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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年8月号

リオデジャネイロ オリンピック・パラリンピックの交通バリアフリー調査報告

松原淳・澤田大輔

2020年の東京オリンピック、パラリンピック開催まで3年となりました。1年前の2016年には、ブラジルのリオデジャネイロで南米初のオリンピック、パラリンピックが開催されましたが、皆さん覚えていますか?

我々は2020年に向けて、リオデジャネイロにおける交通機関の対応について調査してきました(2017年1月)。調査の結果、東京への多くの示教がありましたので、ここに報告します。

ヒアリング・現地調査

組織委員会アクセシビリティ担当、リオ市・州政府、障害者権利団体の弁護士、鉄道・バス・車いすタクシー事業者にヒアリング調査を実施した。

1.全般

本来、交通機関は行政が行うという視点で見ると不足している部分があった。特に、オリパラでは一時的な需要増に対応しても、終了後は需要が縮小するので、そこをどう考えるかが重要である。

各組織で職員やボランティアを配置するが、グレーゾーンの対応について問題になる。ライフセーバーのように高いところから見て、支援の指示を出す人を置いたが、案内の管轄があいまいなグレーゾーンはこうした人が必要になってくる。

空港運営会社と一緒に、飛行機一機で多くの障害者が来たときにどのような対応をするかを提出してもらい、どの方法が適切かについて議論し、NGOに依頼しさまざまな障害のある人を50人ほど呼んでトレーニングを行なった。

良いところを広報したいものだが、「行ったら使えなかった」ということが無いように、「できるorできない」の情報をしっかり伝えることが重要である。

2.鉄道・メトロ

大会前には、3日間のリサイクル研修というものを行なって知識のおさらいをした。実際の障害当事者参加については、オリンピック前にロンドンの障害者をリオ市が招待し、乗り物を体験してもらい評価してもらった。海外からの人の不自由さを検証するという点でも良い経験になった。

チケットの販売数から需要を判断し、車両増車などの対応もできた。販売開始後から1週間ごとに更新されるが、障害者用チケットの販売数は分からない。把握のためには空港利用の障害者のカウントをし、そこに空路以外、市内分をプラスして対応した。

3.路線バス

リフト方式は良いものではない。なぜならば車いす専用になってしまうので、ローフロアが良いものである。結果的には、仮設スロープとプラットホームで高床に合わせる方法となった。

通常研修でも障害者対応のマニュアルがあり研修を行なっている(プログラムによって、実技を含め1日から3日程度まである)。

4.車いすタクシー

車いすタクシー事業者はリオで1社しかなく現在は60台。東京でも競技場の出入り口に近い場所に車いす対応のタクシーが待機できる場所を設置すべきだ。

5.法律

憲法をはじめ、障害者向けに89年から何度も法律が変わってきているが、それは紙に書かれているだけで、実際に十分な対応がなされていないのが現状である。

公共交通機関のアクセシビリティに関する基準(ブラジル)

ブラジルのアクセシビリティ政策は「障害者のための国家政策」及び、「障害者のアクセシビリティ推進のための規則」を基にして、ブラジル技術規格協会(ABNT:Associacao Brasileira de Normas Tecnicas )が、建築・設備・都市空間、長距離列車、空港、エレベーター、都市鉄道・地下鉄、道路交通、バス、海上交通等の分野ごとの規準を定めている。これらの規準には、日本で見られない内容のものもあるので、ここではいくつかの例を紹介する。

公共交通に関する主な規準は、表1に示すとおりである。

表1 公共交通に関する主な規準

1.ABNT NBR 09050
建築物、設備のアクセシビリティ及び都市環境
2.ABNT NBR 14021
交通-都市もしくは首都圏の鉄道システムのアクセシビリティ
3.ABNT NBR 14022
都市部で使用する車両の旅客アクセシビリティ
4.ABNT NBR 15570
交通-都市型公共旅客輸送用車両製造者向けの技術仕様
5.ABNT NBR 15646
アクセシビリティ-M1,M2,M3カテゴリー車両における障害者もしくは移動制約者向けアクセシビリティ確保のためのリフト及びスロープの仕様

