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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年7月号

列島縦断ネットワーキング【山梨】

社会との架け橋づくり
「八ヶ岳名水会」が取り組む「日野春學舎構想」ブリッジスクールについて

窪川敦之

1 法人設立から現在までの経緯

「社会福祉法人八ヶ岳名水会」は平成4年に設立されました。初代理事長 坂本清満が私財をなげうって、北巨摩郡長坂町小荒間(当時)に法人を立ち上げ、翌平成5年4月に入所更生施設(当時)「星の里」を開設してから、早いもので今年で26年目になります。

当法人の活動は、この間さまざまな方々に支えられ育てられて、現在は入所施設を1、通所施設を3、地域生活支援センターを1、グループホームを19か所展開するまでになり、さらに相談支援も加え、さまざまな要請に広く応えられるよう体制を整えてまいりました。

月日は流れましたが、開設間もない頃に掲げた「たとえ障がいがあっても、地域という大きな家族の中で支え合って安心して暮らせる社会の実現」という理念は、現在の第5代目理事長坂本ちづ子まで変わらずに受け継がれています。

さて、少し時間を遡って平成24年度末、当法人の通所施設が集まる北杜市長坂町長坂下条地区に所在する北杜市立日野春小学校が、児童数の減少によって閉校されることとなりました(写真)。当法人では、ちょうど隣接する通所施設の利用者数が定員一杯になっていたこともあり、まずは活動場所として利用できればとプロポーザルに手を挙げることにしましたが、創立140年というこの学校の歴史を想った時、ここを当法人だけのために使うのではなく、大きな器として何か新しい取り組みを興(おこ)せないかという思いが自然と浮かびました。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真はウェブには掲載しておりません。

当法人が活動を展開する山梨県峡北地域を見渡すと、全国各地の農山村と同じく、徐々に、しかし確実に衰退しようとしていました。あと10年すると、地域で大切に受け継がれてきた伝統も文化も、そしてそれを守ろうという意思もすべて途絶えてしまうのではないかという危機感が募ると同時に、この10年が勝負だという強い使命感が起こりました。法人設立以来、ひとえに地域住民の方々のご理解とご協力により活動を展開し、信頼関係を築いてきました。その地域への恩返しの気持ちを込めて、地域社会全体の再生と活性化を住民参加で実現したいと考えました。

2 「日野春學舎構想」及び「ブリッジスクール」について

私たちが地域に貢献できることは何かと改めて考えた結果、当法人がこれまでの取り組みで培った強みである農業とアートと、「ブリッジスクール」を3本柱として、法人本部長の小泉晃彦が中心となって取りまとめたものが「日野春學舎構想」です。因(ちな)みに「日野春學舎」という名称は、日野春小学校の名を継ぎ、これからもさまざまな人々が集って学び合い、力を合わせて課題を解決していける場にしたい、という願いを込めて私たちが命名したものです(図1)。

図1 日野春學舎構想〈3部門とそのとその連携〉
図1 日野春學舎構想〈3部門とそのとその連携〉拡大図・テキスト

「ブリッジスクール」は、社会から疎外されてさまざまな生き辛さを抱えた方たちと社会との間に橋(ブリッジ)を架ける学びの場(スクール)を作ることを目指しています。私たちが「ブリッジスクール」に至った過程には、設立以来取り組んできたいくつかの実績がありました。

障がい者の就労に関しては、就労移行支援事業に制度開始当初から取り組み、平成15年度からは「障がい者就業・生活支援センター」事業を開始し、地元企業とも太いパイプを築いて障がい者雇用への道筋を付けてきました。触法者等の支援に関しては、「地域生活定着支援センター」(平成23年開設)及び「自立準備ホーム」が稼働して、総合的なサポートを行なってきました。

また、連携法人である「NPO法人杜の風」においては、この地域に住む発達に課題のあるお子さんについて、幼少期から関わって保護者と共に成長を見守り、信頼関係も築いてきました。これらの取り組みの過程で、既存の制度の狭間(はざま)にある方々が社会的に取り残されている、という課題に直面したのです。

この課題の解決に向けて、まず、一旦(いったん)社会に出たものの躓(つまづ)いてしまった方たちがリトライできるよう学び直す機会を作ることにしました。この講座では、外部講師にもご協力を仰ぎ、彼らの人生の中で学ぶ機会の乏しかったと思われる社会参加のルールや労働法規、さらに“そもそもなぜ働くのか”といった根本的な問いも取り上げました。彼らは、同じような境遇にある仲間とともに学び直す機会を得たことで、互いに励まし合いながら、一人ひとりが自分にとっての解決策を見つけ出そうとする意志を持つことができたようでした。また、企業見学や職業体験の機会を設けることで、職業イメージ作りとともに企業との関係作りが図られました。

そうしたさまざまな取り組みにより、彼らを理解して支える人垣が少しずつ作られ、彼らも失敗を恐れず、自分自身の可能性を信じることができるようになっていきました。

彼らの居場所と学びの場を「學舎=まなびや」として充実させ、さらに確かな「人材=人財」となるように支え、実績を積むことで、広く企業や社会の理解を醸成して、連携していただいた企業への就職の道を拓(ひら)くことを目指すとともに、一般就労はハードルが高い方には、より手厚い人垣の中で働くことができる場として、当法人で取り組む農業や、施設の美化や修繕等の管理業務、厨房での調理や皿洗い等の中間的雇用を立ち上げました。

平成28年度からは、社会へ出ること自体が課題となっている、いわゆる「引きこもり」の方たち等への支援として、安心して過ごせる居場所づくりを掲げた「つどいコース」を開設しました。また、中高生向けの取り組みとして「チャレンジワーク」を開設し、夏休みや冬休みを利用して、発達障害等の課題によって将来像を上手くイメージできずにいる本人及び保護者向けに職業体験の機会等を提供し、より早い成長段階からの関わりによって、社会参加や労働の意欲を持てるようにするための支援を始めました。

こうして、それぞれのライフステージにおいて、多様な課題を抱えた彼らと社会とを結ぶ柔軟な架け橋を創造して展開する、包括的な支援モデルの構築を目指しています(図2)。

図2 ブリッジスクール支援モデル〈年齢と支援ステージ〉
図2 ブリッジスクール支援モデル〈年齢と支援ステージ〉拡大図・テキスト

3 まとめ

この構想は大変多岐にわたっているため、全体を自立的な活動として継続発展させていくためには、さまざまな試行的な取り組みを重ねて実績を積み、戦略的な運営システムを構築する必要があります。幸いにも、立ち上げに当たっては、この構想の趣旨を認めていただいた日本財団から助成をいただくことができました(平成26、27、28年度)。さらに、その先に見えてきた課題の解決を目指した計画に、平成29年度は福祉医療機構の助成をいただけることになりました。構想の実現は道半ばですが、自立の暁には、地域社会を広汎に巻き込んで、地域を元気にする多種多様な活動展開が実現できるものと期待も膨らんでいます。

結びになりましたが、この場をお借りして、この構想を進めるにあたってお世話になりましたすべての方々に厚く感謝申し上げるとともに、引き続きのご協力をいただけますよう重ねてお願い申し上げます。

(くぼかわあつゆき 社会福祉法人八ヶ岳名水会企画事業部)