成状況評価においても、障害や障害者については直接言及されていなかったことを背景として、MDGsが障害者支援を推進する役割を十分果たすことはなかったように思われる。

このような教訓を踏まえ、SDGsの策定においては、障害者支援団体なども参画し、障害者についても目標に盛り込んでいくこととなった。日本政府としても、2030アジェンダを採択した首脳会合に併せ、公益財団法人日本財団との共催により障害者関連サイドイベントを開催し、持続可能な開発において障害者が参加することの必要性を訴えた。

このような経緯を背景として、SDGsは、冒頭で述べた「誰一人取り残さない」との理想の下、子ども、若者、障害者、HIV/エイズとともに生きる人々、高齢者、先住民、難民、国内避難民、移民などの脆弱な立場に置かれた人々にも焦点を当てた目標となった。

特に、SDGsの目標4(教育)、8(成長・雇用)、10(不平等)、11(都市)、17(実施手段)について、障害または障害者に直接言及したターゲットが含まれている(表1)。SDGsの達成に向けて、政府、自治体、民間企業や市民社会など、さまざまなステークホルダーが連携し、障害者支援においてもより一層の取組を推進していくことが求められている。

表1 SDGsにおける障害または障害者への言及(続可能な開発のための2030アジェンダ和文仮訳(外務省HP掲載)から一部抜粋)

目標4.すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する
4.5 2030年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする。
4.a 子ども、障害及びジェンダーに配慮した教育施設を構築・改良し、すべての人々に安全で非暴力的、包摂的、効果的な学習環境を提供できるようにする。
目標8.包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
8.5 2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する。
目標10.各国内及び各国間の不平等を是正する
10.2 2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、すべての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。
目標11.包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
11.2 2030年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子ども、障害者及び高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、すべての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する。
11.7 2030年までに、女性、子ども、高齢者及び障害者を含め、人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供する。
目標17.持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
17.18 2020年までに、後発開発途上国及び小島嶼開発途上国を含む開発途上国に対する能力構築支援を強化し、所得、性別、年齢、人種、民族、居住資格、障害、地理的位置及びその他各国事情に関連する特性別の質が高く、タイムリーかつ信頼性のある非集計型データの入手可能性を向上させる。

4 日本政府の取組

SDGsをめぐる国際社会の議論は2010年頃から本格化したが、日本はこうした議論に政策対話の主催などを通じて積極的に貢献してきた。さらに、政府間交渉が始まってからも、日本が掲げてきた「人間の安全保障」という理念を含め、わが国が重視する開発課題(質の高いインフラ、保健、女性、教育、防災等)を盛り込むべく、積極的に議論に参画した。

2015年9月、SDGsが採択された首脳会合では、安倍総理自らが出席し、日本としてSDGsの実施に向け最大限取り組む旨表明した。そして、翌2016年5月には、SDGsの実施に向けて、関係省庁が連携し政府一体で率先して取り組む体制として、総理を本部長、全国務大臣を構成員とする持続可能な開発目標(SDGs)推進本部が設置された。

さらに、この本部の下、今後の日本の取組の指針となるSDGs実施指針の策定が本格的に始まった。この間、推進本部では、行政、NGO・NPO、有識者、民間セクター、国際機関、各種団体の代表者が参加する円卓会議も設けられた。これを通じた幅広いステークホルダーとの対話も経て、推進本部の立ち上げから7か月後の2016年12月、SDGs実施指針が決定された。

日本はこれまでも独自に持続可能な経済・社会づくりのため、国際社会のモデルとなるような優れた実績を積み重ねてきたが、この指針では、こうした実績を踏まえ、経済、社会、環境をめぐる広範な課題に統合的に取り組むべく、SDGsのゴールとターゲットについて、日本の文脈に即して再構成された8つの優先課題と140の施策が盛り込まれた。

また、SDGsは政府が掲げている重要課題とも深く関わっている。たとえば、「一億総活躍社会」の実現に向けた取組は、経済政策を一層強化し、それによって得られる成長の果実により子育て支援や社会保障の基盤を強化し、それがさらに経済を強くするという成長と分配の好循環を作り上げることを目指している。世界で多くの国が今後、高齢化社会という現実に直面する中、他の国々に先駆けて持続可能な経済、社会づくりに向けて日本が示す新たな「日本型モデル」を発信するチャンスでもある。先進国の中で政府全体の計画を一から作り上げたのは日本が最初であり、国内外から高い関心が示されている。

また、昨年5月にはG7伊勢志摩サミットが開催され、日本が議長として国際社会のさまざまな課題に対しリーダーシップを発揮した年であり、SDGsについても、達成に向けたG7としての取組を主導した。

5 SDGsに関連する日本政府の具体的な障害者支援施策

策定したSDGs実施指針の付表に掲げた具体的な施策の中には、障害者に関連した施策も多く盛り込まれている。障害者基本計画で規定した各種施策の推進をはじめ、特別なニーズに対応した教育の推進や、公共交通機関のバリアフリー化、障害者雇用の推進、障害者の職業訓練の実施などを障害者支援に関する具体的な施策として掲げている。

