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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年10月号

霞が関BOX

高齢者・障害者を支援する製品・サービスの標準化について

経済産業省産業技術環境局国際標準課 木原由起子

JISとは

日本工業規格(Japanese Industrial standards:JIS)は、工業標準化法(昭和24年)に基づき制定される国家規格です。鉱工業品の品質の改善、性能・安全性の向上、生産効率の増進等を目的とし、製品の種類・寸法や品質・性能、安全性、それらを確認する試験方法や、要求される規格値などを定めており、生産者、使用者・消費者が安心して品質の良い製品を入手できるようにするために用いられています。

経済産業省は、技術の進歩や、安全性の向上等、必要に応じて、JISを制定・改正しています。

私たちの暮らしとJISの関わり

たとえば乾電池は単1、単3などのサイズが標準化されているので、どのメーカーの乾電池を選んでも同じように使うことができます。また寸法だけでなく、性能試験の方法を統一することで、メーカー同士の性能比較が可能となり、わたしたちは自分にとって必要な製品を選ぶことができます。

標準化の基本的な意義は、乾電池に代表されるような1.製品の互換性・インターフェースの整合性の確保と並んで、2.生産効率の向上、3.製品の適切な品質確保、4.正確な情報の伝達・相互理解の促進などが挙げられます。

加えて、近年では、5.研究開発による成果の普及、6.安全・安心の確保(消費者保護、高齢者・障害者配慮)、7.環境保護(省エネ、リサイクル等)、8.企業の競争力の強化、競争環境の整備、9.貿易の促進などに役割が拡大しています。【図1】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図1はウェブには掲載しておりません。

JISにおける高齢者・障害者支援分野

福祉用具や義肢装具など個々の具体的製品に関する品質・性能やその評価方法を規定した分野や、高齢者・障害者配慮設計指針(アクセシブルデザイン(AD))に関する分野の標準化も行なっています。

福祉用具は、車椅子やベッド、移乗用のリフトなどよく知られた製品に加えて、たとえば、シルバーカーなど単独で歩行可能な高齢者が利用される歩行補助具など、その種類が増えつつあります。

本誌2017年3月号「知り隊おしえ隊」に掲載された義手・義足などは、使用場面の広がりと使用者の能力の多様化を受けて技術が進歩しており、近い将来、新たな標準化の検討場面が出てくるかもしれません。本稿では、本誌の読者の方に関係が深いアクセシブルデザインに関するJISをいくつかご紹介したいと思います。

アクセシブルデザインに関するJISのご紹介

(a)JIS S0042 高齢者・障害者配慮設計指針 アクセシブルミーティング

アクセシブルミーティングは、高齢者及び障害のある方々が会議に参加できるように、支援者、支援機器などを配置及び活用して、安全かつ円滑に運営する会議を意味します。この規格は、アクセシブルミーティングを行う場合、会議主催者が、安全かつ円滑に会議を運営するための支援機器の利用方法などに関する配慮事項について規定するもので、たとえば会議室内での情報提供だけでなく、会議の案内の段階から会場に着くまでの方法についても配慮を求めています。

(b)JIS S0041 高齢者・障害者配慮設計指針 自動販売機の操作性

この規格は、屋内に設置する自動販売機において高齢者及び障害者が無理なく操作できるように、形状、高さなどについて規定しています。貨幣の投入口、カードをかざす位置、商品の取り出し口などを車椅子ユーザーがアプローチしやすい高さに設定することや、操作ボタンについては、補助ボタンを手の届きやすい位置に設置すること、視覚障害のある方が商品の状態を知ることができるよう点字表記や報知音を設定することなどが記述されています。

(c)JIS S0026 公共トイレにおける便房内操作部の形状、色、配置及び器具の配置

この規格は、公共トイレの腰掛便器の横壁面に、操作部(便器洗浄ボタンや呼出しボタン)を設置する場合の、操作部の形状、色、並びに操作部及び紙巻器の配置について規定しています。

公共トイレは、商品開発が進み、新しい機器が付加されるに従って操作ボタンの種類や操作方法が多様化する一方で、設置位置に関するルールが無く、ボタンの識別のしにくさや使いにくさが問題になっていました。特に視覚障害のある方にとっては、洗浄ボタンの位置が分からない、呼出しボタンとの押し間違えなど切実な問題となります。そこで、便器の先端を基準に、紙巻器の設置範囲を規定、紙巻器の直上に洗浄ボタンを設置、呼び出しボタンは洗浄ボタンから一定幅の距離を置いて設置するなどの基本ルールを定めました。

JISは国家規格ですが、強制法規ではないためJISを用いるかどうかは使用される方の判断によります。しかし、本規格は、国土交通省が定めるバリアフリー法の標準設計指針にも引用されていることから、今後、改修も含め整備が進む公共施設においては、多くの方にとって使いやすい公共トイレが増えることが期待されます。【表1】

表1 操作部及び紙巻器の配置及び設置寸法

単位 mm

器具の種類 便座上面先端(基点)からの水平距離 便座上面先端(基点)からの垂直距離 二つの器具間距離
紙巻器 X1:便器前方へ
  約0~100
Y1:便器上方へ
  約150~400
便器洗浄ボタン Y2:便器上方へ
  約400~550
Y3:約100~200
  (紙巻器との垂直距離)
呼出しボタン X2:便器後方へ
  約100~200
X3:約200~300
  (便器洗浄ボタンとの水平距離)

図 操作部及び紙巻器の配置及び設置寸法拡大図・テキスト

今後の展望

近年、国際標準化の世界でサービス分野での品質向上、競争力強化の観点からサービスの標準化が進められていることを受け、国内でも標準化制度の見直し―JISの対象範囲をサービス分野にも拡大する等―の検討が進んでいます。高齢者・障害者を取り巻く支援技術のJIS開発場面においても、機器の提供あるいは適切な利用をサポートするサービスのあり方について議論がなされていますが、JISはサービス分野を対象外としているため対応する規格が作りにくいという現状がありました。

高齢者・障害者の方々を支援する機器やサービスの安全・安心な利用を進めるため、すでにあるアクセシブルデザイン関連のJIS規格(36規格:内23規格は国際規格になっています)を広く知っていただくこと、また、必要とされる新たな規格(製品・サービス)の開発に取り組んでまいります。

ご参考

今回ご紹介した規格も含め、日本工業標準調査会(JISC)のホームページで本文を閲覧することができます。JIS規格名称からの検索欄に、「高齢者」「障害者」「アクセシブル」「アクセシビリティ」などの語を入力いただきますと関連規格を検索することができます。

http://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISSearch.html

音声対応のPDFファイルもご用意しています。

(きはらゆきこ)


高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計基準/国土交通省