NBR:Norma Brasileira(ブラジル規準)

鉄道駅や空港などの旅客施設では主として、1のNBR9050の規準が参照される。さらに、首都圏鉄道ではNBR14021の規準が加わって、施設整備が行われている。鉄道車両やバス車両に関しては、NBR14022、NBR15570、NBR15646が適用される。

NBR14021(交通―都市もしくは首都圏の鉄道システムのアクセシビリティ)について

わが国でもバリアフリー法により旅客施設を中心として市街の一体的な整備が進められているが、ブラジルにおいても駅勢圏からのアクセスの確保が明記されている(ただし、具体的な整備内容は今回の調査では明らかになっていない)。

駅の入口については、バリアフリー化が求められている一方で、「障害者や移動制約者のためにバリアフリー化された入口から100メートル以内の距離に位置する入口はバリアフリー化対象外とする。ただし、双方が同じ歩道上に位置すること、あるいは道路により分断されている場合は、双方をつなぐアクセシブルな経路がある場合に限る」とある。日本でもエレベーターなどバリアフリー設備の設置場所が遠く、通常の歩行経路と比べ、車いす使用者などが迂回させられることの問題が指摘されるが、ブラジルでは100メートルまでなら迂回は認められるとも読める。

列車とホームの隙間(すきま)と段差については、具体的な数値規定が設けられている。隙間は10センチ以下、段差は8センチ以下と規定されている。リオデジャネイロの新しい地下鉄路線では、写真4のような櫛形の隙間を埋める工夫がなされていた。列車進入時に点灯するため視認性も高い。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真4はウェブには掲載しておりません。

また、地下鉄を想定して、列車の脇などを通り、避難する場合の避難経路の幅員も50~60センチ確保するように規定されている。

人的対応についても規定

興味深いのは、施設や車両の仕様だけでなく、人的対応による規定があることだ。日常的な接遇・介助(写真5)から、緊急時の介添えによる避難誘導まで明言されている。その内容は表2のとおり。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真5はウェブには掲載しておりません。

表2 人的対応に関する記述

○優先的な対応
都市鉄道・都市圏鉄道は、障害者や移動制約者に対応するために、さまざまな障害の種類や度合いに応じたニーズに配慮し、訓練を受けたスタッフを備え、維持するものとする。
○介添え・介助を受けた利用
都市鉄道・都市圏鉄道の非常時には、通行を支援するために、訓練を受けたスタッフが配置されなければならない。

バス車両

バス車両については、ノンステップバスのスロープ形状やリフトについての細かい規定がある。リフトに関しては、単に車いす使用者のみを対象としたものではなく、歩行困難者も利用する前提で主要寸法が定められている点が興味深い(図1)。路線バスの8割以上がリフト装備でありながら、故障や運転士の操作方法不慣れのため、ほとんど使用されていない実態があるという残念な情報も今回の調査で得ている。

図1 バスの乗降口のリフトでは、立位の歩行困難者の利用も想定されている
図1 バスの乗降口のリフトでは、立位の歩行困難者の利用も想定されている拡大図・テキスト

最後に

リオデジャネイロは危険!オリンピック・パラリンピックはちゃんとできるのか?と言った心配がありましたが、リオは見事にやり遂げました。リオを誤解していたような気がします。日本はリオから多くを学ぶべきだと発見できました。3年後に向けて、我々日本人は謙虚に行かねばなりません。

(注)本稿におけるブラジル基準の日本語訳はすべて交通エコロジー・モビリティ財団の責任において行なったものである。

(まつばらあつし・さわだだいすけ 交通エコロジー・モビリティ財団バリアフリー推進部)