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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年7月号

知り隊おしえ隊

運動に対する苦手意識を予防しよう!
学齢期の高機能発達障害児に対するスポーツ支援

小島匡治

はじめに

筆者が勤務する障害者スポーツ文化センター横浜ラポール(以下、ラポール)では、関連する発達支援事業所(以下、事業所)の卒園児に対するスポーツ支援に取り組んでいます。この取り組みは、事業所が実施する卒園児フォローの一環です。子どもたちが興味を持つ活動(造形、料理、スポーツなど)から、安心して過ごせる場の提供を目的としています。

対象児は、知的な遅れを伴わないため、定型発達児と共に運動やスポーツ活動に取り組みます。その中で、障害特性に合わない運動課題から、達成感や成就感が得られなかったり、仲間との関わりの中で失敗したりする経験など、何らかのきっかけで、運動に対する苦手意識を抱く傾向があります。

この取り組みに関連して、運動やスポーツに対する意識についての聞き取りを行いました。幼児期では、体を動かすことに好意的でした。1年生では、体を動かすことは好きでしたが、苦手意識を持つ傾向があることを確認しています。1年生の嫌いな種目として、多くが縄跳び、跳び箱、ドッジボールを挙げていました。ちなみに、好きな種目にはサッカーが挙げられていました。運動・スポーツ参加では、不参加の方は若干名で、何らかの地域スポーツに参加していました。

支援のポイント

一般に幼少期は、生涯にわたる運動・スポーツ参加への土台づくりに大変重要な時期にあります。そのため、運動に対する肯定的な経験を積むことが必要です。その点で、学齢期に生じる運動に対する苦手意識は、生涯スポーツ獲得の視点から大変深刻な問題です。その意味で、事業所との連携による早期の支援は大変有効と捉えています。そのような中、運動やスポーツに対する苦手意識への配慮をポイントに、適切な運動課題の設定と関わり方の工夫から、体を動かすことの心地よさや楽しさの体感をねらいに、実施内容を整理しています。今回は、この実践の様子をご紹介致します。

実施の状況

参加者は、知的障害を伴わない、あるいは境界域にある小学生で、自閉症スペクトラム障害(以下、ASD)が中心です。就学前は、事業所で早期療育を受けていて、運動プログラムにも参加していました。現在は、通常級または個別支援級に在籍しています。参加希望者は、ほとんどが男子で、低学年が多く、高学年になるほど少なくなる傾向があります。

現在、4か所の事業所で、低学年、中学年、高学年ごとに対応しています。実施は、学校の長期休みを利用して年間1~2回。時間は、始まりの会と終わりの会を含めて約2時間です。実施回数から、スポーツを導入する体験レベルの場となっています。そのため、専門指導者による指導の場というよりは、大人のサポートの中で気軽に体を動かす設定です。実施場所は、事業所の立地に応じて、事業所内のプレイルームや近隣の体育施設、高学年では地域のボウリング場も使用しています。

対象児の「やってみたい!」「できた!」「もっとやりたい!」を身近な地域で行えるよう、種目の選定、運動課題の調整、関わり方を工夫しています。参加人数によりますが、仲間との関わりを考慮して、3~5人のグループに分けて、課題に挑戦します。

運動課題の設定

種目の選定では、対象児が興味のある種目を前提としています。具体的には、野球(ティーバッティング)、サッカー(シュート、図1)、ゴルフ(グラウンドゴルフの用具を活用したパター、図2)、ボウリング、フライングディスク(ディスクの的入れ)などです。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図1、図2はウェブには掲載しておりません。

次に、運動課題の調整では、動きの分類に対する配慮を行なっています。

一点目は、環境的な側面です。動きには、1.不安定で予測不可能な環境下で行う動き(オープンスキル)と、2.安定していて予測可能な環境下で行う動き(クローズドスキル)があります。1は、ドッジボールやサッカーのゲームなど、人や物の外的要因から課題が常に変化するため動作が難しくなります。2は、ボウリングやサッカーのシュートなどで、課題が固定しているため、1よりも動作はしやすくなります。

