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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年6月号

ワールドナウ

ネパール地震での支援活動

大室和也

ネパールで発生した巨大地震

中国とインドに挟まれた山間の国、ネパール連邦民主共和国(以下、ネパール)は、世界でも有数の山岳地帯に位置する国です。壮大な山々と独自の文化に魅了され、世界各地から多くの登山家や観光客が訪れます。首都のカトマンズは周囲を山に囲まれた盆地にあり、寺院や商店が所狭しと立ち並ぶ、大変に賑わいのある都市です。

一方、カトマンズ中心部から少し離れるとすぐに傾斜地となり、緑多き田園風景を望むことができます。田畑に点々とたたずむレンガ造りの家々を眺めていると、時の流れもゆったりと感じるようになります。

2015年4月25日、ネパールをマグニチュード7.6の地震が襲いました。その後も余震が続き、5月12日にもマグニチュード7.3の大きな揺れが発生しました。二度にわたる巨大地震により、8,970人が命を落とし、22,300人以上が負傷したといわれています1)。また、約80万もの家屋が損壊し、3万棟の教育施設に被害が出ました1)。ネパールの山間部にある家の多くは、レンガを積み上げただけや土や石で建てられた簡素な造りです。そのため、地震による揺れでその大半が倒壊し、被害を拡大させる一因ともなりました。

AAR Japanの緊急支援

AAR Japan[難民を助ける会](以下、AAR)の緊急支援チームは、発災後4日目の4月29日から現地入りし、1,299世帯へ食料など物資を配付、小学校の仮設校舎42棟の建設、また車いすの製造・配付や自立生活プログラムなどを、2017年3月まで実施してきました。

AARは、国際機関や地元の報道から得られた情報、また被災地への訪問調査の結果から、カトマンズから車で約3時間の山間部にあるダディン郡タサルプー村で支援活動を行うことを決定しました。タサルプー村は、9割の家が損壊していたにもかかわらず、震源地から離れていたために多くの支援団体の支援対象とはなっていませんでした。そのため、食料や住居の支援が一刻も早く必要な状況でした。そこでAARは、ネパールで馴染みのある豆や米の他、多少の風雨を凌ぐためのテント用資材などを全世帯の方々に届ける支援を行いました。毎日の食料が必要なことは言うまでもありませんが、雨季が近づく時期であったため、テント用資材やブランケットは特に喜ばれました。

発災から1か月ほど経過した頃から、学校が再開されるようになってきました。しかし、壁が崩れた校舎、廃材やトタンで応急的に立て直した校舎での再開では、幾度となく襲ってくる余震におびえる児童も少なくありません。そこでAARは、児童や教師が安心して学校生活を送れるよう、鉄パイプとトタンを使った比較的耐久性のある仮設校舎の建設を行いました。2016年3月までに42棟の仮設校舎を建設し、7,000人を超える子どもたちが安心して授業を受ける環境を整えることができました。私が2016年12月に仮設校舎を訪れた際には、学校が自ら仮設校舎の維持・管理を行うと同時に、本設となる校舎の建設を進めているという話を伺いました。今回、災害後の早期復旧を重視しつつも、耐久性の備わった中長期的に使用可能な仮設校舎を建設することによって、本校舎建設の時間的余裕を生み出すことができたのだと感じました。

ネパール地震における障がい者支援

地震や台風、洪水など、突発的に起こる自然災害において、特に高齢者や子ども、障がいのある方などはその影響をより強く受けてしまいます。AARは、今回の災害においても、障がいのある方に支援が届かないことが懸念されたため、地震によって機能障がいを負った方、障がいがあるために被災後の生活に苦慮している方に対し、あるいはそのような方と共に、支援活動を実施しました。

具体的には、カトマンズにある障がい当事者団体CIL(Center for Independent Living in Kathmandu)と協働し、車いすを製造・配付する活動を行いました。これまでネパールでは、必要とされていながらも車いすの製造を行なっている団体がなかったため、車いす製造のノウハウを一(いち)から習得する必要がありました。金属の溶接や切断など製造に関する技術の習得の他、どのような車いすのデザインにするかなど一から話し合いを進め、合計100台の車いすを提供することができました。CILと協働で製造したのは、折り畳むことのできる比較的軽いアルミ製の車いすです。この種の車いすはスクーターに乗せて運ぶこともでき、また、建物の中では抵抗なくスムーズに移動することができます。この車いすを使うようになってから、トイレに一人で行けるようになったという方もいました。

さらに、CILとAARは、被災した障がいのある方に対し、自立生活プログラムを実施しました。自立生活プログラムとは、自己決定に基づき自らの生活を組み立てるという自立した生活を目指すプログラムです。CILの代表であるクリシュナ氏は、2004年に日本で自立生活プログラムを学んで以来、自ら実施するのは今回が初めてだと言っていました。プログラムに参加した人は、「この体(対マヒ)で生活できるとは思ってもいなかったが、希望が持てた」「クリシュナさんのように活躍している人と知り合えて、自信になった」と話していました。このプログラムに参加する前の参加者の様子を知っているクリシュナ氏によると、多くの参加者がプログラムをきっかけに、それぞれのペースで前を向こうとしている、ということでした。さらにクリシュナ氏は、「プログラムによる成果の一つは、こうしてつながれたことであり、このつながりを大切に、一人ひとりの生活がさらによくなるよう活動を続けていきたい」と力強く話してくれました。

緊急支援における支援団体の役目

今回の地震は、ネパールにおいてここ80年で最大規模だと言われています。一生に一度、経験するかどうかもわからないほど、稀有な規模の災害でした。そのため、AARをはじめ多くの支援団体が発災直後より現場に入り、支援活動を行なってきました。誰もがこのような災害に見舞われずに平穏に過ごしたいと思うのは当たり前です。しかし、こうした災害に何か意味を見出すとすれば、この災害によって出会った方とのつながりや経験は、次なる災害に備える、また災害による被害をより少なくする「種」になると言えるのではないでしょうか。事実、この地震においても、AARが長年関わっているカンボジアの障がい当事者団体が、ネパールのCILにAARの支援活動を伝えたことがきっかけとなり、CILとAARが協働で事業を行うに至りました。つまり、カンボジアでの活動で得られた「種」は、ネパールに渡って「花」になったのだろうと思います。

災害支援の現場では、被災者のニーズに応え支援をするということの他に、こうして、災害の現場で交わした言葉や培った経験をその後の災害に役立たせることも、AARのような支援団体の役目のひとつです。さらに、こうした活動によって気心の知れた仲といえる人が世界各地にでき、災害など緊急事態においても共に助け合える関係を作るということは、共生社会の実現に向けた支援団体の大事な役目だと感じています。

(おおむろかずや NPO法人AAR Japan(難民を助ける会)支援事業部)


1)Government of Nepal, 2016. Post Disaster Recovery Framework