職業リハビリテーションと障害者雇用に関するILOの新基準

職業リハビリテーションと障害者雇用に関するILOの新基準*

丹羽勇**

 朝日雅也***

 国際労働機関は、1919年に設立され、労働を通じて、社会正義を高揚し、人間の権利、尊厳、平等を促進させることを使命としている。そしてその中には、障害者のリハビリテーション、訓練、雇用、社会への統合といった分野も含まれているが、ILOは、設立当初からその使命を果たすための努力を惜しむことはなかった。

新しい国際基準採用の背景

 ILOが最初に障害者の職業的ニーズを認識したのは、1925年で、その年のILO総会で採択された労働者補償(の最低限度の規模)に関する勧告(第22号)の中に障害を受けた労働者の職業再教育の規定が認められた。1955年、ILOは多くの人々に世界的なリハビリテーション活動に対する最も大きな貢献のひとつと評価される障害者の職業更生に関する勧告(第99号)を採択した。第99号勧告はこの種の国際的文書としては初めて、障害者が職業リハビリテーションサービスを受け、雇用の機会を公平に与えられる権利を謳っている。我々は、この文書の採択が、障害者の職業リハビリテーションへの国際的関心を高める上での画期的な出来事であったこと、そしてこの分野において各国の法制や対策に刺激を与えたことを誇りに思っている。

 1955年の勧告のもつ指針は現在でも適切なものであるが、職業リハビリテーションサービスの在り方やそれらを提供する技術的な方法にはその当時に比べ新たな発展が見受けられるようになってきた。

 障害者を施設ケアの中へ閉じこめてしまうのではなく、社会の主流(mainstream)へと統合することを目的とした「ノーマライゼイション」の考え方は、多くの政府や非政府組織によって広く唱えられるようになった。特に最近の世界的な景気後退や雇用状況に鑑みて、障害者の雇用機会を増大させるためにより適切な対策が必要とされた。また、発展途上国においては、資金と訓練されたスタッフの不足から、ニーズの大きさとは対照的に、ほとんど進展は見受けられなかった。

 こうして、職業リハビリテーションと障害者雇用に関する追加的な基準が1982年と83年のILO総会で討議され、1983年6月20日、総会はこの件に関し新しい条約(第159号)と勧告(第168号)を採択した。

新しい基準の内容

 第159号条約と第168号勧告はその前文で、1955年に採択されたILOの職業更生(身体障害者)勧告に定められている現行の国際基準を適用しながら、その勧告の採択以降、リハビリテーションニーズや、リハビリテーションサービスの範囲及び実施機関に対する理解は著しく進展したとしている。

 また、1981年の国際障害者年のテーマである「完全参加と平等」及び国際連合によって採択された障害者に関する世界行動計画を考慮して、ILOの基準は前文で、あらゆる種類の障害者に、男女を問わず、農村地域においても都市においても、機会と処遇の均等を確保することの必要性を強調している。

 2つの文書は、職業リハビリテーションの目的を、“障害者が適当な雇用を確保し、それを継続し、かつ前進させることを可能にすること、並びに、それにより障害者の社会への統合や再統合を促進すること”と定義している。

 条約を批准する国々は、国内事情や、慣例、実現可能性に合わせて政策を策定し、実行し、そして定期的に検討し、あらゆる種類の障害者が、男女を問わず、職業リハビリテーションに関する適切な措置を利用できるようにし、開かれた労働市場において障害者に対する雇用の機会の増大を図る法的義務が課せられるのである。さらに条文は“障害労働者と他の労働者との間の、機会と処遇に関する実効ある均等を目的とした特別措置は、けっして一般労働者を差別するものではない”としている。

 使用者、労働者そして障害者を代表する団体は職業リハビリテーションに携わる官民の団体間の協力や調整をはかるための措置を含む、政策の実施にあたって協議を受けるべきである。

