音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年10月号

聴導犬レオンとの8年間

安藤美紀

私の名前は安藤美紀と申します。鹿児島県生まれで大阪在住。現在の聴導犬パートナーはレオンと言います。柴犬ミックスでオスです。聴導犬ユーザーになってから8年になります。聴導犬と共に生きるようになってから私の人生は180度大きく変わりました。考え方も生活もすべてが変わったと思います。

事の始まりは中学生の息子の反抗期です。息子が反抗期に入るまでは私の耳となり、いつも私のそばでチャイムの音や電話に対応してくれたり、家の中の音を教えてくれていました。そんな息子が反抗期に入り、自分の部屋にいるか、外に出ることが増え、教えてくれなくなりました。

その時、私は息子に頼り過ぎてはよくない、息子がいなくても生きていけるようにならなくては、と思った時、頭に浮かんだのは「聴導犬」でした。

聴導犬のユーザーになりたいと私は遠く離れている実家の母に相談すると、即反対されました。

「聞こえる息子がいるのに、なんで聴導犬なの?あなたは言葉を頑張って訓練して普通と変わりなく話せるし、どこが不満なの?」と言われました。でも、私は今まで言いたくても言えなかったことを母に言うことができました。

「お母さん、私をよく見て。私は言葉は話せるけど、耳はまったく聞こえないの」。母はショックを受けました。私の障害は、母の中では「重荷」だったようです。「お母さん、ごめんね」。そう言って私は母のそばを離れました。

鹿児島空港から伊丹空港に到着すると、自分の携帯にメールが届きました。それは母からの初めてのメールでした。母は私と別れたあと、携帯ショップに行って携帯を契約し、初めてのメールを私の携帯に送りました。「ごめんね」。その一言に私は涙が止まりませんでした。

こうして、私は聴導犬レオンと一緒に生きるようになったのですが、「聴導犬」のことは社会に知られてなく、駅員さん、警備員さんに追いかけられたり、飲食店の同伴拒否もありました。

聴導犬をペットと間違えてしまうことはよくあることです。そして、私は初めて会う人とコミュニケーションを取るのが大変です。口の形を読み取り、なんとか会話のやりとりができますが、まったく耳が聞こえないので、後ろから声をかけられても分かりません。そこで役に立つのが聴導犬の存在です。

聴導犬と一緒にいると、犬のケープに「聴導犬」と大きく記載しているので、一緒にいる私は聴覚障害者だと分かってくれます。しかし、その反面、「聴導犬」というのはまだまだ社会に知られていません。

聴導犬レオンはもともと捨てられた保護犬です。生後3か月で埼玉のどこかで捨てられていました。あと少しで殺されるところを引き取り、生きるために「聴導犬」になった、真面目な性格のレオンです。

レオンは私が落ち込んでもいつもそばにいてくれて、「大丈夫だよ、なんとかなるよ」と言っているように、鼻の頭で私をツンツンして慰めてくれます。

家の中では目覚まし時計のアラームの音、FAXの音、玄関のチャイムの音、冷蔵庫のドアの開けっ放しを知らせる音楽の音、やかんの鳴る音、家族の呼ぶ声、洗濯機や電子レンジの終わった音、炊飯器の炊き終わった音、自転車や車が後ろから来た音など、いろんな音を教えてくれるようになりました。でも、社会ではまだ聴導犬が広まっていなく、飲食店に同伴拒否されたときは落ち込みますが、聴導犬を広める使命感のようなものが私の心に宿るように、啓蒙活動に至ることになったのもレオンのお蔭です。

さらにレオンがいつも私の身体の一部となり、いろんな音を教えるだけでなく、心の面でも私の大きな支えになっているのも事実です。

レオンが頑張っているからこそ、私も頑張らなくては、と励まされていることに気が付きました。

変わったなぁと思ったのは私の性格です。以前はいつもピリピリして神経質だったのですが、今は丸くなりました。そのお蔭で、いろんな人と対応することも、以前よりスムーズにコミュニケーションを取ることができるようになりました。「いつかは分かってくれるよ」というレオンの無言のアドバイスの効果があったのだと思います。レオンの無言の力のお蔭で、飲食店に聴導犬同伴拒否されても、最後までニコニコして待つという姿勢を取るようになりました。

レオンはいつも静かに私と行動し、待機してくれます。その仕事ぶりは私から見ても素晴らしい犬です。

今も同伴拒否は全くなくなったとは言えませんが、飲食店は聴導犬レオンと笑顔の私を拒否することなく、最後まで対応してくれるようになりました。

レオンは今年の秋、引退します。新しい聴導犬が来てもレオンはペットとして私の家にいながらこれまでどおり、次の聴導犬にアドバイスをしてくれると思っています。そして、私にとっては心のよりどころとなるに違いありません。

(あんどうみき NPO法人MAMIE(マミー))