持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための具体的施策(付表) 抜粋

1 あらゆる人々の活躍の推進

特に関連が深いと思われるSDGs:1(貧困)、4(教育)、5(ジェンダー)、8(経済成長と雇用)、10(格差)、12(持続可能な生産と消費)等
国内の施策
施策概要 ターゲット 指標 関係省庁
「ニッポン一億総活躍プラン」に基づき、誰もが活躍できる「一億総活躍社会」の実現に向けて以下の取組を進める。
(障害者)
障害者基本計画(第3次)に規定する施策の推進 障害の有無にかかわらず、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う共生社会の実現に向け、障害者の自立と社会参加の支援等のための次に掲げる施策等の一層の推進を図る。
1.生活支援に関する施策
2.保健・医療に関する施策
3.教育、文化芸術活動・スポーツ等に関する施策
4.雇用・就業、経済的自立の支援に関する施策
5.生活環境に関する施策
6.情報アクセシビリティに関する施策
7.安全・安心に関する施策
8.差別の解消及び権利擁護の推進に関する施策
9.行政サービス等における配慮に関する施策
10.国際協力に関する施策
3, 4, 8, 10, 11, 16 障害者基本計画関連成果目標の達成状況 内閣府他
公共交通機関のバリアフリー化の推進 「どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」というユニバーサルデザインの考え方を踏まえた「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)」に基づき、バリアフリー化を推進する。 11.2 「移動等円滑化の促進に関する基本方針」に基づくフォローアップ状況 国土交通省
障害者雇用の推進 「ニッポン一億総活躍プラン」等に基づき、法定雇用率(2.0%)を達成していない企業に対して、その達成に向けた指導等を行うとともに、障害者の希望や特性に応じた職業紹介、定着支援等を行う。 8.5 民間企業における障害者の実雇用率 厚生労働省
(女性)
女性活躍、男女共同参画の推進 第4次男女共同参画基本計画(平成27年12月閣議決定)に基づき、以下を重点分野として、女性活躍の推進体制の強化等を進める。
1.男性中心型労働慣行等の変革
2.政策・方針決定過程への女性の参画拡大
3.雇用等における男女共同参画の推進と仕事と生活の調和
4.地域・農山漁村、環境分野における男女共同参画の推進
5.科学技術・学術における男女共同参画の推進
6.生涯を通じた女性の健康支援
7.女性に対するあらゆる暴力の根絶
8.貧困、高齢、障害等により困難を抱えた女性等が安心して暮らせる環境の整備
9.男女共同参画の視点に立った各種制度等の整備
10.教育・メディア等を通じた意識改革、理解の促進
11.男女共同参画の視点に立った防災・復興体制の確立
12.男女共同参画に関する国際的な協調及び貢献
  「第4次男女共同参画基本計画」の12の重点分野と推進体制の整備・強化における71の成果目標の達成状況 内閣府他
(教育)
障害者の職業訓練 「第3次障害者基本計画」に基づき、障害者職業能力開発校における障害の特性に応じた職業訓練を実施するとともに、民間教育訓練機関等の訓練委託先を活用し、障害者の態様に応じた多様な委託訓練等を実施する。 4.5 1.障害者職業能力開発校の修了者における就職率
2.障害者委託訓練修了者における就職率
厚生労働省

これら付表に掲げた具体的な施策は、SDGsが採択されたことを受けて始められた施策ではなく、日本政府として、「ニッポン一億総活躍プラン」などに基づき、各府省庁がこれまでも障害者支援のため取り組んできた施策であるが、指針の策定を受け、SDGsの達成という観点からも、より一層の推進を図っていくことが求められている。

また、障害者を明示的に対象としていない施策であっても、障害者を含め「誰一人取り残さない」という2030アジェンダの理念はすべての施策に共通するものである。

6 おわりに

これまで述べてきたように、国連でSDGsを採択するに当たり、わが国は障害者支援の文脈においても一定の役割を果たした。また、採択されてからの国内における取組としても、総理をトップとして全国務大臣を構成員とする実施本部を設置し、SDGs全体に対する国としての実施指針を策定したのは、世界に先駆けた動きである。

SDGsの達成期限である2030年に向けて、政府としては、今後とも、広範な関係者と連携しながら、実施指針に記載された政策をはじめとする取組を着実に進めていく。

今年の7月には、ニューヨークの国連本部で各国がSDGsの取組を発表する閣僚会議(持続可能な開発のためのハイレベル政治フォーラム)が開催され、わが国もここで発表を行う予定である。また、実施指針にも盛り込んだように、その後も、本実施指針の取組状況の確認や指針の見直しを、2019年までを目処に実施する考えである。

政府としては、こうした今後のフォローアップやレビューのプロセスにおいても、これまでのプロセス同様に、広範なステークホルダーの参画を重視していく。障害関連施策についても、当事者の方はもちろん、国内外の広範な関係者の皆様から、忌憚のない御意見を頂戴できれば幸いである。

(よこちあきら 外務省国際協力局地球規模課題総括課課長)