特集/内部障害のリハビリテーション 排泄機能障害者(直腸・膀胱)の生活上の問題について

特集/内部障害のリハビリテーション

排泄機能障害者(直腸・膀胱)の生活上の問題について

安部隆夫

はじめに

 最近では日本人の食生活の欧米化(肉を中心としたもの)が進み、大腸癌(直腸癌)の発生率が高くなり、また膀胱癌等の罹病率も高くなっている。この結果、直腸機能障害や膀胱機能障害がおこり、ストーマ(STOMA:人工肛門・人工膀胱の排泄口のこと。ギリシャ語で“口”の意味)の造設を余儀なくされる人が多くなっている。現在日本におけるオストメイト(OSTOMATE:人工肛門・人工膀胱保有者のこと)の数は推定で約10万人はいると言われているが、正確な数字は不明である。社会福祉行政業務報告(厚生統計協会発行)によれば、膀胱・直腸機能障害(18歳以上)の身体障害者手帳交付数は毎年11,000人を越えており、その総数(累計)は103,296件(1993年3月31日現在)となっている。これに潜在オストメイトの数を加算すれば、優に10万人以上のオストメイトが日本にいることになる。

1.(社)日本オストミー協会について

 (社)日本オストミー協会(略称JOA)は、日本のオストメイトの全国組織として昭和44年(1969年)に発足、爾来今日に至るまで一貫してオストメイトの福祉の向上、早期社会復帰を目指して活動を続けている。会員数11,185名、全国都道府県(沖縄を除く)に63の支部を持ち、平成元年(1989年)には社団法人としての認可を受けた。また国際オストミー協会(略称IOA:世界47ケ国が加盟)にも日本代表として加盟、来る平成9年(1997年)にはIOA世界大会を日本で開催することが決定されている。このようにJOAは内外ともにオストメイトのための活動を強化している。

2.ストーマケア

(1)生きる喜びを持つ

 延命のためとはいえ、大腸癌(直腸癌)や潰瘍性大腸炎、膀胱癌等の疾病によりストーマの造設を余儀なくされ、術後初めて自分のストーマを見たときの驚きと悲しみは、同憂者でなければとても理解できるものではない。それに加えてストーマ自体の特殊性として①排泄物を貯める直腸や膀胱がないこと、②排泄物をコントロールする括約筋がないこと、③そのためそれぞれの排泄物は絶えず排泄されてくること、④ストーマとは死ぬまで生涯の付き合いであること、⑤ストーマは社会生活や家庭生活に大きな影響を持つこと等があって、精神的、肉体的社会的苦悩を多く持つ。しかし悩んでばかりいても問題の解決にはならない。むしろオストメイト自身が自ら積極的に創意と工夫をこらし、問題解決の道を見出す方向で努力する姿勢が求められる。そして他のオストメイトとともに「生きる喜び」が相互に分かち与えられるよう、同憂者同士の連携、相互協力を強めていくことが大切である。

(2)適切な装具の選定

 前述したようにストーマには排泄物をコントロールする括約筋がない。そのため自然肛門の時のように自分の意志で排便・排尿をすることが出来ない。したがって不随意に排泄される便や尿を貯めるために、パウチ(Pouch:袋、粘着剤の付いた採便・採尿袋)の装着が必要となってくる。また、ストーマは、大別して消化器系ストーマと尿路系ストーマとに分けられる。

 消化器系ストーマにはコロストミー(COLOSTOMY:結腸人工肛門のこと、大腸(結腸)の部分につくられた便の排泄口で①横行結腸、②下行結腸、③S状結腸の各ストーマがある)とイレオストミー(ILEOSTOMY:回腸人工肛門のこと、回腸(小腸)の部分につくられた便の排泄口)の2種類があってそれぞれ部位が異なる。

 尿路系ストーマはウロストミー(UROSTOMY:人工膀胱のこと)で回腸を用いて尿の排泄口をつくる回腸導管方式と尿管を皮膚に出して排尿する尿管皮膚樓の2方法がある。

 このようにストーマと言っても種々様々な種類があり、またストーマの形や大きさも人間の顔と同じく個人差がある。このため画一的なストーマケアは困難である。結局はオストメイト自身が自分のストーマのタイプや排泄物の性状等を良く理解した上で、自分に一番適合した装具の選定をするしかない。要はストーマがあったとしてもオストメイトの日常生活や社会生活が何等制限されないような適切な装具を見つけ出すことである。

 一般的に言って適切なストーマ用具とは、①皮膚への刺激が少ないこと、②取扱いが簡単、③防臭・防音効果が確実なもの、④日常生活の活動が制限されないもの、と言われている。しかしパウチにもいろいろな種類やタイプが多くあって、自分自身ではなかなか決めることが出来ない場合がある。こういう時は率直にET(ENTEROSTOMAL-THERAPISTの頭文字で表現:特別な研修訓練を受けてストーマケアに熟達した看護婦のこと。ストーマ療法士とも言う)担当看護婦等に相談をして自分に合った装具を早めに決め、自分なりのストーマケアを確立して早期社会復帰を目指す努力が必要である。

