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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年10月号

座談会
人にも動物にもやさしく楽しい社会を展望する!

串田由幸(くしだよしゆき)
社会福祉法人独歩理事長
小田芳幸(おだよしゆき)
横浜市総合リハビリテーションセンター自立支援部部長、社会福祉士
郡司(ぐんじ)ななえ
全日本盲導犬使用者の会会長
水越(みずこし)みゆき
一般社団法人日本聴導犬推進協会事務局長・育成事業部
司会 高柳友子(たかやなぎともこ)
社会福祉法人日本介助犬協会専務理事、医学博士

補助犬と関わるきっかけ

高柳 補助犬ユーザーになったきっかけ、聴導犬事業者として携わるきっかけ、介助犬・聴導犬の認定機関としての関わりなどを含めて、自己紹介をお願いいたします。

郡司 私は27歳の時、ベーチェット病で失明しました。白杖の訓練を受けて7年くらい、電車やバスにも乗っていましたが、その間に結婚して「目の見えるお母さんのような子育てができるお母さんになりたい」と、犬が死ぬほど嫌いだったのですが、その気持ちを吹き飛ばして、盲導犬使用者になって37年になります。今一緒に暮らしているのは、4頭目のウラン8歳です。来年早々リタイアさせて、最後の子と暮らすため訓練に入ることになっています。

一人息子の子育てから手が離れてから、社会へなんらかの恩返しをしたいと『ベルナのしっぽ』という本を書きました。反響がたくさんあり、夫が亡くなってからは著述業に就いて、お話の会を1200回以上、20数年続けています。現在は全日本盲導犬使用者の会の会長を務めていますが、私の願いは、盲導犬、補助犬の存在が多くの人に影響を与える社会づくりをしたいということです。

串田 今年、還暦になります。38歳の時、首の骨を折って四肢マヒになりました。介助犬に出合ったきっかけは、国際福祉機器展の日本介助犬協会のブースを訪れたことです。高柳先生に勧められ、淡い期待と未知のものへのちょっとした挑戦心を持ちました。介助犬を持って、いろいろな世界が開け、障害者生活を豊かにできてよかったと思っています。

僕は自分が望むような介護をしてくれる事業者がなかったので、訪問介護事業のNPO法人を立ち上げ、その後社会福祉法人にして、訪問介護、グループホーム、就労支援、放課後等デイサービスを行なっています。介助犬と出合って7年半、早ければ半年、遅くとも1年半で1頭目のラリーは引退しますが、介助犬は卒業しようかと思っております。

水越 聴導犬の育成をして20年です。外部から理事長を迎え、3年ほど前に一般社団法人になり、今年中に公益社団法人になる予定です。ユーザーさんが社会参加をすることを目的に活動していますが、社会に出て行く聴導犬が少ないという課題があります。

私が聴導犬を育成するきっかけは、「やる人がいないのでやってほしい」と頼まれたことです。もともとは警察犬などの訓練に関わっていましたが、聴導犬に関わるようになって、手話の技術を取得し、通信制の社会福祉系の大学で学びました。実習に出る時間が取れず、卒業を断念しましたが、ある程度のところまでは勉強しました。

小田 身体障害者補助犬法ができて、横浜市リハビリテーション事業団は厚生労働省から介助犬、聴導犬を認定する指定法人第1号に選ばれました。その時から、認定の仕事にずっと関わっています。

私が所属する横浜リハセンターは、医療だけではなく、社会参加までを目指してリハビリテーションを行なっています。私は福祉職として、障害をもつ方の社会参加と就労支援の役割を担っています。リハビリテーションセンターが、介助犬・聴導犬の指定法人になったのは、この法律が、犬ではなく、人のための法律であるからだと考えます。障害者の自立と社会参加を目指し、法律に沿ってきちんと仕事をしていくことが、指定法人の大きな役割です。

現状を見て、課題を探る

盲導犬と子育てをしてよかった

高柳 ユーザーになって、期待どおりだったこと、期待どおりでなかったこと、期待以上だったこと、課題など、当事者のお2人からお話しいただけますか。

郡司 37年前は、まわりに盲導犬を持っている人は誰もいませんでした。住んでいる江東区亀戸に訓練を受けて戻ってきましたが、全然受け入れてもらえない。こんな状況でお母さんになったら大変だ。でも、お母さんになりたい。最初は区役所でも拒否されたので、どうしてなんだろうかと考えました。

