特集/専門職 言語療法士に期待する

特集/専門職

言語療法士に期待する

小林咲子 *

 小学校内に設置されている言語障害治療教室の現状

 戦後間もない頃、小学校の特殊教室に学んでいる学童の中に、発音には異常があるが知能指数はかなりの高さを示す生徒のあることに気づいた一人の教師が、興味を持って調べて見ると、うまく発音できない、何を聞いてもろくにものをいわない。これは知能が低いと判断され特殊教室に編入されていたことが解った。さらに気をつけて見ると、普通教室の中にも発音異常の子供は時々見かけられ、こうした子供達は口をきけば笑われる、いじめられると、引き込みがちにおどおど過していることが多かった。

 これを治してやりたい。治すにはどうしたらいいか、考え始めたのが、小学校における言語障害児教育の始まりといわれております。と言って言語障害児教育に関する書物なども皆無といっていい程少なく、独自の研究と熱心な繰り返しで暗中模索の状態がつづきました。アメリカにも勉強に行き、その教育の普及しているのに驚いたそうです。

 その先生が言語障害児教育を手がけていることが新聞やテレビ等で紹介されると、深い絶望の淵にあきらめ沈んでいた父母達は、大きな関心を持ち、藁にもすがる思いで殺到しました。しかし当時は設備も器具も思うにまかせぬ状態で、まして数少ない専任の先生ではとてもさばき切れるものではなかったのです。

 全国各地から、私の県にも欲しい。私達の市にも治療教室を作って欲しい、との要望が起こり、親達は関係方面に陳情しました。陳情を受けた教育委員会では、教室を作りたくても肝心の先生がいないということで、内地留学の形で既設の言語治療教室やその後できた千葉市の特殊教育センターなどで研修を受け、教室は次々に開設されてゆきました。

 現在全国には教室数千を越え、専任の教師の数は二千人に近い程普及してきました。運よく言語治療教室に入ることができ、日常会話に不自由を感じなくなった生徒は、胸張って巣立ってゆきます。同時に次の様な問題も浮き彫りにされてきたのです。ほとんどが小学校に設置されているため、定員制の問題、教室運営のための費用が普通教室より多くかかる。それにも増して小学生を対象とするため、幼児期こそ早い効果、良い結果を期待できるのに学齢に達していないとの理由で受け入れ困難と断られる。また小学校終了の段階で訓練の途中でもうやむやに終わってしまうこと等々です。

 言語療法士の養成について

 現在専任の教師の養成については、最近になって二、三の大学に講座が設けられましたが、ほとんどは既設の教室で研修、実地と研究を重ねつつといった状態です。アメリカや諸外国では、早くからこの分野の研究が進められ、スピーチセラピスト(ST)という資格も制定されているので、当然のこととして普及しているのでしょう。大学在学中に何等かの資格を取得するため猛勉強するといわれるアメリカ学生の熱意、資格を持てば、就職にも、結婚にも有利、と合理的に割り切るお国柄を少々羨しいとも感じます。

 現在の日本では言語療法士の資格も認められておらず、ましてそのために有利とは考えられない現状で、こつこつと地道に根気よくやって、なおはかばかしい効果の眼に見えない仕事となれば、もっと多くと望む親心はなかなか通じません。定められた資格、それによる身分の保証こそ、まず求められるものです。最近日本でもようやく言語療法士の必要を医学界や各方面で認め始め、まず資格制定の第一歩として専門の教育の場をと種々計画が進められつつあります。まことに結構なことと楽しみに待っております。

 親の立場から

 病院にも幼稚園にも学校にもセンターにも言語療法士が配属され、希望する者は誰でも治療が受けられる。また在宅を余儀なくされている者、交通の便の悪い地に住む者には、訪問指導にもきてくださる。しかもそれには健康保険が適用される(現在小学校の言語治療教室は全額無料です)。そんな世の中が実現するなら何んと素晴しいことでしょう。

 アメリカの学校では受持つ子供の治療計画を年3回作成し、親に示し、お互いに検討し、親の同意を得てから開始するそうです。両者のこの権威、親もそれなりの知識を持ち本当の意味でのよき協力者にならねばと反省します。

 昨年は国際障害者年ということで、日本中各地に様々な行事が繰り広げられました。世の中全般に理解も深まり、関心も寄せていただけるようになったことは、何よりも喜ばしいのですが、この関心、この理解が、一時のおまつりとして通り過ぎてしまわないよう、心から望んでやみません。

*全国言語障害児を持つ親の会会長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1981年11月(第38号)40頁~41頁

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