特集/第15回リハビリテーション世界会議 第4日

特集/第15回リハビリテーション世界会議

第4日

三澤義一*

 会議第4日目ともなると、参加者の数もかなり減少したように思われた。広い会場のどこを見ても聴衆の姿は概して少なく、閑散としていた。会議の運営のまずさは、今回特に目立ったようであるが、これがこの国の常態であるとすれば、非難めいた言葉を投げかけるのも酷であるような気持がする。彼等なりに一生懸命にやってくれたことだろうし、急激な“態度変革”を望む方が無理というものかもしれない。

 さて、第4日目は、格調高い理念や理論の山は下って、かなり現実問題や具体的な問題の意見や討議に終わったといってよかろう。意見発表の形式も、パネルディスカッションが多く取り入れられ、パネラーの意見発表は、会議のテーマには沿っているものの、各々の国情を反映した幅の広い内容となった。特に先進国と発展途上国とでは、どんなテーマにしろかなりのズレが認められ、リハビリテーションのグローバルな発展の前途は、なお多難の感を免がれない、という印象を受けた。会議の各室をすべて廻り歩くことはできないが、以下に、覗いた各室の状況をかいつまんで報告しよう。

1.パネルディスカッション「我々はいずこに行くべきか」(2つの部屋を合併したためスピーカーなどは変更)

 最初のスピーカーであるジンバブェのR.A.Stambles氏は、障害者の幸せと尊厳の追求に向けてのRIの果すべき役割を強調し、障害者のリハビリテーションや一般大衆の態度変容には、教育(E)、情報(I)、環境(E)の3つの要件、つまりEIEの改善が大切であることを力説した。

 アフリカ、スワジランドからのE.Magagula氏は、アフリカにおいては、障害者問題以前の問題が山積していること、先進国では考えられないような障壁(barrier)が多いことなどを指摘し、産業の成育、経済の発展がまず先決であるとした。障害者の雇用の場の確保といっても、そうした条件を満たし得るような社会的基盤の熟成が前提となることは多言を要しないところであろう。RIは、今後とも、非政府レベルの世界的な組織として自由な立場から各国のリハビリテーションの前進を支援するよう訴えた。

 ジャマイカのL.Buchanen氏は、リハビリテーションの推進に、親、家庭、地域社会の協調が不可欠である点を力説し、地域社会プログラムの確立・展開を特に強調した。

 以上3人のスピーカーの他、E.Yaseen氏(クエート)、L.M.Faria氏(ポルトガル)の両名が、それぞれ意見を述べた。

 討議の過程では、障害者の実態把握の問題、登録の問題、サービスの組織化の問題、などが出されたが、スピーカーの選定から見ても、発展途上国に片寄った問題が多いことは当然であった。

2.メディアとインテグレーション

 テレビ、新聞、ラジオなどのメディアとインテグレーションの関係が主題となり、特に障害者に対する一般人の理解啓発に、テレビの果す役割が中心になった。内容は、すでに1983年のアジア・太平洋リハ会議(クアラルンプール)でも紹介された、国連のワークショップのレポートを中心に話されていたが、広報活動の在り方、用語の問題その他にも言及された。パネルディスカッションの形式をとってはいたが、内容については、それほど目新しいものはなかった。

3.研究の推進体勢の確立

 参加者が数えるほどしか集まらなかったが、話題は次のような点に及んだ。

① 個人または組織として、障害者に関する研究交流と情報交換

② リサーチに関する各国の情報収集と分析におけるRIおよび関係団体の役割

③ ワーキンググループ、セミナーなどを通じて、国際的研究活動に有益と思われる研究領域の設定

④ RIに対する研究活動の推進に関する助言

⑤ 研究成果の普及

 以上のような問題を柱として討論が進められていたが、参加者が少ないこともあって、あまり盛り上りはなかったようである。

4.コンピューターの活用

 フランスのJ.A.Stanley氏、アメリカのP.Hoffman氏、日本の脇田修躬氏(IBM)、イタリアのG.Borghese氏の4名のスピーカーが、それぞれの立場で、リハビリテーションにおけるコンピューターの導入と活用について、発表した。この中、脇田氏は、最近におけるコンピューター工学の前進から、点字の翻訳システムと、ろう児に対する言語訓練に、コンピューターの導入を早くから研究して、その成果を発表した。この分野は、今後の発展が特に期待されるだけに、これからの成り行きが注目される。

 以上、筆者が直接覗いた会議室の模様を簡単に紹介したが、第4日目は、この他に、障害者と性の問題、障害予防の問題など、幾部屋にも分かれて研究討議がなされていた。

 障害者のリハビリテーションという問題は、人類が永遠に追求していかなくてはならない不可避的な課題であるが、理解の前進や態度の変容には、その国の歴史や文化が大きくかかわっている。ものを背景とした技術交流はまだ比較的容易であるかもしれないが、文化的な交流、さらには、対障害者観、対人間観の交流・変革は、それより更に難しい。今回の会議が情報・認識・理解をテーマとして開かれたことは、この意味で有意義であったと思われる。

*筑波大学


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1984年7月(第46号)13頁~14頁

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