まず盲導犬を知らない。知らないから分からない。分からないから理解してもらえない。理解してもらえないから受け入れてもらえない。まず知ってもらうことから、一歩一歩努力しようと思いました。

盲導犬ベルナとあらゆるところに出かけて、盲導犬の話をしましたが、少し手ごたえを感じたのは丸1年経ってからでした。そのころの私は、銀座とか新宿で盲導犬を分かってもらわなくてもいい。自分が住む町で盲導犬に優しい環境を作るために工夫しました。たとえば、あるお店で入店を断られたら、「そうですか、○○は入れてくれましたよ」とか、「▲▲ホテルは、盲導犬はお客様の1人と言っていますよ」とか。

周囲の受け入れ方は、白い杖とは違います。盲導犬は生きています。所作がかわいい。辛抱強いし、けなげです。37歳で子どもを生みましたが、お母さん友達もいっぱいできて、盲導犬と一緒に子育てをしてよかったと思います。子どもの体が弱かったのでしょっちゅう病院通いもしましたが、白い杖では通いきれなかった。私も努力しましたが、下町だったので状況も非常によかったと思います。

高柳 盲導犬のユーザーが減ってくる、若いユーザーが増えない現状はどう思いますか。

郡司 盲導犬をなかなか受け入れてもらえない冬の時代を知っている使用者は、たまには嫌な思いもするけれど、今はとても暮らしやすいと思います。ウランと生活するようになって、一緒にチェコなど7か国を旅しました。検疫は大変ですが、どこにでも行ける、いい時代になったと思っています。

補助犬法施行後にユーザーになった人たちは、受け入れられることが当たり前だと思っているので、たとえば盲導犬がいることで就労を拒否されたりすると、いることが不自由だと考えます。毎日ブラシをかけないといけない、健康状態がよくない時は面倒を見なければいけないなど、煩わしいことはいっぱいあります。人間よりも早く年を取るので、慣れたころにはリタイアを考えなければならない。こういう問題は、盲導犬が社会に受け入れられてもずっとついてくると思います。

ただ、必要な人は残るわけですから、盲導犬の数が減ることは、使用者にとってそんなに恐れることではないと思っています。

介助犬に社会へ飛び出す勇気をもらった

串田 私は、補助犬法ができてからの介助犬ユーザーですから、郡司さんが戦う盲導犬使用者とすれば、私はレールの上の平和な道を歩む介助犬使用者と例えたほうがいいのかと思います。

同期や先輩の介助犬使用者が入店拒否をされたという話は聞きますが、私は極端な入店拒否にはあっていません。入れてくれなくても、「君の所だけが店ではない、ほかの店に行けばいい」と思っています。自分の行動半径のなかで自分が行動しやすい環境を作っていければ、何ら不自由はないと思います。

介助犬を持ったころにテレビコマーシャルが流れていたこともあり、普通に挨拶していれば、「犬を連れたいいおじさん、連れている犬もいい子ね」という話になって、私に声をかけなくても、犬には声をかけてくれます。不満はあまりない。戦うよりも、周りと調和していくほうがうまくいくと思っています。

介助犬を持って8年近くになるので、初めのころ、中期、現在と、気持ちを整理して話せるようになってきました。初めのころはものすごく期待して、何でもできる、スーパー介助者のように思っていました。

当時、NPO法人を運営しており、日中の介護で不満はありませんでしたが、夜は子どもたちが成人して1人で自宅にいたので、好きな時に布団をはいだり被せたりできたらいいなと思っていました。その時に介助犬を勧められ、自分1人の時間がなくなってしまう24時間介護は受けるつもりはなかったので、介助犬にいろいろ助けてもらえるだろうと期待しました。

中期ごろには、介助犬といっても、やっぱり犬なのだと思いましたが、コミュニケーションツールになるとか、いいことはありました。2頭目の介助犬を持った同期の女性の方は、「介助犬がいるから、頑張れる」と言いましたが、僕も介助犬がいるから土日も起きて散歩しなければいかんなと思う。ダラダラとした時間がなくなり、人生にメリハリをつけてくれるのが、介助犬の効果なのだと思います。

