特集/リハビリテーションと介護 動きだした介護福祉士制度

特集/リハビリテーションと介護

動きだした介護福祉士制度

中島紀恵子

はじめに

 1980年に入って以降、社会福祉中央審議会は毎年のように新しい答申をし、そのつど諸々の法決定がなされてきたが、それによって従来の医療保健や社会福祉個々の範疇をこえて、新しい保健福祉サービスの総合化の方向で流れてきた在宅福祉政策は確実に進んできた。福祉資格制度は、これらの動向に深く絡んで誕生した。

 本文で述べたいことは、次の2点である。第1は、わが国の介護福祉従事者の就労、教育、研修、学界、行政等の動向をふまえて資格制度の全体について説明すること。第2は、介護の本質の論議をめぐる問題ならびに介護の動向について論議してみることである。

1.身分法獲得まで

 介護福祉士資格制定は、当時の厚生省トップの強力なリーダーシップによってその契機を与えられたといわれている。しかしながらこれだけの大きな社会的反響のある制度の法制化は、それを受け入れるだけの素地がなければ実現できるものではないことも確かなことであろう。素地にはホームヘルパーや寮母急増と障害者福祉施設介助員の活動実体が少しずつ社会に理解され、「介護」という言葉が浸透していく中で、その質への期待が高まってきたということもある。

 介護福祉士の資格制度に向かっての本格的な準備は、1985年頃からと思われる。例えば日本学術会議社会福祉・社会保障研究連絡委員会は2年にわたる研究調査を終えて、1987年2月、厚生大臣に「社会福祉におけるケアワーカー(介護職員)の専門性と資格制度について」意見の具申をした。1986年には全社協が、介護職員の養成・資格に関する委託研究を行い報告している。1987年にも全社協は、寮母とソーシャルワーカーの接点とその違いを明らかにすることを目的に研究を委託し報告している。

 このような流れに先立って全社協は、1979年から「福祉寮母」の資格制度を導入し、現在研修を始めた。1985年には、「福祉寮母」とほぼ同等の要件によって「主任家庭奉仕員」の現任研修を発足させている。

 一方、養成校をみると、社会福祉施設介護要員の需要や離転職婦人の労働福祉と対策等の社会的要請によって1950年代後半以降すでに職業訓練校(労働省)が発足している。1982年以降には福祉専門学校が登場し、各校各様の方針に基づいた養成・訓練を行ってきた。

 以上のことから理解されるのは、介護福祉士資格制度は、ソーシャルワークの研究あるいは実践の蓄積や養成校教育の改革に関する方策から生じたものというよりは、京極の指摘のように、寝たきりや痴呆性老人に対応する寮母に保母資格では太刀打ちできない介護上の問題や、簡易な家事援助に奉仕するという建前で採用されるホームヘルパーに、重介護の老人や、その家族からの相談の質が重要な課題になるが、今のままでは対応できず、また医療関係者と協働する活動にも対応しきれないという現実上の問題と、そのサービスを受け入れなければならない利用者の不利益を除く必要から、新しく出発をした側面の方が強い。

 社会福祉サービスが公的、社会的な制度である限り、社会福祉職員の養成についても公的、社会的に行うべきことは当然である。しかるに寮母、家庭奉仕員などの仕事は、家事の延長であり、専門的知識を要しないとの認識も一部にあり、その養成はわずかに私学専門学校において行われてきたに過ぎない。実際、今日の老人福祉サービスの水準は、中高年の主婦層によって作り出されてきたといっても過言ではない。

2.資格要件及びその現状

 長寿化の進展に伴う要介護老人そのものの絶対数の増加、家庭内介護機能の低下や、外部介護サービスを必要とするケースの増加などにより、社会的介護ニーズは量的にますます増加する。同時に、要介護老人の高齢化、症状の長期化、重度化による困難ケースの増大から、介護ニーズの質的レベルもこれまでに比して高度化してくる。さらに、社会一般の所得水準の向上、特に年金受給者層の増加により、救貧的色彩を残した質量ともに最小限の公的福祉では必ずしも満足できない多様な階層の高齢者が増えてくる。

 介護ニーズの質と量は、要介護者の症状の軽重、居住場所(施設、在宅の別)、家族介護者の有無等によっても大きく異なる。例えば軽症の在宅者で家庭内介護者がいる場合は、外部介護ニーズは恒常的には発生せず、必要となるのは通院、往診による適時の医療サービスと家族介護者に適時の休息を与えるための臨時的な家事サービス程度である。

