音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年7月号

地域における障害者の暮らしを支える
~医療的ケアが必要な人たちの暮らしを支える~

田崎憲一

グループホームからーずで暮らすAさん

Aさんは昭和49年12月21日生まれの42歳。身障手帳1種1級。愛の手帳A1。レット症候群による四肢マヒ。障害程度区分「6」。10年ほど前に両親が相次いで他界。兄、弟は県内、市内で健在。

平成5年、養護学校高等部卒業後、社会福祉法人訪問の家「朋」通所利用。数年後、母の突然の体調不良を契機に、重症心身障害児者施設に入所される。

その後、Aさんらしい暮らしを求め家族と話し合い、訪問の家が開始するグループホームでの暮らしを目指すこととなった。入所施設の職員とも連携し、グループホーム入居に向け準備を進め、平成17年、グループホームからーずの立ち上げと同時に施設を退所し、新たな暮らしが始まった。趣味は食べ歩きでグルメなAさん。デートと称して大好きな人と大好物の肉料理を食べに行き、またおしゃれ好きで皆に注目されることも楽しんでいる。そんなAさんだが嚥下機能に問題があり、日頃から日中の専門スタッフ(看護師や歯科衛生士等)や職員の経過観察の下、摂食について食事形態や摂食方法等、配慮しながら対応している。

グループホームからーずでの暮らし

Aさんが本人らしく暮らすための支援として、計画相談(平成28年~)が中心となり検討されたウィークリープランの下、横浜市より月379.5時間の重度訪問介護サービスの支給決定を受けている(資料2)。

資料2
図 資料2拡大図・テキスト

からーずには他に、3人のメンバーの同居者がいる(資料1)。女性Kさん、40代後半、区分6。男性Uさん、40代前半、区分6。男性Hさん、50代前半、区分3。女性Kさんと男性UさんもAさん同様、横浜市より月約350時間程度の重度訪問介護サービスの支給決定を受け暮らしている。

資料1
図 資料1拡大図・テキスト

ヘルパーは主に当法人の居宅介護事業所「さくら草」より派遣され、日中活動から帰る15時30分からグループホーム職員または、ヘルパー3人(夜間は2人体制)の介助者の体制で生活している(資料3)。本人のペースや生活観を大切にして関わることを基本とし、多くのヘルパーに支えられている。Aさんは食前や喘鳴が多い時など、吸引が必要となる。グループホーム職員の他、日頃関わっているヘルパーにも鼻腔、口腔からの吸引行為をお願いしている。

資料3
図 資料3拡大図・テキスト

ヘルパーに医療的ケアを依頼するにあたり、派遣先である「さくら草」が喀痰吸引等研修実施登録機関となり、年1~2回の喀痰吸引等の基本研修を実施し、朋診療所の指導ナースの下、実地指導を行い、医療的ケアを担う人材を育成している。

多くのヘルパーが関わる中、Aさんの体調の様子や思いを共有するため、からーずの世話人を中心に支援者間でのコミュニケーションを重視している。日々の記録の他、月1回の介助者ミーティングを開き、支援者間で情報共有を行なっている。日中活動先との情報伝達や共有も密にするよう心がけている。

健康管理については、法人が運営する朋診療所がホームドクター的な役割を担いバックアップしている。休日夜間にホームで緊急事態や体調に異変が生じた場合、朋診療所の看護師や朋の看護師へ連絡がとれる体制となっている。ナース電話(24時間365日)を経由し、必要に応じて朋診療所ドクターからの指示も得られ、大きな安心サポートになっている。

Aさんの体調の変化

Aさんは平成28年春頃から食事中にむせることが多くなり、吸引することも増えた。そして、主治医である重症心身障害児者施設へ誤嚥性肺炎で入退院を繰り返すことが多くなった。主治医からは本人の健康状態を心配され、本人に負担のない方法での栄養摂取の提案等があり、Aさんの暮らし方について関係者間での検討がなされた。主治医と何度も話し合い、Aさんにとってからーずでの暮らしを続け、以前と同じように好きな所に出かけ、食べたり、買い物をしたりすることを望んでいるのではないかと考え胃ろう造設に至った。造設後の不安を抱いていた弟さんもからーずを訪れ、日頃、関わっているヘルパーとのやりとりを見て、「安心しました」と言われていた。

胃ろう造設後、入院していた施設の指導看護師の下、1か月という短期間でグループホーム職員やヘルパーに実地指導をしていただき、数か月ぶりにからーずでの暮らしを再開することができた。からーずでの暮らしも落ち着き、この4月には本人を取り巻く関係者に、帰ってきたことを報告する「ただいまの会」を開催し、用意されたさくらプリンを食べながら、満面な笑みを見せていた。

現在、食事は経口摂取から胃ろうでの注入が主となったが、Aさんらしく暮らすための関わり、思いの実現に向けた支援は変わりなく続いている。5月には三浦にからーず旅行に行ってきた。ホテルに着くなり、うれしくて笑いが止まらず、涙を流していた。ホームに帰ってからも、旅行の話をするたびに「お風呂が良かった」に笑顔で応えていた。

グループホームの今後の課題

訪問の家グループホームで暮らすメンバーは全介助を要し、コミュニケーションを図ることも容易ではないため、意思の確認や健康面の管理等、加齢と共にきめ細かな健康観察、気づきが必要となってきた。

平成29年4月、朋診療所からグループホームを担当する看護師を配置しホームでの健康管理を強化した。医療的ケアを担う人材育成にも繋(つな)がると考えている。ホーム担当看護師の存在は緊急時の判断、対応が迅速に出され、職員、ヘルパーとも安心感が増した。しかし、31人のメンバーに対し1人の配置で負担が多く、今後の課題である。

そして、本人らしく暮らすために欠かせないのが人材確保である。現在、重度訪問介護サービスとして、さくら草から約80人のヘルパーが8か所の栄区内のホームに派遣されている。多くの人手を要するメンバーにとって、重度訪問介護サービスは欠かせないサービスである。しかし、グループホームへの派遣は平成30年3月までの経過措置となっており、今後については非常に不安な状況である。これまで同様、本人らしいグループホームでの暮らしを継続・実現していくために、一人ひとりを取り巻く人の輪を大切に実践を続けていきたい。

(たざきけんいち 訪問の家グループホームサービス管理責任者)