二点目は、時系列的な側面です。動きには、1.始まりと終わりが明確な動き(ボウリングの投球、サッカーのシュート、野球のバッティングなど、投げる、蹴る、打つなどの動き)、2.繰り返し行う動き(ボールのドリブル、水泳、自転車など)、3.別々の動きを組み合わせて素早く行う動き(サッカーのドリブルシュート、跳び箱や縄跳びなど)に分かれます。1は単純、2も比較的単純ですが、3は複雑です。

スポーツ導入段階であることから、固定された目標物に対して、始まりと終わりのある動きを設定しています。たとえば、ボウリングのピンを倒す、ティーバーの上のボールを打つなどです。幼児期に経験する、走る、跳ぶ、投げる、などの動きを、スポーツの象徴的な動きと関連づけて、スポーツに触れ、親しむ設定にしました。

関わり方の工夫

関わり方の工夫では、事業所スタッフのアドバイスから、ASDに有効な、構造化、視覚化、シンプルな言葉がけ、スモールステップ、正のフィードバックなどに基づいて進めています。

事前準備として、集合スペースには、スケジュール表を提示します(図3)。活動全体の流れを視覚的に提示して、見通しを持って参加できるようにします。低学年には、達成度を目で見て確認できるように、約束や挑戦するスポーツを書いたチェックシート(図4、5)を渡し、できたらスタンプを押して流れと達成度を確認できるようにしています。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図3、図4、図5はウェブには掲載しておりません。

スポーツのスペースは、各種目のセットを配置して構造化しています。また、ボールやゴールを大きくしたり、目標物までの距離を調整したり、ボールを転がす方向にラインテープを施したりして、個々の運動能力に応じて取り組めるよう準備します。種目ごとに、手順(取り組み方や流れ)やルール(回数など)、約束やマナー(順番や用具の扱い方など)をメニュー表にして提示します(図6)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図6はウェブには掲載しておりません。

各種目は、説明を聞く→見本を見る→練習する→課題に挑戦する→フィードバックの流れを基本にしています。説明場面では、言葉による説明をシンプルにするための手がかりを活用します。たとえば、ティーバッティングでは、取り組む回数分のボールを箱に用意したり(図7)、バットの握る位置や構える場所にテープを貼ったりするなどです。見本場面では、構える→ボールを見る→当てる、のように動きを分割し、1→2→3のリズムも伝え、言語的な手がかりからも動きを引き出せるようにします。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図7はウェブには掲載しておりません。

また、失敗場面や交替場面の振る舞い方も示します。たとえば、失敗場面では、「次また挑戦!」、「悔しくてもバットを投げない!」、交替場面では、「バットは優しく箱に置く」などの行動を見せます。挑戦場面では、バッティング1回ごとに、成功は褒め、失敗は励まします(図8)。失敗しても許容されることを体験します。あわせて、グループの仲間には、褒め方「ナイス!」や励まし方「ドンマイ!」などの関わり方のロールモデルをしています。動作を急いだり、動きの調整が難かったりする場面が見られたら、見本場面で示した声がけから、動作を調整しています。フィードバック場面では、課題が終了したら、ルールや約束を守って活動できたこと、失敗しても挑戦したこと、仲間を励ましたことなどの、良かった点を取りあげて称賛します。低学年では、課題に挑戦して達成したらスタンプを押します(図9)。さらに、全体の終了の際にも、最後まで取り組めたことや、課題に挑戦して達成したことなど、成功体験を積めるよう、正のフィードバックを行います。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図8、図9はウェブには掲載しておりません。

参加者の様子と今後について

先に述べてきたような配慮や工夫をしたことで、初参加児が多い中、最後までグループで活動を共にすることができました。終了後の感想では、肯定的な評価を多数から得られました。

今後は、活動の継続性と安定化を図るための環境整備を行います。事業所近隣のスポーツ資源に対する啓発も必要と考えています。スポーツ活動を共に行う仲間の形成、発達障害の特性を活用した種目の再考などから、より興味を持って活動できる、地域スポーツによる発達障害児の余暇場面を支援していければと思います。また、保護者が学齢期の運動・スポーツの意義を理解し、特性に応じた対応をすることも大切なため、そのための情報を伝えていくことも役割と考えています。

(こじまきょうじ 横浜ラポールスポーツ事業課)