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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年10月号

時代を読む96

サン・グループ事件国家賠償訴訟

「サン・グループ事件国家賠償訴訟」をご存じですか。平成15年3月24日に大津地方裁判所で下された障害者虐待における裁判史上画期的な判決です。

「サン・グループ事件」とは、滋賀県五個荘町の肩パッド製造の民間会社「サン・グループ」(社長和田繁太郎)で起きた障害のある従業員多数への凄惨な虐待事件です。和田は、昭和55年の開業当初から知的障害者等を多数雇用してきました。「一生面倒をみてやる」として入所施設や養護学校(当時)から受け入れ寮住まいをさせ、従業員に支給される年金や預金を横領し、従業員に対し、日常的・恒常的に暴力・暴言などの虐待を行うようになりました。従業員らは平成7年に救出されるまで、長い人で10年以上もの間、和田による恐怖の支配の「見えない鎖」につながれ逃げられない状態の中、暴力・暴言、長時間労働・無償労働、年金横領、治療放棄・寮の劣悪な生活等、数々の虐待に晒(さら)されてきました。中には、精神疾患の薬を取り上げられ工場に放置され、入社から僅(わず)か10か月で体重が半減して死亡した者も出ました。

しかしその間、福祉や労働の各機関には虐待を疑わせる端緒がいくつも届いていたのに対応はなされず、平成6年に県外の地域生活支援のコーディネーターの方が偶然に些細な情報を知ったことを端緒に、行政と連携して平成7年から従業員の救出を行い、警察への告発を行いました。しかし、知的障害者の供述だけでは立証困難として、和田の刑事責任はわずか4件の年金横領だけに終わりました(懲役1年半の実刑)。

そこで、従業員16人及び1遺族は、大阪の弁護団と相談し、和田による虐待の全容解明とともに、早期にサン・グループを調査し救出すべき義務を怠った国や県の福祉・雇用の専門機関の責任を問うため、前例のない国家賠償訴訟を提起しました。

平成15年の大津地裁判決は、知的障害のある原告たちの証言に基づき、和田による数々の虐待の事実を具体的に認定し、県立障害者入所施設には、退所先が適切な環境であるかの事前調査の義務と退所後も生活の定着を確認する法的義務があることを認め、これを怠ったことの賠償責任を認めました。福祉事務所と障害福祉課には、相談の経過から虐待を疑う情報を得ながら対応しなかった場合には違法となる場合があるとしました。さらに、労働基準監督署には、従業員らから救済を求める手紙を受け取りながら無視して権限を行使しなかった責任が断罪され、職業安定所も雇用定着指導を実施せず、和田の言動を盲信した責任が認められました。働く知的障害者の立場に立った正義にあふれた判決でした。

この判決は、障害者虐待について、知的障害者自身の証言に基づき、詳細な虐待の認定と国と県の福祉・労働機関の公的責任を認めた初めての画期的なものとして、その後の障害者虐待防止の諸制度や各地の実践に大きな影響をもたらしました。

(青木佳史(あおきよしふみ) 弁護士)