音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年6月号

国連でのSDGsと障害への対応

中西由起子

国連で障害に関するSDGs(持続可能な開発目標)の問題を扱うのは、ニューヨークの国連本部内の経済社会局(DESA)の社会政策開発部(DSPD)である。ここは、障害者権利条約事務局ともなっている。

DESAを中心とするSDGsの活動をまとめてみる。

視覚による広報

「障害」という用語は、国連が定めた17の目標(ゴール)すべてに出てくるわけではない。目標4.質の高い教育、8.働きがいと経済成長、10.不平等の是正、11.住み続けられる街づくり、17.パートナーシップの5目標のみで、ターゲットで直接障害について言及している。それを説明した図表をSDGs広報のために作成している(図1)。

図1
図1拡大図・テキスト

キャンペーン

「2030年を心に描こう―障害者のために世界を変える17の目標(Envision2030: 17 goals to transform the world for persons with disabilities)」と称したキャンペーンも始めた。

障害はSDGsの多くの部分、特に教育、成長と雇用、不平等、居住地のアクセシビリティ、データ収集、SDGsのモニタリングの分野で多岐にわたり関係している。さらに、大半の目標が障害者のインクルージョンと開発に多かれ少なかれ影響を与えているので、障害の観点からSDGsの重要性や必要性など関連した発言に「#」のついたキャンペーン名(ハッシュタグと呼ばれる)を入れて投稿し、検索画面などでハッシュタグが一覧できるようにするとともに、興味を持つさまざまな人が同様にハッシュタグを発言に入れることで、SDGsを障害分野で広めていこうとしている。

SDGsに関連する最近の優先課題

1.障害のある女性や女子

SDGsを中心とする国際的に合意された開発目標達成のためには、ジェンダー平等と女性のエンパワメントの推進は必須であるとの認識に基づいて、活動が進められている。

チリで昨年11月に開催した「開発と社会における障害のある女性や女子の権利と見方を向上する」と題された専門家会議が出した勧告は、SDGsが盛り込まれている「持続的な開発のための2030アジェンダ」がジェンダー平等や障害のある女性や女子のエンパワメントを強化するよう運営されるためのガイドとなっている。

同様に、今年3月の第61回女性の地位委員会でも「開発と社会における障害のある女性や女子のリーダーシップを向上する」と題したサイドイベントを開催した。会議では、2030アジェンダの運営において、障害のある女性と女子をエンパワーする戦略や活動が議論された。

2.国際障害者の日

国際障害者の日は、毎年12月3日に障害者問題の理解を進め、障害者の尊厳、権利、幸福のための支援を結集するために国連主導で国際機関、国際団体、各国政府で祝われているが、折々のテーマでSDGsの推進に努めている。

2014年は「持続可能な開発―技術の保証」をテーマとし、2016年からの新しいアジェンダの策定を見据えて、政策やプログラム、ガイドライン、21世紀の技術が障害者にアクセシブルであり、障害者の考えや経験に敏感であることを保証するために努力をしていこうと呼びかけている。

2016年は、SDGsの採択と、障害者にとって、さらにインクルーシブで公平な世界を構築する際のSDGsの役割を踏まえて、テーマが「私たちが欲する未来のために17の目標を達成する」となった。障害者権利条約とSDGsの現状評価や、障害者のさらに強力なインクルージョンのための将来の基盤づくりを目指した。

3.障害インクルーシブ開発のモニタリング

国レベルでの障害や障害者の状況に関するデータや情報、特に公式統計が欠如していることで、政策づくりの段階で障害者の存在は見えなくなっている。

SDGsの採択を受けて2015年10月にはDESA、DSPD、障害者権利条約事務局は、ターゲットで障害について触れた5目標を中心に障害関連の指標を提案した。そこには、障害者を弱者の一員とすることで障害と関連づけられる目標(1.貧困の撲滅、2.飢餓の解消、5.ジェンダー平等、6.安全な水とトイレ、7.クリーンなエネルギー、9.産業と技術革新の基盤づくり、16.すべての人の平和と公正)や、また当然のこと、障害とは切っても切れない目標(3.健康と福祉)における細かく設定した指標も含まれていた。実際には、国連統計委員会が昨年3月に合意した正式なものは、12の指標であった。それらは、4、8、10、11の目標と直接障害には触れていない目標(1.貧困の撲滅と16.すべての人の平和と公正)での指標である。

ミレニアム開発目標の時から続いてきた「障害インクルーシブ開発のためのモニタリングと評価専門家会議」では、1、2、3、4、5、6、7、8、10、11、17の目標に加えて、気候変動に関する13も取り上げている。

今年5月の第4回会合において、特に、2030アジェンダの視点で障害インクルーシブ開発のモニタリングと評価は進んでいるとした上で、来年に発行予定の「障害と開発に関する国連主要報告」の内容をこれらの目標ごとに作業チームに分かれて討議した。精神・知的障害者の複合差別を扱う目標10のチームには東京大学の井筒節教授が参加している。