 新しい第168号勧告には、障害者の雇用機会の増進を目的とした一連の選択的な措置が述べられている。それらには、○障害者に訓練や雇用の場を提供し、また作業場、作業具、機械等の調整をはかることを奨励する援助や財政的な動機づけを行うこと、○各種の保護雇用の創設、○工場の設立や管理に関する工場間の協力の奨励、○非政府組織が運営する事業への政府の適当な援助、○障害者の、または障害者のための生産工場、小規模産業や協同組合の設立を奨励すること、○物理的な、コミュニケーション上の、または建築上の障壁や障害を除去すること、○リハビリテーションを受ける場や作業場へ通うための適切な交通手段の確保、○リハビリテーションプログラムに必要な材料や機器にかかる税金やその他課徴金の免除、○パートタイムによる雇用やその他就労に関する措置の提供、○障害者が職業訓練や保護雇用の中で搾取されてしまう危険性を除去すること、○各種の障害に関する研究調査の実施とその結果の応用、等が含まれている。

 勧告では、地域社会の参加の必要性を強調している。条文には、“都市、農村地域及びへき地における職業リハビリテーションサービスは、地域社会の完全参加、特に使用者、労働者及び障害者の各団体の代表の参加を得て、組織され、運営されるべきだ”とある。障害者自身やその団体を含む地域社会の指導者や団体は、保健、社会福祉、教育、労働機関及び他の政府機関と協力し、地域社会における障害者のニーズを把握し、また、広く役に立つ活動やサービスの中に障害者を位置づけていかなければならない。

 また、勧告は、農村地域に特有な問題にも言及し、機動性を持ったリハビリテーションサービスを設立するための対策を提言している。それらの対策には、農村開発や地域開発従事者の養成、共同組合を設立したり自営業を営もうとする障害者を援助するための貸付金、助成金、作業具や材料の提供、そして作業場から程よい距離に障害者の利用しやすい住居を確保すること等がある。

 スタッフの訓練の項では、障害者の職業指導、職業訓練、職業紹介や雇用に従事するリハビリテーションカウンセラーやその他有資格スタッフの訓練や利用が強調されている。障害者の職業リハビリテーションや訓練に携わるスタッフの資格や報酬は、同様の義務や責任を負う一般や職業訓スタッフと同等であるべきである。充分に訓練されたスタッフが不足する場合には、援助者や補助者を採用したり訓練する対策が講じられるべきである。そしてまた障害者自身がリハビリテーション従事者として訓練を受けたり、リハビリテーションの分野に就職していくことを奨励する措置がはかられるべきである。

 勧告はまた、国家レベルで、あるいは地域社会のレベルでニーズを把握し、職業リハビリテーションサービスを発展させていくことについて、特に、使用者、労働者の団体や、障害者自身やその団体の代表による共同参加を強調している。条文では、使用者や労働者の団体は、障害者やその団体とともに、職業サービスの編成や進展にかかわる政策の策定に関与し、同時に、この分野における研究の実施や法律の提案を行なえるようになるべきだとしている。そして、障害者の、あるいは障害者のための団体の発展と、それらが職業リハビリテーションや雇用に関するサービスに関与していくことを促進するための適切な政府の援助の必要性を認めている。その援助には障害者自身による訓練計画の実施のための援助も含まれている。

 勧告は、その他数ある項目のうち、社会保障制度のもとでの職業リハビリテーションサービスについても言及しているが、障害者が雇用の場を探すための奨励措置や、各種の政策や計画の調整、先端技術に関する科学的研究を社会保障制度に基づく職業リハビリテーションサービスが提供すべきだとしている。

 実施のための手続

 ここで、これらのILOの文書がどのように運用され、各国の事業に結びつけられているのかを説明することとする。

 ILO憲章が定める最も根本的な義務のひとつとして、各国政府は、文書の採択後12~18ケ月のうちに、当該事項について権限のある機関に提出しなければならない。権限のある機関とは、各国憲法のもとに条約や勧告に実効を与えるための立法化やその他措置を講じることのできる機関のことである。そして、政府は、与えられた文書に合意するかどうかにかかわらず、権限のある立法機関に条約や勧告を提出しなければならない。政府は、ILOの決定を議会に提出する中で、もちろん自由に提案をすることができるのである。例えば、対策を実行し、条約を批准すること、しばらく時が経過してから、完全に、あるいは部分的に実施すること、あるいは一切の行動を起こさないこと等、自由に選択できるのである。

