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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年11月号

高校における発達障害生徒支援について

谷口藤雄

1 はじめに―高校に在籍する支援を要する生徒

高校進学率が90%を超えた1974年以降、進学率は上昇を続け、2012年度には全日制と定時制合わせて96.5%、通信制を加えると98.3%にまで達している。ほぼ全入といってよい。ここに6.5%の支援が必要な発達障害生徒がいる。

また、中学校の特別支援学級在籍生徒のうち高校に進学する生徒の割合が増加傾向にある。2014年度卒業生では、そのうち30.68%が高校に進学している。長野、秋田、茨城では60%を超えている。通常の学級に在籍し困難を持つ生徒だけでなく、中学校特別支援学級卒業生の高校進学も増加傾向にあり、高校での効果的な支援の強化が求められている。

2 京都府立福知山高校三和分校の取り組みから

本校は、京都府北部福知山市にある昼間定時制高校で、農業科と家政科がある。定員割れが続き、希望すれば、入学できる状態が続いており、多様な生徒が入学している。府北部にある定時制高校(昼間4校、夜間2校)、全日制分校なども同様の傾向を示している。

(1)本校の取り組み

本校に赴任し、これまでの教師経験では対応できない生徒たちを前に、本校勤務4年目の3月、このままでは生徒たちの理解や指導ができないと養護学校への研修を志願。生徒実態に鑑(かんが)み教育委員会の承認も得られ1年間の研修を実施。この時の経験が後の生徒観や見方の転換につながり、退職後も支援の仕事を続ける原動力となった。

(2)支援のきっかけ

障害等困難な課題を持つ生徒理解や支援は順調に進んだわけではない。適格者主義が色濃く残る高校では、高校の枠にはまらない生徒は、高校から排除(進路変更、中途退学)する傾向がある。こうした現状の中、障害のある生徒支援のきっかけは、車いす生徒のA君の復学と知的障害のある生徒Bさんの入学であった。

【Aくんの場合】

A君は、在学中に交通事故に遭い、半身マヒとなり車いす利用となった。リハビリを終え、復学希望が出た時から復学準備を始めた。車いす生徒の障害は支援の姿が分かりやすいため、教育委員会も学校も積極的に支援策を講じた。介助員の配置や段差の解消、トイレの改修などが進んだ。

高校では、同じ教育内容、評価で単位を認定するのが通例であるが、車いすの生徒の、みんなと同じことができない、たとえば体育や農業実習をどうするかが課題となった。本校では、復学を受け入れた以上、何らかの対策が必要と受け止め検討を重ねた。その結果、今では当たり前のことであるが、車いす生徒に可能な実技内容を設定し、それを評価することを決定。つまり、授業内容や評価方法が異なることが決定された。これが後々の発達障害生徒や学習に遅れのある知的障害や低学力の生徒の支援にも生かされることになる。

【Bさんの場合】

転勤2年目、学力にかなり遅れのある生徒が入学。授業についていけず、試験もできないため不認定となり留年が決定。学校は支援学校に転校を進めるが、保護者が普通学校で学ばせたいと、続けることを希望。2回目の1年生、この年も不認定科目が多く留年。何度も保護者と話し合いを重ね、3回目の1年生をやることになる。

さすがに学校側も保護者の主張は別として、何とかこの生徒の支援策をと模索するが、教育委員会に相談するも妙案はなく、「学習支援研究」という名目で4時間分の講師時間が配当されたのみ。

授業の進め方やノートの取り方、板書の仕方、テスト問題、追認考査の研究などが教務部や学習支援研究担当(筆者)、担任などと共に検討した。また、支援のため、3回目の1年時に特別支援教育支援教員の配置も行われた。

一方で、学習評価の内容や方法も改善され、テストの素点だけでなく、出席、ノートやプリントなどの提出物も含め幅広く評価をすることで、何とか最低限の課題をクリアさせ、進級・卒業となった。この生徒は現在、就労継続支援B型事業所でお菓子作りの中心的なメンバーとして活躍している。

(3)発達障害生徒への支援―生徒観、生徒の見方の転換

「漢字だけが読めない」生徒、すぐに「パニックになる」生徒、「多重人格を思わせる」ような生徒、「勉強はできるのに会話が上手くできない」生徒、「授業中耳栓をしている」生徒、「授業(クラス)に入れない」生徒たちをどう支援するか、なかなか難しい課題であった。「怠けているだけではないか」「わざとしているのではないか」などの意見も出て取り組みは進まなかった。

毎日、問題やトラブルが起きる。目先の対応に追われる。身体障害等「見える」障害の理解はたやすいが、発達障害や知的障害等「見えない」障害の理解は難しい。この壁を乗り越えないと発達障害生徒の支援は難しい。

取り組みの中で私たちが到達したことは、生徒の見方、とらえ方を転換させることであった。「困った子」は「困っている」生徒であり、生徒の言動が、親の育て方や本人のわがままでなく、指導のしにくさには「ワケ」があるという理解である。これが徐々に進み、支援が始まる。

取り組みの重点は、生徒や保護者に対してその声を丁寧に聞き対応をすること、発達障害や知的障害等障害理解を進めるための研修を進めること、教職員の共通理解、情報共有を深めることであった。発達障害の基礎理解をすすめ、日常的に生徒たちが見せる「様子」をどう理解し対応するかを中心に職場研修を定期的に実施。幸いこの当時の教職員集団は、この生徒たちを何とかしたいという気持ちでまとまっていたことが、後々支援につながる成果を上げることにつながる。