4.障害、アクセシブルで持続可能な都市開発

都市部の環境やインフラ、設備、サービスは、社会のすべてのメンバーの排除の永続化、もしくは参加やインクルージョンの促進の妨げにも強化にもつながる。

国連人間居住会議は、途上国で急速に進展する都市化に伴う課題をはじめ、人間居住に関わる課題解決のため20年ごとに開催されてきたが、SDGs採択後の2016年10月にエクアドルで開催された第3回会議(ハビタット3)は、目標11の住み続けられる街づくりに直結する会議として注目が集まった。ハビタット2からの20年間に進められてきた各国の取り組み実績をもとに、急速に進展する都市化を成長に結びつけることにより、幅広い人間居住に係る課題の解決に向けた国際的な取り組み方針「ニュー・アーバン・アジェンダ」が採択された。障害者の複合的形態の差別の認識、障害者などのニーズに配慮した住宅政策や交通安全策の策定やICT(情報通信技術)の開発、問題解決のための障害者を含む関係者の参加、障害者などに打撃とならない行政の歳入増加、障害者などと協働できる行政の能力強化などへのコミットが述べられている。

ハビタット3の一環として「障害のインクルージョンとアクセシブルな都市開発に関する国連DESAハイレベルフォーラム」も開催された。アクセシブルで障害インクルーシブな都市開発推進のための勧告をまとめ、ニュー・アーバン・アジェンダの実施に資する都市政策強化の方法を討議した。

勧告では、1.重要要素としての共同財や都市開発のアクセシビリティの推進、2.持続可能でインクルーシブな都市の重要要素としてのアクセシブルな住宅とインフラ、3.インクルーシブで強靭なスマート・シティやコミュニティの構築のためのアクセシブルなICT、4.インクルーシブでアクセシブルな都市開発推進のための障害者の完全で積極的な参加と、5.広範で多様な関係者とのパートナーシップの5点をあげている。

その他の国連での障害を扱うSDGsの活動

1.国連持続可能な開発事務所(UNOSD)

国連の加盟国による、持続的開発戦略の知識の共有、研究、研修、パートナーシップを通しての実施を支援するために、2011年に国連と韓国政府によってインチョンに設立された。DESAの持続可能な開発部が運営にあたっている。UNOSDによるSDGsの解説では目標1.貧困撲滅では障害年金、3では精神障害、5では女性障害者の暴力にあう危険性の箇所で障害について言及しているが、活動の実施ではそれらはまだ反映されていないようである。

2.アジア太平洋持続的開発フォーラム2017

国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)は、今年7月に予定されている持続的開発に関するハイレベル政治フォーラムへの準備として、3月にアジア太平洋持続的開発「変わりゆくアジア太平洋での貧困の撲滅と持続的開発」と題するフォーラムを開催した。ハイレベル政治フォーラムと同様にSDGsの1、2、3、5、9、14、17を取り上げた。政府や国連機関の代表者に交じって、多くの市民社会団体代表も参加していた。その中には、女性障害者、知的障害者、聴覚障害者、難聴者もいた。

地域に密接する会議であり、ハイレベル政治フォーラムにつながる重要会議と位置付けられ、障害当事者からの活躍もあり、討議ではSDGsのターゲットや指標を自国の状況に合わせる努力により障害者のインクルージョンが進んではいるが、障害者のたった30%しか必要な収入を得ていないという貧困にある状況が認識された。また、障害者を含む人たちの差別の解消、貧困の削減、社会的保護の強化のための研究と政策提言の推進が訴えられた。市民社会団体は、女性障害者のインクルージョンはすべてのレベルで2030アジェンダの実施で不可欠であること、障害者や高齢者は平等で生産的な社会の一員であることを強調した。

これらのことは、アジア太平洋障害者の十年のためのインチョン戦略ですでに言われていることであるので、戦略の重要性や推進のために努力の必要性も関係者がもっと訴えないと、SDGsの陰で戦略に対する関心が薄れていくことを懸念する。

終わりに

国連だけでもこれだけ障害者が関与できる機会があるのに、日本の専門家はもとより、実際に声を上げねばならない障害者の参加はほとんどない。そのため国内の障害分野でのSDGsの認知度は低い。権利条約とともにSDGsは障害者の権利推進の強力な戦略であることを関係者は認識すべきである。

(なかにしゆきこ アジア・ディスアビリティ・インスティテート)


【参考文献】

・In Focus
https://www.un.org/development/desa/disabilities/in-focus.html

・Operationalizing the 2030 Agenda: Ways forward to improve monitoring and evaluation of disability inclusion: Technical note by the Secretariat
http://www.un.org/disabilities/documents/2016/Operacionalizing-2030Agenda-betterMandE-final-15March2016.pdf