 無論、政府の考え方は、その国の議会に大きな影響力を与えるのだが、政府がILOの文書の批准を躊躇するあまり、立法者が提出された文書の基準に判断を下す場合もある。条約や勧告の実施の是非はこうして公的な議論の場で、かつこれらの基準の採用により最も影響を受ける人々の代表による最終的な結論へと達するのである。

 勧告は批准を必要としないが条約は通常、効力を発するまでに最低2回の批准が必要となる。では、条約を批准するにあたっていかなる事項が義務とされるのであろうか。まず第一に文書の法制化に実効を与えるための対策をとる約束をさせられるということである。これは批准国において条約が有効である限り、これらの規定と完全に一致した国内法や慣例を維持するという誓約と同義である。そして、各国が条約を批准することは、同時に文書の法制化に実効を与える対策に関し、定期的にILOへの定期的報告に同意することでもある。

 ILOの新基準の主要点は以下の7点である。

(1)あらゆる種類の障害者(男女を問わず)に対する機会と処遇の平等

(2)障害者の雇用機会の拡大と創出

(3)都市と同様に、農村地域やへき地において障害者のためのサービスを促進すること

(4)できる限り地域社会の参加を得て障害者のためのサービスを組織すること

(5)障害者やその団体に影響を与える政策の策定や実施にあたっては、障害者やその団体が相談を受けるべきであるということ

(6)一般の労働者と対等の資格で障害者の雇用を促進することを目的とした政策を、使用者や労働者の団体が採用すること

(7)リハビリテーション従事者の養成と利用

 工業国における基準の適用

 工業国における近年の経済不況により、障害者の職業機会は著しく制限されている。その結果、障害者となった、あるいは障害者となる危険性のある人々が同じ使用者のもとに残り仕事ができるようにすることが強調されている。

 このような取り組みの好事例のひとつがスウェーデンで“調整(Adjustment)グループシステム”と呼ばれているものである。1971年、従業員50人以上の事業所や事務所を中心に、官民により200グループ程が設立され、その数は現在5,000以上にのぼっている。グループの主たる目的は、高齢者や障害労働者に対する積極的態度のために機能すること、特に現職の維持、あるいは同事業所内のより適当な職務への再配置を容易にするための対策を提案することである。調整グループは、使用者、労働組合、雇用サービス機関、そして障害者の代表の3人から7人で構成される。この他、産業医、安全工学エンジニア及び看護婦等が必要に応じて参加することも可能である。制度の背景には、雇用サービス機関が推進力の中核をなしているが、使用者と労働者の役割が注目される。この制度自体が、ILOの基準でも提唱されているような障害者の職業リハビリテーション分野における三者協力の極めてすばらしい実例のひとつなのである。

 同様な制度には、ノルウェーで実施されている工場内職業リハビリテーション(In-Plant Vocational Rehabilitation)があり、これは事業所と雇用サービス機関との間の契約に基づいている。この制度では、経営者、会社の医療、人事業務部門、地域の労働組合、及び雇用サービス機関の代表から構成されるリハビリテーション委員会の設置を行う。各々の委員会は、全従業員の健康と作業能力の把援や、必要な場合には、職務の変更に伴う訓練、機械や作業場の調整の実施、あるいは障害者に必要な医学的、心理的、社会的支援、援助を責任を持って実施するのである。