(3)排泄方法と皮膚管理

①排泄方法

 i)コロストミー(人工肛門)

 コロストミーの場合の排泄方法は自然排便法と洗腸法の二通りがある。自然排便法とは文字通り排泄口から自然に排泄される便をパウチで受けて処理する方法であり、洗腸法とは一定量の微温をストーマから注入して、定期的に排便を促進させる方法である。この洗腸法によって排便の処理をしようとする時は、事前に必ず主治医と相談し、その許可を得てから担当看護婦の指導と訓練を受けて実行に移すようにしなければならない。この二つの方法のうちどちらの方法を選ぶかはストーマの部位、排便習慣等によって決められるが、双方とも一長一短があってどちらが良いとは言えない。

 自然排便法は自然の排便だから無理がないように思われるが、不随意に排泄される便を受けとめるためには、常時パウチを装着しなければならず、そのためにパウチの粘着剤によるストーマ周辺の皮膚のカブレやタダレをおこしやすい。反面、洗腸法による排泄処理は、洗腸終了後の一定時間は排便の心配がないので、精神的に安心して過ごすことができるし、またパウチの装着を必ずしも必要としないため粘着剤による皮膚障害が比較的少ない。しかし洗腸には洗腸場所(トイレや風呂場等)の長時分独占(約1時間前後)や日本式トイレから洋式トイレへの改造等、問題もある。

 自然排便法か洗腸法か、について当協会の会員(コロストミー)にアンケート調査をしたところ、自然排便49.2%、洗腸32.2%、自然排便と洗腸の併用6.2%であった。(「オストメイト生活実態基本調査報告書」1993・8)。

 この調査結果をみて感じられた点は、洗腸法は病院の医師や看護婦の積極的な指導によって以前より増えている。しかし反面、最近のパウチの質の向上(皮膚保護剤や防臭性)によって洗腸から自然排便に切り換えたり、また最初から自然排便で処理をする人も増えている、といった特徴も見受けられた。

 ii)イレオストミー(回腸人工肛門)

 排便の内容が常に軟便・下痢便であるため、洗腸による排便処理は無理である。従ってコロストミーのパウチによる排便処理に準じて処理が行われている。パウチの粘着剤による皮膚障害が生じやすく、また軟便・下痢便のためパウチと皮膚の透き間に便がもぐりこんで皮膚を荒し、発赤やビラン、タダレの原因をつくることもある。総じてイレオストミーはコロストミーに比べてストーマケアがやや難しい面がある。パウチの適切な選定と指導が望まれる。

 iii)ウロストミー(人工膀胱)

 尿の排泄であり、ウロストミー用のパウチを使って排尿処理をする。常時尿の排泄があるので、パウチの貼り替えの際は、なるべく尿の出方の少ない時間帯を選んで素早く行うことが貼り替えのコツである。四六時中パウチを装着しているのでイレオストミーと同様、ストーマ周辺の皮膚障害が生じやすい。パウチの選定も含めて尿の漏れ防止対策の確立が必要だと思われる。

②皮膚障害

 再三述べた如く、ストーマ周辺の皮膚障害はストーマケアに重大な支障をきたす。一旦皮膚障害をおこすとパウチの装着が困難となるため排泄方法も変えなければならず、また同時に皮膚障害の治療もしなければならないという二重の苦しい立場に追いこまれてしまう。オストメイトは一生涯パウチを装着して過ごさなければならないだけに、如何にして皮膚障害をおこさないですむか(予防)、また皮膚障害と排泄処理との関係をどう合理的に解決するか(処置)についてさらに研究を深めて具体的な対策を確立していかねばならないと思う。

3.オストメイトが持つ問題

(1)寝たきり・半身不随

 オストメイトはストーマの自己管理を終生行わなければならない。その中で特に不安と恐れを感じているのが病気や老齢化によって寝たきりや半身不随となり、身体の自由がきかなくなることである。これを解決する一つの方法として、より簡便で片手でも操作しやすいストーマ用装具の開発が望まれる。

(2)外出・旅行

 外出先や旅行先での排泄処理が心配で外出・旅行に行かない人がいる。とくに術後3年未満の人に多い。自宅を離れたところでの装具の交換に自信が持てないこと、また洗腸者は給湯設備等への不安があること、である。先輩オストメイトの温かいアドバイスで、自信を持って外出、旅行が出来るようにしていく必要がある。

(3)性生活

 術後、性生活が満足に送れないオストメイトがかなりいる。オストメイトにとって性機能障害は表現し難い大きな悩みである。余後の人生を人間らしく生きていくためにも、是非この愁訴の早期解決を望むものである。

おわりに

 オストミーリハビリテーションの目的は、オストメイトの自立であり、社会復帰を目指すものである。しかしそれには多くの困難があり、克服すべき問題も多い。日本オストミー協会はオストメイトの早期社会復帰を目指しつつこれら諸問題の解決に積極的に取り組み、合わせて障害者の「完全参加と平等」の目標に向かって大きく前進していく考えである。

参考文献 略

オストミー協会会長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1994年9月(第81号)24頁~26頁

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