(4)学校公開

学校外の機関と連携するために、関係機関向けの学校公開を実施。市役所や保健所、相談支援機関、児童相談所、ハローワーク、医療などに呼び掛け、学校公開を実施、実際の生徒の姿をみて助言と支援を受ける取り組みを始めた。

学校公開の取り組みを機に、支援の必要な生徒の就労保障のための進路相談会議(ケース会議)なども行われ、専門的な助言が得られ、就労保障も前進した。また、圏域内の障害者自立支援協議会(自立支援協議会)にも高校に在籍する生徒の実態を説明した。この結果、支援学校高等部の生徒の支援だけでなく、高校生の支援なども議論されるようになった。

(5)支援の拡大と出口の保障

取り組みや研修が進むと、それまで理解できなかった生徒の言動にはワケがあり、対応の方法・仕方があることが分かってきた。授業中、何かのきっかけでパニックになり、机やいすを放り投げたり、大声を上げる生徒がいた。主治医と連携し、クールダウン用の小部屋を用意して落ち着かせてから、教室に戻らせるようにすると落ち着いて授業を受けることができた。パニックになりそうな時、自主的にクールダウン用の小部屋に行くよう粘り強く指導。1年ほど指導を継続すると、ほぼパニックも起きず通常の学校生活が送れ、無事卒業し、就労した。こうした生徒は、これまでは、生徒指導の対象となり、進路変更という名の中途退学になる例がほとんどであった。医療等と連携することで、生徒の行動の背景・原因が理解され、卒業を迎えることができた。

卒業を迎えると出口保障が課題となる。本校では、就労相談支援事業所やハローワーク、障害者職業センター等との連携を進めた。一般就労以外の、障害者手帳を取得して、支援を受けながら自分の力に応じて働く『福祉的就労』も就労の一つとして関係の生徒に勧めてきた。障害者手帳取得のため、保護者や本人の障害受容にも早くから取り組んでいる。

しかし、支援学校と違い、高校に進学した生徒に障害受容を進めることは困難を伴う。特に、保護者の理解を得ることはなかなか難しい。現行の福祉制度のように「手帳取得」が支援の条件ではなく、「困っていること」を支援する制度が必要である。

3 高校と外部機関、高校間の連携で支援の拡大を

(1)取り組みの成果

車いすの生徒や知的障害生徒の支援を通して、本校の特別支援教育は進んできた。特に、知的な遅れのない発達障害の生徒の支援は、医療や行政、福祉、支援学校等の関係機関との連携が進む中で深まっていった。「発達障害」の理解から生徒個々の特性に応じた支援を進めてきた。一方、どの高校に入学しても同じ支援が受けられる体制づくりも進められた。

(A)府立高等学校特別支援・進路支援教員の配置

障害等のある生徒の支援のため、京都府北部の定時制や通信制、教育困難校の生徒支援を行う教員が配置され、外部機関と学校を結ぶコーディネーターとして活動している。

(B)府立学校特別支援教育研究協議会の設立

各高校の取り組みを共有し、どの高校でも適切な支援が受けられる条件作りのため、2011年中丹圏域(舞鶴、綾部、福知山)府立学校特別支援教育研究協議会が立ち上げられ、圏域内の府立高校、支援学校を会員として研究協議を開始。これを機に、府下5圏域のうち4圏域で研究協議会が立ち上げられ交流が進んでいる。

(C)府立高校と関係機関の懇談会

特別支援教育を進めるためには関係機関との連携が大切だ。しかし、関係機関とはどんなところか不明な点が多い。そこで自立支援協議会発達障害者部会が中心となり、高校と関係機関の懇談会を実施。現在、2つの圏域で取り組まれている。互いに顔の見える関係が構築され相談も連携も増えている。

(D)専門職(SCやSSW等)との連携

京都府では2006年にスクールカウンセラーが配置、2015年に府立高校2校にスクールソーシャルワーカーが配置され、専門的な経験や知見から助言が受けられるようになった。今後大いに活用が期待されるが、まだまだ人数が不足している。

(2)課題

2018年度から高校にも「通級による指導」が導入されることになった。同一の教育課程のもとで、全員が学ぶ現行の体制から特別な教育課程を組むことが可能となる時代へと転換、新しい時代を迎える。新しい時代にふさわしい高校の特別支援教育の構築が求められており、課題も多い。

課題の一つが、発達障害のある生徒の支援や取り組みが、どうしても担当者任せになる傾向がみられる。生徒への支援は、担当者だけでなく、教科やホームルームの指導、また部活動などあらゆる場で行われる。そのため、全教職員の発達障害に対する理解が重要となる。全員で取り組むため継続的な研修が必要、特に担当者任せにしない管理職の指導性が求められる。

二つ目は、適格者主義の克服である。高校入試を経る以上、問題のある生徒は、高校からの排除が必要だとする考えがまだ残っている。高校進学率が事実上100%近くになっている現在、入学してきた生徒の実態に応じた指導と支援のため、高校は【こうあるべき】という考えから、「困っている」生徒の実態に即した指導への転換が求められる。

三つ目は、支援学校と高校の役割を検討することである。定員割れで、希望するどんな生徒も高校が受け入れることは、生徒一人ひとりの発達や学習権を保障できるのかどうか、十分議論する必要がある。適格者主義が色濃く残るなか、個別の教育課程の編成もできない高校では、支援には限界がある。障害のある生徒の中学校卒業後の進路をどうするか、中学校や支援学校を交え十分な議論が必要である。

(たにぐちふじお 京都府立高等学校特別支援・進路支援教員)