 イギリスでは、法定の割当雇用制度では、障害者の就職口がほとんど増加していないことから、近年、政府により、障害労働者を雇用し、それを継続するために、使用者に対して奨励措置を施していくことに重点が置かれてきている。障害者が使用する施設や設備の調整にかかる経費に対する助成金や、障害を持つ就職希望者に“職務試行”を提供する使用者への財政援助を行う特別な制度が設けられている。また障害者自身も、障害ゆえの通勤費用の負担増のカバーや、自営のための財政援助を受ける資格が与えられているのである。これらの方策もILOの基準と完全に一致するのである。似たような助成金の制度は、フランス、西ドイツ、日本でもとられている。

 障害者雇用の分野における比較的新しい発展のもうひとつは、“エンクレーブ(enclave)”である。これは、重度の障害者がグループを構成し、特別な管理のもとに、通常の労働環境の中で働くものと定義されている。この方法はILOも推奨しているが、特にろうあ者、視覚障害者、精神簿弱者、精神障害者、てんかん患者等、管理を必要とするグループに最適と思われる。“エンクレーブ”活動の中心となるのは、包装や組立作業だが、また公園・庭園管理作業や、苗木植え、枝の剪定等の森林作業についても訓練の成功例が見受けられる。

 イギリスでは、重度障害者に保護雇用を提供する“エンクレーブ”が、“保護産業グループ(Sheltered Industrial Groups)”という名で開発されている。“エンクレーブ”方式の拡大は、疑いもなく、多くの重度障害の再雇用を願う期待に答えたのだった。この制度は通常の雇用との密接な連携に価値があり、この種の保護雇用が重度障害労働のモラールや効率を高めたことは、これまでの経験が物語っている。

 ILOの基準は、障害者の再雇用のために理想的な手段を講じてきた障害者の共同組合にも影響を与えている。ポーランドでは、障害者協同組合運動(Invalids Co-operative Movement)がリハビリテーション及び社会的職業的サービスを提供する上で中心的役割を果たしている。約470の協同組合とそれに付随する家内労働やサービス事業を通じ、現在300,000人の労働者を雇用しているが、そのうち200,000人が心身障害者である。これは今日ポーランドの一般労働市場で雇用されている障害者のうちの三分の一を少し上回る数である。

 障害者の雇用機会を増大させる革新的な方策が日本に導入されたのは1972年であった。これは、毎年一回、アビリンピック(“アビリティ”と“オリンピック”の2語の合成語。“能力のオリンピック”という意味)という技能競技大会を開催するものだが、そこでは、重度障害者が、機械、時計修理、洋服、建築、機械製図、テレビ・ラジオ修理等の分野で技能を競い合い、デモンストレーションを行う。そして最も優れた競技者にはメダルや表彰状が与えられる。この技能競技大会は、日本の身体障害者雇用促進協会や関係政府機関、使用者や労働組合団体により主催され、共催されているのだが、障害者が広い範囲の熟練作業をこなすだけの能力や潜在性を持ち得ることについて、一般国民、特に使用者の理解や認識を高めたのであった。これらの技能競技大会の成果を踏まえ、主催者は国際的にも視野を広げ、1981年の国際障害者年を機会に、同年10月、日本において国際アビリンピックが開催された。

 技術の進歩、より精巧な道具や設備、あるいは自動化された生産工程の採用、サービス部門や生産部門へのコンピュータシステムの導入は、一般労働者に対してと同様、障害者の職業訓練方法や雇用機会にかなりの影響を与えている。新技術は障害者に数えきれない恩恵をもたらしたという見方がある。新技術を応用したあらゆる種類の支援機器─移動用の自助具、視覚障害者のために信号を音声信号に変えたり、聴覚障害者用にその逆を行うコミュニケーションシステム等─、道具、機械、作業場の調整にリハビリテーション工学や人間工学を利用すること、エレクトロニクスを応用した読み書き器、新技術を応用した義肢装具の改良生産等がその例である。これらの科学的、技術的進歩は、多くの障害者にこれまでにない社会的職業的な行動の広がりを与えたのである。ILOの基準は、この分野におけるより一層の研究の必要性を強調している。

