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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年1月号

OECD諸国に出された20の総括所見から

佐藤久夫

2017年末現在、障害者権利条約の初回締約国報告に対する総括所見は61か国に対して出されている。このうち、一般に先進国とされるOECD(経済協力開発機構)加盟国は20か国である。本稿はこの20か国に対する総括所見を検討して、とくにその中の勧告事項の特徴や傾向を見ようとしたものである。

障害者権利委員会はパラレルレポート作りのガイドラインの中で、「勧告の提案」を含めるよう「強く推奨」している。したがって、日本と同様な経済水準の国々に対してすでにどのような勧告が出されているかを知ることは、日本のパラレルレポート作りに大いに役立つ。もちろん、データと論理に基づく説得力こそが権利委員会に影響を与えるのであるが。

近年は25程度の勧告数が標準

表は、この20か国への勧告を○印で示したもので、2011年に出されたスペインから2017年秋に出されたルクセンブルクまで年次別に並べてある。この表からいくつかの傾向が見えてくる。

表 OECD諸国への総括所見(初回)で勧告が出された条項

総括所見が出された年(2011―17年) 11 12 13 14 15 16 17 合計
  スペイン ハンガリー オーストリア オーストラリア スエーデン メキシコ ベルギー 韓国 デンマーク ニュージーランド ドイツ チェコ共和国 チリ スロバキア ポルトガル イタリア カナダ 英国 ラトビア ルクセンブルグ
2013年障害関係公的支出(対GDP比)順位 10 20 13 9 2 33 6 31 1 11 17 23 30 22 21 25 29 19 24 8  
第1-4条 一般的原理と義務  20
第5条 平等及び無差別 20
第6条 障害のある女子 20
第7条 障害のある児童   19
第8条 意識の向上           15
第9条 アクセシビリティ 20
第10条 生命に対する権利                                 4
第11条 危険な状況及び人道上の緊急事態         16
第12条 法律の前に等しく認められる権利 20
第13条 司法手続の利用の機会             14
第14条 身体の自由及び安全 20
第15条 拷問・非人道的扱い等からの自由           15
第16条 搾取、暴力及び虐待からの自由   19
第17条 個人をそのままの状態で保護             14
第18条 移動及び国籍の権利                               5
第19条 自立生活及び地域社会への包容 20
第20条 個人の移動を容易にすること                                     2
第21条 表現の自由並びに情報の機会               13
第22条 プライバシーの尊重                                     2
第23条 家庭及び家族の尊重         16
第24条 教育 20
第25条 健康             14
第26条 リハビリテーション                               5
第27条 労働及び雇用 20
第28条 相当な生活水準及び社会的保障               13
第29条 政治的及び公的活動への参加   19
第30条 文化、レク、スポーツへの参加               13
第31条 統計及び資料の収集   19
第32条 国際協力                   11
第33条 国内における実施及び監視     18
合計件数 16 16 17 20 21 23 17 24 21 21 25 22 25 28 23 26 24 27 25 25  
年次別平均 16 16 18.5 21.2 23.5 25.5 25.3

注)国連・障害者権利委員会のサイトの総括所見より筆者作成。対GDP比順位は加盟国全体での順位。

第1に、最下行にあるように、勧告件数が大きく変化してきた。締約国からの報告は第1―33条までであるが、第1―4条(一般的原理と義務)は一括して取り扱われるので、1つの国に対する勧告の数は最大で30件となる。最初の頃は16件(条)程度であったが、その後徐々に増え、最近の2年ほどは約25件で落ち着いていることがわかる。権利委員会での審査と勧告がより詳しく丁寧になってきたと言える。

なお、1つの条項で2つ以上の勧告がある場合や、1つの条項の1つの勧告の中でa、b、cなどと分けている場合があるが、この表ではいずれも1件とカウントした。

必ず勧告される9つの条項

第2に、20のすべての国に対して勧告が出されている条項が9つある。第1―4条(一般的原理と義務)、第5条(平等及び無差別)、第6条(障害のある女子)、第9条(アクセシビリティ)、第12条(法律の前にひとしく認められる権利)、第14条(身体の自由及び安全)、第19条(自立した生活及び地域社会への包容)、第24条(教育)、第27条(労働及び雇用)である。

これ以外に、過去3年間の総括所見のすべてに勧告が出されている条項もある。それは第7条(障害のある児童)、第13条(司法手続の利用の機会)など、同じく9つである。

これら18の条項は、どの国にもほぼ確実に勧告されるものとなっている。

ほとんど取り上げられない条項

第20条(個人の移動を容易にすること2件)、第22条(プライバシーの尊重 2件)、第10条(生命に対する権利 4件)、第26条(ハビリテーション及びリハビリテーション 5件)などはほとんど勧告事項になっていない。

ただし、第20条は多くの総括所見では、第9条(アクセシビリティ)の条項で総合的に取り上げられるなど、交通・移動問題が軽視されているとも言えない。

同様に第26条(ハビリテーション及びリハビリテーション)は、内容的には第24条(教育)、第25条(健康)や第27条(労働及び雇用)でも取り上げられている場合が多い。とはいえ権利委員会には、総合的なリハビリテーションという政策分野としての認識や位置づけが弱いように感じられる。

財政支出と件数の関係は?