 これに対し、重症、施設収容の場合は、医療、生活両面においてきわめて質の高い看護と介護サービスを24時間要する事態となるだろう。これらの多様化した介護需要に効率的に対処するには、供給側もコスト・パフォーマンスを念頭におき、介護能力の高いマンパワーを適時、適量育成していく必要がある。

 しかし介護マンパワーのすべてに専門資格を必要とするものではなく、狭義の介護よりも家事援助を主体とする住民参加型組織やシルバー人材センターでボランティア的に奉仕する人々には、むしろその現有能力を十分に発揮するような教育研修体制をとって有限の資源を有効に配分していくという現実的な方途も政策的には考えられているようである。今回の「法」に基づく資格制度は、そのうちの前者を射程内におさめていると思われる。この点からいえば、今回の「法」は、既存する資格に新しい資格制度が加えられたと考えるのが実態的には妥当である。その点で介護福祉従事者の現状を一気に変えるインパクトになるとはいいにくい。現状になんらかのインパクトが生ずるとすれば、この資格者を「介護」専門従事者として採用することが常識的になるときであろう。

 資格要件は、介護福祉士は、図1にみるように資格取得のあり方が教育養成と経験に二分され、養成校卒業者においては資格試験を用意していない。養成校においては隣接の資格である保母とほぼ同様の位置づけである。また労働省が所轄する家政婦等には、厚生省介護福祉士養成基準とは異なる独自の介護技能訓練と検定試験による合格者に介護福祉士の称号を与える道を付けた。このほかに、実務3年に準ずるものとして高校の福祉科で介護に関する科目(厚生省令によって決められた科目)を履修したものが認められる。この資格要件の成立が介護福祉士養成機関整備の契機になったわけで、この意義はきわめて大きい。

図1 介護福祉士の資格要件

図1 介護福祉士の資格要件

 表1に介護福祉士養成校のカリキュラム基準を示した。これは図1の2年養成施設をモデルとした最低基準の教科目と時間数である。表2に、専任教員の定数基準を示しておく。

表1 介護福祉士カリキュラム指定基準

区分

科       目

時間数

備       考

一般教養科目 人文科学系、社会科学系、自然科学系、外国語又は保健体育のうちから4科目 120
専門科目 社会福祉概論 (講義) 60 年金、医療保険及び公的扶助の概論を含む。
老人福祉論 (講義) 30
障害者福祉論 (講義) 30
リハビリテーション論 (講義) 30 社会的リハビリテーションを中心とする。
社会福祉援助技術 (講義) 30
社会福祉援助技術 (演習) 30
レクリエーション指導法 (演習) 60
老人・障害者の心理 (講義) 60
家政学概論 (講義) 30 栄養、調理、被服及び住居の基礎知識について教授すること。
栄養・調理 (講義) 30 食品衛生を含む。
家政学実習 (実習) 90 栄養及び調理並びに被服及び住居をおおむね45時間ずつ教授すること。
医学一般 (講義) 60 人体の構造及び機能並びに公衆衛生の基礎知識並びに医事法規について教授すること。
精神衛生 (講義) 30
介護概論 (講義) 60 介護の概念、職業倫理、看護及び地域保健等他分野との調整並びに介護技術の基礎知識について教授すること。
介護技術 (演習) 120 介護機器の操作法を含む。
障害形態別介護技術 (演習) 120 老人介護及び障害者介護(点字、手話及び盲人歩行を含む。)について教授すること。
実習 介護実習 (実習) 450 施設介護実習を原則とするが、1割程度は在宅介護実習としても可とする。
実習指導 (演習) 60
合計   1,500

 

表2 専任教員の指定

学生総定員の区分

専 任 教 員 数

80人まで

3

81人から200人まで

3+(学生総定員数-80)/40

201人以上

6+(学生総定員数-200)/50

注1 1学級の定員は50名以下であること。
注2 専任教員のうち2人は介護福祉士、保健婦、助産婦、看護婦であること。

 カリキュラムや専任教員の配置から理解されることは、介護福祉士教育は、既存の看護学体系においても、社会福祉教育体系にもなじみにくい教育内容をもっているために看護教育を受けた看護職に依存しなければ成り立たないという現実があるという点である。

 現任者が介護福祉士の試験を受ける場合の受験科目もおよそこの養成教科目に準ずる。それでも受験者は、教育養成数をはるかに超える。この傾向はかなり長い期間続くと考えられる。