 発展途上国の状況

 多くの発展途上国では山積する問題─しかも、健康、食物、水、教育、住居等についてかなりさし迫った問題を抱えている。各国では、まず常に限られた資源を、最も緊要のニーズを満たすために、どのように配分すべきかを検討するのが先決で、障害者のニーズはしばしば脇へ追いやられてしまったり、後回しにされてしまうのが現状である。

 しかしながら最近では、発展途上国は、障害の持つ経済との密接な関係を認識しつつあるという勇気づけられる傾向がある。つまり、これは人口の“10人あたり1人”(である障害者)を支えるということを意味するのである。この傾向は、国内の開発計画の中で、そして時には、職業訓練、労働行政、社会福祉や社会保障といった健常者を念頭においた大規模なプロジェクトの構成要素のひとつとして、職業リハビリテーションプログラムを設立するためへのILO援助要求が増加していることにも反映している。

 ILOの基準に謳われている基本的原理に基づき、心身障害者の職業リハビリテーションの分野で、ILOの専門家及びコンサルタントが現在世界約40の発展途上国で助言や援助を与えている。これらの国々で提供されているILOの協力は、障害者のために、都市及び農村地域において、実践的な職業準備、訓練、雇用創出計画を開発することである。またプロジェクトによっては、精神薄弱者、盲人、ろうあ者等の特定なグループと関連をもつものもある。この他、障害を持つ子供、青少年、成人のための多目的リハビリテーションセンターの建設に重点を置いたプロジェクトもある。アジア、アフリカ地域では、地域社会への統合を通して、障害者の自立を促進すること、草の根レベルのリハビリテーション従事者を養成すること、そして特に農村地域において職業リハビリテーションと社会への統合のために、その土地固有の資源の開発を行うことが強調されている。職業リハビリテーションのすべての分野において、当該国民からスタッフを養成していくことがこれらプロジェクトの最重要課題なのである。

 発展途上国、特に農村地域において職業リハビリテーションプログラムを進めるための戦略は、その地域の基本的なニーズに基づいて策定されるべきであるということがILOの経験から明らかになっている。

 正規の訓練や雇用はあまり強調されるべきではない。そして“雇用”という用語は、もし使われたとしても、障害者が家族の基本的ニーズを満たすために役立つ活動に参加することを意味するべきである。最も発展の遅れた農村地域では至るところで、障害者の状況は次第に不安定になっていることが明らかになっている。もし彼らに受け入れられるだけの役割が見出されないのであれば、何も共有するもののない貧困状況ゆえに生き残ることが非常に難しくなっていくであろう。

 工業国と同様、第三世界においても保護雇用の方法の変容は明白である。保護工場(sheltered workshop)は当初、一般労働者と対等に競争することのできない重度障害者に職業活動を提供することを目的としていたが、今後は、このような工場が常に負うロスを補うための補助金に対するニードが高まるであろう。発展途上国には、工場の維持や繰り返し生じるロスのための漠大なコストを度外視できるような保護工場を設立できるだけの資本はないのである。結果として、将来の投資や拡張のために少しの余剰を確保しながら、運転資金や維持のための費用を満たすことのできる障害者のための生産工場、それらは選び抜いた生産や下請け作業を受けて、小規模産業や協同組合のラインとして動くのだが、そのようなタイプの工場の開発が今では目立って好まれるのである。これらの開発もまさにILOの新基準によって奨励されているものである。

 使用者と労働組合の役割

 近年の最も好ましい発展のひとつは、障害労働者のための社会・職業リハビリテーションの発展促進について、使用者団体と労働組合団体の関心が高まってきているということである。これはILOの条約と勧告が提唱する主要点のひとつである。

 使用者が率先して、時には政府や労働組合と協力して障害者の雇用機会を増進させている例は多い。“仕事を得た障害者はもはや障害者ではない─彼は他の人と同じように、ひとりの労働者なのである─”とはフランスの数多くの企業が最近採択したスローガンだが、これは、企業は障害者に仕事を提供する義務があるという方針を受け入れたことのPRでもある。参加企業のひとつである国立銀行は身体障害者団体と共同して、独自の障害者向け訓練コースを運営している。