現在は居宅介護事業者として活動しています。僕をここまで元気にしてくれたラリーには申し訳ないのですが、ラリーの引退と共に、介助犬使用者を卒業することにしています。ラリーがいなくなったら、やる気がなくなり、会社の運営がうまくいかなくなるかもしれない。「ラリーがいなくなったら、介助に入るのを辞めるわ」と脅かすヘルパーもいますから、楽しくもあり、悲しくもあり、怖くもありという現状ですかね。

障害をもって一番つらいのは、社会で自分の居場所がなかったり、やることがないことです。介助犬を持つことで社会に飛び出していけたことが一番うれしく、幸せなことです。心を高揚させてくれる存在が介助犬の魅力なのかと思います。

自立と社会参加を補う手段に期待

高柳 いろいろな情報提供、選択に支援をするのがリハビリテーションセンターの使命だと思いますが、補助犬に何を期待しますか。

小田 補助犬は、たくさんある引き出しの1つです。リハ専門職の立場としては、すぐに補助犬がほしいと言われたら、違うと答えるでしょう。生活がきちんと出来上がり、それをトータルで見ることができないといけない。障害をもたれた方が、自分の生活を組み立てて、1つの選択肢として補助犬を選ぶ。その見極めが難しいのですが、見極めにリハ専門職がどう介入していけるのかだと思います。

最初のころは、リハ専門職の方たちと、なぜ犬なのか、さまざまな福祉用具が進歩しているなかで、なぜ犬を選択していくのか、随分やり取りをしました。補助犬の希望相談から認定に関わってきて思うのは、補助犬法が自立と社会参加をうたっていて、自立と社会参加を補う手段としての補助犬を考えるという認識です。そこでは単純に、できないことを補う手段だけではなくて、本人が元気になって社会に出ていく、やる気になるというモチベーションを含めて補助犬を考えなくてはならない。障害をもたれた方の生きる力、モチベーションを高めることができる、それは補助犬が担える役割であると考えた時に、リハ専門職の補助犬に対する理解が深まっていきました。

また、パソコンやスマホ等を通して、さまざまな情報交換ができることも社会参加かもしれませんが、この法律では、犬と一緒に実際に社会に出ていくことが重要なポイントになると考えます。補助犬のなかで、盲導犬は非常に分かりやすい。外で歩行のサポートをしてくれる。聴導犬や介助犬は、使用者さんたちにどのように役立っているかを見る機会が少ないので、そこもPRしていかなければならないし、実感を伴った役割をどう伝えていくのかが必要です。

高柳 元横浜リハセンター長の伊藤利之先生が、どんな重度の障害者でも、目線1つ動かせば、いろいろな環境整備ができるような技術があるなかで、行きたくない、したくないと言われたら、どんな技術があっても意味がない。行きたい、したいという気持ちを引き出せるのが補助犬なのだ。だから、われわれリハビリテーションセンターとして取り組まなければならないと言われたのが一番基本であり、目指すところだと思います。

課題が多い聴導犬

高柳 各障害によって違うとは思いますが、特に中途障害の方は引きこもったり、社会が嫌だと思う時があると思います。気持ちはすごく大事です。そこに寄り添えるのがリハビリテーションであったり、広い意味でリハビリテーションにつながる補助犬なのかと思います。コミュニケーション障害である聴覚障害は、理解を広げることが難しいところが、社会参加を支援する聴導犬が増えないことにつながっているのではと思いますが、いかがですか。

水越 聴導犬に対する考え方が、ユーザーさんそれぞれ違うのが一番の問題ではないかと思います。私たちは社会参加を前提として聴導犬を育てていますが、家の中だけでいいという聴覚障害者もいます。聴覚障害者同士で出かける時、聴導犬を連れていくことで仲間に嫌な思いをさせたくないとか、大変だと思われたくないとか、自分だけお店に入れない時交渉しなければいけないとか、誰かに迷惑をかけるくらいなら家に置いていったほうがいいと考える人たちも結構いて、社会参加までいかない実情があると思います。