第3に、障害関係公的支出がGDPの何%であるかの順位と勧告の件数との関係を見ると、ある程度の相関はありそうである。表の3行目に示したこの順位で上位から5か国ずつ4区分すると、平均件数は20が8件、21が2件、22が8件、24が4件となる。障害関係公的支出(現金と現物の合計)の対GDP比が低いほど多くの勧告を受けている傾向がある。なお、日本は28番目で依然低順位である。

第9条 アクセシビリティ

以下、紙幅の都合で第9条と27条に限って勧告の内容と特徴を見る。

多くの国に対する勧告の内容として、まず第1に、アクセシビリティの法律・計画の創設や改正がある。たとえば、ベルギーに対して明確な達成基準を盛り込んだ国家計画の創設を求め、ポルトガルに対しては、予定されているアクセシビリティ法の改正を障害者団体と協議して進めること、権利条約第9条や一般意見第2号(アクセシビリティ)に沿ったものとすること、効果的な不服申し立てや実施の仕組みを設けることを求めた。

第2に、欠落または弱い分野をなくすよう具体的に求めている。たとえば、ルクセンブルグに対して、精神障害者や知的障害者への情報へのアクセス保障を求め、韓国に対して建築物の大きさ、容量(定員)または建設日にかかわらず対象とすることを勧告し、ニュージーランドに対して10人以下の被雇用者の工場及び工業施設の免除を止めるよう求めた。ニュージーランドに対してまた、「将来の新しい民間住宅を完全にアクセス可能にすることを検討するよう」勧告したことにも注目される。

第3に、法律や計画はあっても実行が弱いとして、不服申立て制度、違反に対する罰則、監視の仕組み、予算増、公共調達(入札)へのアクセシビリティ要件の組み込み、行政職員と専門職への研修などが勧告された。

やや標準的一般的な勧告が多い中で、カナダに対する勧告は、次のように具体的なものであった。

(a)現在の連邦、州及び準州レベルのアクセシビリティ関連の法律及び計画を見直すこと。特に物理的環境、交通(民間航空を含む)、ならびに情報通信技術とシステムを含む情報及び通信などアクセスのすべての分野に取り組み、また、アクセシビリティ基準の遵守を監視し、定期的に評価する仕組みを備えること。

(b)公共的文書やカナダ権利と自由憲章などの基本的な法律の「読みやすいバージョン」のような、代替様式のコミュニケーション手段を利用できるようにすること。

(c)難聴者、ろう者、視覚障害者及び盲ろう者のために、公共交通機関における情報通信サービスを強化するための部門別計画を採用すること。

(d)フランス語の字幕サービス、及びウェブサイトやメディアの文字解説へのアクセスを実施するために時間枠と目標を設定すること。

(e)持続可能な開発目標9及び11(ターゲット11.2及び11.7)の実施に際して権利条約第9条の義務に留意すること。

第27条 労働及び雇用

障害者の就労率が一般より格段に低いこと、特に女性障害者や先住民の障害者が低いことが懸念され、その改善への取り組みが勧告されている。これはすべての国に共通している。

取り組みの内容としては、職場でのパーソナルアシスタント、職場のアクセシビリティ改善、合理的配慮の提供と雇用差別禁止、雇用主への助成、雇用主への訓練、リハビリテーション、雇用情報の収集とそれに基づく評価などである。

これと裏腹の関係で保護作業所(保護雇用)を(段階的に)なくしてゆくことも勧告されている。

一般雇用で働いていても最低賃金以下で働く障害者のことが問題とされ、韓国に対しては賃金補填制度の導入が奨励され、ニュージーランドに対しては最賃除外制度に代わるものを検討するよう勧告された。

雇用率制度があっても達成されていないことが、オーストリア、メキシコ、ベルギー、ルクセンブルグで指摘され、監視制度の創設などが勧告されていた。

また、職業能力の評価が権利条約の人権モデルの障害概念とは異なっていることがオーストラリア、チェコ、イギリスなどで問題とされた。

以下、勧告がかなり具体的であった2つの国について詳しく紹介する。

オーストラリアに対しては、「オーストラリア障害者企業の障害のある従業員が、今なおビジネスサービス賃金評価ツールに基づいて賃金を受けていることを懸念している。」とした上で、次の勧告をした。

(a)ビジネスサービス賃金評価ツールの使用を直ちに中止すること。

(b)支援付き雇用の障害者の賃金が正しく評価されるよう、支援賃金制度を確実に修正すること。

(c)女性障害者の就労参加を増やすため、その背景となっている構造的障壁への取り組みを始めること。

ドイツに対しては、次のように勧告した。

(a)委員会の一般的意見第2号に沿って、障害者特に障害のある女性のために、アクセス可能な職場における雇用機会を創出すること。

(b)主流の公的及び民間の労働市場における雇用に向けて、即時実施可能な出口戦略と時期設定とインセンティブによって、保護作業所を段階的に廃止すること。

(c)保護作業所にリンクして障害者が受給している社会保護と年金保険が、(一般雇用によって)減少することのないよう保証すること。

(d)開放労働市場における職場のアクセシビリティに関するデータを収集すること。

OECD諸国に対する総括所見の勧告を見て気づくのは、国が違っても類似の表現が多いことである。これはどの国でも権利条約と比べて大きなギャップがある現状の反映であろう。

ただしそのような「共通的・標準的勧告」は、権利条約の条文そのものを読んでいるようで、物足りない。条文はすでにあるのであって、その実現のために具体的に何を締約国に求めるのかが総括所見の眼目であろう。4年後の定期報告では、主に勧告事項をどう進めたかが問われる。

このような、具体的勧告につながるパラレルレポートの提出が求められている。どのような具体的勧告を提案するのか、どんな根拠と事実をもってそう提案するのかが問われている。

(さとうひさお 日本社会事業大学)