 ソビエト連邦では、巨大な自動車工場で働く800人の障害者が工場内でリハビリテーションを受け元の職場へ再配置された。これは、医学、人間工学、職業サービスの協力によるパイロットプロジェクトとして行われたが、85%もの成功を収めている。このプロジェクトの経験は他の事業所へも広まりつつある。

 アメリカ合衆国では、各州知事障害者雇用促達委員会(The Governer's Committee to Promote Employment of the Handicapped)の下部委員会として機能する使用者諮問委員会(Employer' s Advisory Council)がある。この委員会のメンバーは、職業リハビリテーション及び雇用サービス機関のスタッフと共同して、障害を持つ求職者との定期的な面接に応じ、また多くの場合、早期の職業紹介を行う。

 労働者組織は比較的早い時期から、構成メンバーの福利や福祉に関心を抱いていた。この関心は多くの国々において労働災害を受けた労働者を保護するための法制の制定を求めた労働組合運動によってもたらされた要求の中に反映している。さらに団体交渉を通じ、障害者自身のみならず、その家族のために障害による重荷を軽くするための保健、福祉の制度が発展してきたのだった。

 労働組合はまた、これらのサービスにおける障害の予防という観点を認識し始めている。障害者の残存能力が、予定される職務の身体的、精神的要求に見合うかどうかを選択的配置という技法を応用することで見極め、障害の悪化は予防されている。また、労働組合が、経営者や官民の団体とともに(前述したスウェーデンの調整グループのシステムと同様に)障害者となった、あるいは障害者となる可能性のある労働者の職業リハビリテーションプログラムを進めているケースもある。

 アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)は、障害を持ったメンバーを援助する上で長い歴史を持っている。AFL-CIOは、有資格の障害労働者(精神的障害、身体的障害のいずれの場合においても)の雇用における機会の均等を保証するために、すべての実際的な方法が利用されるべきだとの点について明確な見解を持っている。総同盟は団体交渉での合意や労使間協力により、障害者の雇用機会の増大に努力をしている。それは、リハビリテーションサービスを促進し、障害者のための地域プログラムに積極的に参加することの意義を認識しようとするものであり、州や市当局に障害者雇用委員会において積極的役割を果たすよう要求することである。これは他の労働組合にとってモデルとなる政策なのである。

 カナダ労働会議(Canadian Labour Congress)、イギリス労働組合会議(The United Kingdom Trades Union Congress)、そして西ドイツ労働組合同盟(The West German Confederation of Trade Unions)もまた、障害労働者が活力ある社会的、経済的生活を送れるようなリハビリテーションと再統合のための方策を援助し、促進することに積極的に取り組んでいる。

 一般に障害者に対する援助は公共の責任であるとする議論がある一方、障害者の職業リハビリテーションにおいては、その障害者が新規雇用者であっても、またすでに戦力となっている場合でも、経営者と労働側との密切な連携と協力が極めて重要なのである。有効な職業リハビリテーションサービスは、官民いずれにおいても、労使の完全な協力なしには、これらのサービスの究極的な目標である─適当な職務への障害者の満足のいく再雇用─に到達できるような本当の進歩はないのである。

 国際協力

 ILOは、職業リハビリテーションプログラムを決して孤立してではなく、他の国連機関や国際組織あるいは地域組織、並びに各国政府や非政府組織と協力して実施してきた。国連障害者の10年(1983年─1992年)の枠組の中で、そして1982年の国連総会で採択された障害者に関する世界行動計画の実施のためにILOはこれらの組織と共同して、世界中の障害を持つ人々が地域社会や労働の世界において正当な位置を占めることを保証し続けていくつもりである。

*この論文は、1984年5月リスボンで開かれた国際リハビリテーション協会職業委員会セミナーで報告されたものである。

**ILO職業リハビリテーション部長

***身体障害者雇用促進協会


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1985年3月(第48号)32頁~38頁

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