外に出た時、「聴導犬の仕事はこれです」と言えるのは、後ろから来る自転車や車の音を知らせることや、誰かが呼んでいることを知らせることですが、一番大きなメリットは、「聞こえない」と周囲に理解してもらえることで、コミュニケーション障害をカバーしてもらえる、周りに聞こえないことを知ってもらって、自分から求めなくても必要な情報が入ってくることです。

今まで1人で生活したり、働いたり、活動したりしてきたけれど、聴導犬がいるともっと違うことができるのではないか、もっと機会が広がっていくのではないかと考えるユーザーさんを輩出していかなければと思います。もっといろいろな経験をしてみようと思うところにつながっていくのが、聴導犬の役割かと思っているので、そういうユーザーさんを育て、サポートしていくことが大事かと思います。

高柳 そもそも自立というのは、自分の意思で自己決定ができて、自分の意思が実現できることです。すべて自分でできる人は世の中にいないわけで、自分自身で必要なことを伝えて、援助を選べることが重要です。そういう意味では、聴覚障害者は援助依頼を一番しにくい障害であるのかと思います。今は「声かけ運動をしましょう」ということもあり、声をかけられる機会はだいぶ多くなりましたが、聴覚障害者の場合は少ない。耳から自然に入る多くの情報が入ってこないことが、聴覚障害者の社会参加、自立の大きな障害になっていることが理解されないのが一番大きな課題だと思います。

水越 今は小学校で障害に関する学習をしているので、その子どもたちが大人になれば、もう少し変わってくると思います。ユーザーさんに電車の中でスマホを見せたり、メモを見せてくれるのは、若い人たちです。社会の中心にいる年代の人たちは、どうしたらいいか分からないのが実情です。障害者への社会的理解がまだ少ないかなと感じています。

補助犬使用者を正しく理解してもらうために

「ありがとうシール」を作成

高柳 全日本盲導犬使用者の会では、よりよい社会を作るために新しい取り組みを始められたそうですね。

郡司 ここ数年、盲導犬使用者の交通事故、駅のホームからの転落事故が続きまして、使用者の会として、いろいろな話し合いの場に出席、そこでどなたもハードの部分をおっしゃるのです。私は、ホームドアなどを充実させれば、視覚障害者の安心・安全が保障されるのか疑問に思っていました。海外では、日本のように、街や駅に点字ブロックがこんなに敷いてあるところはないですよ。目の見えない人たちは点字ブロックを頼りに歩いているのか、周りの人は見てみないふりをしているのかと、2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは恥ずかしいと思います。

盲導犬の歴史は60年ほどですが、盲導犬はスーパードッグと誤解されるところがあって、盲導犬と歩いている私たちには声をかけてはいけない、犬がいるから必要ないのだということが多々あったと思います。青山一丁目駅の事故は8月15日ですが、夕方のラッシュの時間です。蕨駅の事故は土曜日ですが、朝のラッシュの時間です。誰かその行動を見て危ないとアクションを起こそうとする人がいなかったのか。そう思った時、手を差し伸べてくれることは必要なのだと、盲導犬使用者でなければ分からない私たちから発信していかなくてはと思いました。

全日本盲導犬使用者の会は、今年の5月総会で「ありがとう運動」を決議しました。声をかけてもらって助かった時、手を差し伸べてもらってうれしかった時、ありがとうと笑顔で言います。この駅は慣れているので大丈夫とか、今は大丈夫だという時こそ、笑顔のありがとうと言いましょう。

そして時間的に余裕があったら、会オリジナルステッカーを手渡したい。私たちの安心・安全を守ると同時に、こうすることが社会を変える1つのムーブメントになってくれれば、障害者から社会を変えていくことができれば、誰にでも優しい日本になるのではと思います。

高柳 点字ブロックは車いすには大変ですし、段差も同様。ハードとしてはニーズは相反するんです。ユニバーサル社会は、最後はハードでなくてソフトです。みんなが「私に何かできますか」という気持ちが大切です。

串田 郡司さんのシールに感心しました。「ありがとう」ともらったらうれしいですね。人間はほめられることで、次に自信を持って進めるのではないかと思います。介助犬の人も使わせてもらったらと思います。

これから目指すこと

補助犬の必要性・有効性の共通認識を

高柳 それぞれに、今後の展望はいかがですか。

小田 障害者を当たり前に支える共生社会の仕組みができていたら、補助犬はなくても