 系統的な教育を受けずに資格を得ることの問題に対する危惧やまた逆に、系統教育プログラムが未整備の状況にあるにもかかわらず取得資格試験なしに資格保有者になることの質に対する危惧もあるが、まだそれを検討できる資料は十分ではない。

3.資格者及び養成の動向

 介護福祉士国家試験は過去2回実施された。第1回の合格者内訳は表3の通りで、受験者数は母数から推定すると、社会福祉施設が約10分の1、ホームヘルパーが20分の1程度である。第2回の受験者数は9,868人、合格者数3,664人(37.1%)であるから、過去2回の合格者数は6,446人ということになる。なお、第1回の合格者の約6割、第2回合格者の8割が老人ホームの寮母等であった。

表3 第1回介護福祉士国家試験合格者内訳

区    分

受験者数
(人)
合格者数
(人)
合格率
(%)
合格者百分比
(%)

総数

11,973 2,782 23.7

100.0

社会福祉施設の寮母等 10,086 2,393 23.7 86.0
  特別養護老人ホームの寮母等 6,882 1,613 23.4 57.9
身体障害者更生援護施設の寮母等 1,039 287 27.6 10.3
その他の社会福祉施設の寮母等 2,165 493 22.8 17.7
家庭奉仕員 1,795 381 21.2 13.7
家政婦 41 6 14.6 0.2
その他 51 2 3.9 0.1

 養成施設については、1988年4月時点の認定校は25校(短大7校、専門学校18校、1学年定員1,228名)と1989年開校の51校(短大13校、専門学校38校、定員2,419名)である。また福祉ヘルパー科等設置する職業訓練校が11施設ある。そして、今年度養成校を卒業して介護福祉士資格を得、介護福祉士登録した数は1,021人である。したがって現時点の有資格者総数は7,467人ということになる。再々述べるように介護福祉士はその15倍にもなるだろう未資格の介護従事者とともに、社会的要請や活動システムの影響の中でその地歩を築くことになり、その道は険しい。

4.介護サービスと介護福祉士との関係

 「介護」議論は、21世紀高齢社会による家族構造や機能の変貌とその間隙に生ずる家族員の「世話」の困難の問題に対応している。すなわち、シビルミニマムとしての社会保障をより普遍的な生活福祉に切り替えていく必要に直面して、国が進める福祉政策の何を、どこまで、誰が、どのように担うべきかといったことに関して、「介護」が1つの社会的象徴として議論をよんでいるのである。介護福祉士は「介護」サービスの1つとして制度化されたものであり、政策的にいう「介護」と「介護福祉士」の「介護」を混合して議論するわけにはゆかない。

 介護サービスは、介助サービスや在宅ケアサービスと同義のように用いられている(厳密にいえば、相当に異なる枠組みであるはずであるが、概念よりも現場の実践が先行して言葉がつくられるということであろう)。ここでもあまり概念にこだわらずに在宅介護サービスと在宅ケアとを同義で使うことにするが、利用者本位の対策で重視される在宅ケアということになると、課題は、第1に通所ケアと短期中間施設ケアの拡充、第2に市場機構によるサービスを導入してでも供給サイドの多様化を図ること、第3にそのサービスの質を保証する人材の教育、第4に重度障害者の相談と家庭訪問ケア、第5は住宅、福祉機器開発、及びモビリティの保障、第6は年金等の充実である。

 日本プライマリ・ケア学会在宅ケア検討委員会では在宅ケアの特性を図2のように示し、患者のQOL向上のためにはnecessityのところだけにとどまらず、将来的にはamenityのところまで看護なり医療なりのサービスが普及する必要があると述べている。介護サービスのバリエーションを広げるために施設サービスはより多様化し、充実しなければならない。それによっても訪問看護、介護の働く場や体制は変わり、24時間のバリエーションをもつ必要が生じてくる。資格を得た社会福祉士や介護福祉士が、これら重要な施策に関連する職場にいずれ多く就業していくだろう。それを見通した責任の明確化に対する作業や役割分担、必要な人材の適正配置、継続教育などが今後の大きな課題となる。

図2 在宅サービスの特性:サービスの幅
 

基本的

選択的

necessity amenity luxury
介護用品等  ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒ 
家事援助  ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒
介 護  ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒
看 護  ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒
医 療  ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒

