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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年8月号

バリアフリー法見直しと2つの2020

尾上浩二

今年6月27日に「バリアフリー法及び関連施策のあり方に関する検討会」報告書1)がまとめられた。2000年に成立した交通バリアフリー法は、2006年にハートビル法と統合され、現在のバリアフリー法となった。それから10年ぶりの見直しということになる。ようやく動き始めたバリアフリー法改正が内外の要請に応えたものになるか、2つの「2020」がその試金石となる。

東京オリパラ2020とIPCガイド

一つ目の「2020」は言うまでもなく、東京オリンピック・パラリンピックだ。オリパラ2020の東京誘致した際の立候補ファイルには、「優れたアクセシビリティの実現」として「会場、宿泊施設、交通施設等において障害者だけでなく、高齢者等も含めた全ての人へ優れたアクセシビリティを提供する」と明記されていた。大会開催はもちろん、それにとどまらないレガシーが残せるかが大きなポイントだ。

IPC(国際パラリンピック委員会)は、2013年に「アクセシビリティガイド2)」をまとめている。その冒頭には、「アクセスは基本的人権であり、社会的公正の基本である」と「人権としてのアクセス」を明確に規定している。

さらに、「アクセシビリティとインクルージョン」を基本原則に掲げ、その下に「公平」「尊厳」「機能性」の3つの原則を示している。「公平」には「全ての人々が、個人の機能的能力に関係なく、同じ体験あるいは同じ水準のサービスを受けられるようにする。どんな利用者または利用者グループも分離してはならない」といったことが記されている。「尊厳」では「その利用者が誰であっても、必ずその人を尊重し名誉を守らなければならない。各人は、自らのペースで、自らが好む利用方法を選択できなければならない」とされている。

こうした理念と基本原則を掲げたIPCガイドが求める水準に応え得るかが、一つ目の試金石だ。

障害者権利条約審査とアクセシビリティ

もう一つの「2020」は、障害者権利条約に関する審査である。国連の障害者権利委員会による日本の審査は2020年くらいと見込まれている。この審査に耐え得るかが、もう一つの試金石だ。

権利条約では、第3条、第4条、第5条、第20条なども本稿のテーマに関係するが、ここでは第9条「アクセシビリティ(施設及びサービス等の利用の容易さ)」に記されている内容を中心に述べたい。

第9条では、「障害者が自立して生活し、及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にすることを目的として、障害者が、他の者との平等を基礎として、都市及び農村の双方において、物理的環境、輸送機関、情報通信(情報通信機器及び情報通信システムを含む。)並びに公衆に開放され、又は提供される他の施設及びサービスを利用する機会を有することを確保するための適当な措置」を批准国に求めている。

障害者権利委員会は、この第9条の解釈に当たる「一般的意見」3)を2014年に採択している。「一般的意見」では、「条約第9条では、障害のある人が自立して生活し、社会に完全かつ平等に参加し、そのすべての人権と基本的自由を、他の者との平等を基礎として、制限されることなく享有するための前提条件としてのアクセシビリティを、明確に謳っている」と述べ、アクセシビリティは「障害者が地域で自立生活をし、社会に参加し、各種権利を行使する前提条件」であることを明らかにしている。

そして、「アクセシビリティは、障害のある人が自立して生活し、社会に完全かつ平等に参加するための前提条件であることから、…アクセスの否認は、差別に照らして検討されなければならない」と差別禁止との関係も明確にしている。

国内外の要請に応えるバリアフリー法改正を

バリアフリー法では、「高齢者、障害者等の移動上及び施設の利用上の利便性及び安全性の向上の促進を図り、もって公共の福祉の増進に資すること」(第1条)が目的とされている。事業法として、国が定めた基準を事業者が守れば、結果として「高齢者、障害者等の移動や利用の利便性が向上するだろう」との想定に立つ法律と言える。そのため、「移動の権利」や「尊厳性の尊重」、「差別禁止」といったことは全く記されていない。IPCガイドや権利条約に記されている「人権としてのアクセス」や「差別禁止」という点を盛り込んだ改正が、見直しの論点の筆頭となろう。

さらに、権利条約批准の制度改革として進められてきた改正・障害者基本法や障害者差別解消法との関係からも求められる点がいくつもある。

一つ目は、障害の社会モデルの採用である。現行バリアフリー法の障害者等の定義として「日常生活又は社会生活に身体の機能上の制限を受ける者」(第2条)と、旧来の医学モデルに基づいた定義のままだ。厳密に言えば、知的、精神、発達障害、難病などが除外される規定となっており、早急に社会モデルに基づく定義に変更する必要がある。

二つ目は、インクルーシブ社会実現の明記である。バリアフリー法の目的になっている「公共の福祉の増進」は、何をもって「増進」と言えるのか不明である。基本法等に記されている「障害の有無によって分け隔てられることのない共生社会」=インクルーシブ社会の実現を目的とすべきである。このことはインクルーシブに利用できるデザインを促進する点からも重要だ。

三つ目は、合理的配慮との関係を明確にすることである。差別解消法の第5条では、バリアフリー等の取り組みは「合理的配慮を的確に提供するための環境整備」として位置づけられている。先日、バニラエアの車いす利用者に対する差別的対応が大きな問題となった。事件後まもなく、車いすで搭乗できる設備が配備されたという。すぐに配備したこと自体は当然だが、逆に言うと、できるはずの環境整備を怠っていたということでもある。合理的配慮のための環境整備が速やかに進められるような規定が必要である。

四つ目は、障害当事者参画による監視(モニタリング)と評価の仕組みである。2006年のバリアフリー法改正以降、「ユニバーサルデザイン」が強調され、PDCAによるスパイラルアップの重要性も紹介されてきた。だが、肝心のスパイラルアップの鍵となる当事者参画の下での監視や評価システムについては、法律上、位置づけられていない。この明記が必要だ。

その他、紙幅の関係で言及はできないが、他にも重要と思われる項目をあげておく。

  • 都市部、地方部双方でのアクセシビリティ確保のための基準や仕組み
  • 「エレベーターかごの大きさ17人以上」(現行11人)等のIPCガイド基準の導入
  • 権利条約・第20条(個人の移動)との関係で、STSや移動支援も含めた「切れ目のない移動」の確保
  • ここ数年、わずか毎年10数件にとどまっている基本構想の実効性確保

最後に、情報バリアフリーに関する法制度も喫緊の課題であることを指摘しておきたい。権利条約では、情報通信分野のアクセシビリティも対象にしているが、国内的には情報バリアフリーを総合的に進める法律は不在である。たとえば、諸外国で実施されている聴覚障害者向けの電話リレーサービスが、日本ではユニバーサルサービスとして提供されていない。そのために、IPCガイドではリレーサービスの提供を求めているが、Tokyo2020のガイドではリレーサービスの記載が見送られるという、恥ずべき状況にある。早急な取り組みが求められる。

(おのうえこうじ DPI日本会議副議長)


【注】

1)報告書全文は国土交通省のウェブサイトに掲載されている。
http://www.mlit.go.jp/report/press/sogo09_hh_000159.html

2)IPCアクセシビリティガイドの原文・翻訳ともに日本パラリンピック委員会のウェブサイトに掲載されている。
http://www.jsad.or.jp/paralympic/what/data.html

3)第9条の一般的意見の仮訳が日本障害者リハビリテーション協会によってなされている。
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/rightafter/crpd_gc2_2014_article9.html