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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年7月号

1000字提言

ある自殺事件から

雨宮処凛

4月、「立川市生活保護廃止自殺事件調査団」という調査団が結成され、私もその一員となった。

15年12月、東京都立川市で生活保護を受けていた40代の男性が自殺したのだ。自殺前日、彼のもとには生活保護を廃止する旨の通知が市から送られていた。それを見て絶望したことが予想される。

この自殺が発覚したのは、15年の大晦日、立川の共産党市議団に「○○(男性の名前)の知人」と称する人物から届いた一通のFAXによってだった。

「立川市職員に生活保護者が殺された! 真相を追及して公開、処分してほしい 知り合いの○○が高松町3丁目のアパートで12月10日に自殺した 担当者の非情なやり方に命を絶ったよ 貧乏人は死ぬしかないのか 担当者、上司、課長は何やっているのだ 殺人罪だ」

私の手元には、亡くなった男性の経歴が書かれたものがある。その経歴は、この20年の「雇用破壊の犠牲者」と呼びたくなるものだった。20代半ばまでは正社員として自動車工場などで働くものの、90年代後半頃から派遣の職を転々とするようになる。そうしてリーマンショック前年の07年、派遣切りに遭い、路上生活に。その後、支援団体の助けを得て生活保護を受けるのだが、数年後、命を絶ってしまったのだ。

生活保護が廃止された理由は「就労指導違反」。

「働け」と指導したのに働かないという理由だ。が、彼の経歴などを見た支援者が口にしたのは「軽い知的障害や発達障害があったのでは」ということだ。また、生前の彼と接したことのある支援団体の人によると、「死にたい」と口にすることもあり、うつ状態が疑われたという。

この10年ほど、路上に追いやられる人々の現場を見ているが、驚くのは軽度の知的障害や発達障害を抱えた人の多さだ。仕事が続かない、職場でいじめに遭う、生活保護を受けるもののどうしても仕事が見つからない――。そんな人々の背景に、それまで「発見されてこなかった障害」があったという話は少なくない。もしかしたら、自殺した彼にもなんらかの障害があったのではないか。そうであれば役所がすべきは「厳しい就労指導」でも「それに従わないから保護を打ち切る」ことでもなく、適切な支援に繋(つな)げることではないのだろうか。

しかし、そういった配慮はなされず、保護は打ち切られた。市の職員は、彼に路上生活の経験があることから「廃止してもなんらかの形で生きていけるんじゃないか」と話したという。が、彼は路上生活に戻ることよりも死を選んだのだ。

発見されていない障害と、ホームレス問題。この部分にもっと光を当てることが必要だと、今、痛感している。


【プロフィール】

あまみやかりん。1975年、北海道生まれ。作家・活動家。反貧困ネットワーク世話人。「公正な税制を求める市民連絡会」共同代表。格差・貧困問題、生きづらさの問題に取り組む。最新刊『女子と貧困 乗り越え、助け合うために』など著書多数。