 日本プライマリ・ケア学会 在宅ケア検討委員会

5.介護福祉士の「介護」に関する若干の整理

 老人福祉法以外の法の中にも、介護に類似した業務を示す用語があり実践がある。例えば介助、養護、療育、生活指導、身辺処遇、直接処遇、援助、ホームヘルプなどである。これらの用語の概念整理はほとんどなされないまま、介護は「老人介護」と同義語のように定着しつつあったし、また家庭介護と混同して用いることも多くみられるようになってきたのである。

 今回の介護福祉士資格制度は、こうした実情を整理せざるを得ない状況を作ったという点でも意味あることといわなければならない。

 「社会福祉士及び介護福祉士法」による介護福祉士の対象は、「身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障のある者」である(社会福祉士は、これに、“環境上”が加わる)。これによって、介護は、類似する業務あるいは職種の統合概念として鍵になる用語となった。

 介護の業は「入浴、排泄、食事その他の介護を行い、並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うこと」とある。介護の成り立ち、従事者、その業務内容等からさしあたって介護を定義すれば、「しつけ」られて、日常生活活動能力(ADL)をコントロールできるはずの人間が“身の回りを整えられない”ことにおいて生活全般が乱れている事象を助ける活動であり、介護の範疇は、青年期以降にあって身の回りを整えられないほどに日常生活の支障をきたしている人々である。介護活動にとって児は間接的な対象である。むろん障害児においても介護的アプローチはあるが、それは保育・教育的な課題によるものであろう。児への介護で本務とするのは、児の保育、教育期間の保護者あるいは家族が、児あるいはその者の身体的、精神的な障害のために日常生活活動能力上の失調を生じた場合に、保護者や家族の保育、教育環境を助けるためのアプローチであり、それは、「法」のいう“その者及びその介護者に対して介護に関する指導”であるかと思う。

 介護に独自の方法はあるのか、今のところ筆者は、これに十分に答えられない。しかしながら、介護は、例えば“食べる速度のリズムが乱れ始めた”とか“動きが緩慢になってきた”などの観察情報を、看護のように「生命活動の消耗」に集約する能力は持たない。むろん介護の周辺情報としてえられたものが看護の核心となる情報であったり、看護の周辺情報が介護の核心となることはあって当然である。しかし、介護がもてる働きは、その事象が、身の回りを中心としてその辺縁にどのような生活の不自由を生じさせるかについてひたすら利用者の生活の価値を判断基準に「介護する」点であろう。療護施設で生活介護員をしている亀山は、「運営会議への利用者自治会参加」、「雑居部屋解消」、「利用者自治の保障と展開」等の人権保障の施設の実践を通して、施設で生活する人々の生活を保障するためには施設構造における“障壁”をとりのぞく作業の重要性について述べている。現在、当施設では居住者権利宣言が採択されているが、介護福祉士ならびに介護従事者の活動の価値のよりどころが示唆され、興味深い。介護は、看護からきわめて多くの道具を借りながら、目標、手段は社会福祉処遇(treatment、ソーシャルワークの対象における援助方法、広義には社会福祉サービスをいい、介護を含めて考えられている。仲村優一・一番ヶ瀬康子他、社会福祉辞典、誠信書房、昭和49年版)に依拠してきた。その社会福祉処遇の効率を高めて質を改革するためには、介護に独自の機能があり、その保証が求められて介護福祉士制度ができたわけであるから、介護が社会福祉士の陣笠に止まっていたのでは、介護福祉士と社会福祉士は真のペアにならないし、看護職とのパートナーシップも発揮できない。

 よくいわれるように、人づくりはその基礎固めに10余年はたっぷりとかかる。介護福祉教育10余年は、家政学、福祉学(教育学を一部含む)、看護学の3本柱を融合させ、あるべき像に向かってその水準を探究することに向けられるであろう。それは、看護職や社会福祉士やOT・PTその他の職種にとっても重要なことであり、その探究自体が協働と強調でなければならない。時代は、それを要請しているのであろう。

 特に看護職は、辻のいうように「現実の問題として看護婦のいない介護というものはない」という本当の現実を看護職が創り出すこと、またそのような方略で日常の活動を進めることの年月ではあるまいか。

おわりに

 介護福祉士は、文字通りの“擡頭”であるから、その結実には10年20年の歴史を必要としよう。あらゆる専門集団が既存のテリトリーを保守するのではなく、ユーザーに不利益を与えない方途をしっかりと見据えた連携とその活動の蓄積を検証していくことが求められている。

文献 略

日本社会事業大学教授


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1990年9月(第65号)14頁~19頁

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