特集 サービスの利用者が主役になる地域中心の総合リハビリテーション-第39回総合リハビリテーション研究大会報告- 開催趣旨 松矢 勝宏

特集 サービスの利用者が主役になる地域中心の総合リハビリテーション
-第39回総合リハビリテーション研究大会報告-

開催趣旨

松矢 勝宏
第39回総合リハビリテーション研究大会実行委員長 東京学芸大学名誉教授

はじめに

 第39回総合リハビリテーション研究大会は「総合リハビリテーションの深化を求めて~サービスの利用者が主役になる地域中心の総合リハビリテーション~」をテーマとして企画・開催された。開催にあたり心をくだいたことは,第38回研究大会の課題意識と成果を継承し,来年度の記念すべき第40回研究大会富山大会へ発展的にバトンタッチする願いであった。そこで,40回研究大会では新しいテーマ設定があることを期待しながら,本大会では昨年来のテーマを継承し,38回大会の成果を継承する観点から,サブテーマを「サービスの利用者が主役になる地域中心の総合リハビリテーション」としたのである。

1. 研究大会の成果の蓄積から学ぶ

 研究大会の歴史において総合リハビリテーションの課題を新たに設定する作業と検討に基づいた2010年の第33回大会(実行委員長:総合リハビリテーション研究大会常任委員大川弥生氏)を起点にその成果と蓄積を考えたい。この大会から35回大会までテーマを「総合リハビリテーションの新生をめざして」としている。33回研究大会の開催趣旨では,「総合リハビリテーションをめぐる状況の変化」として「生活機能の低下のある人々(高齢者や慢性疾患者など)や,関与する専門職が増え」,「また当事者(患者・障害者・利用者・そしてその家族)の積極的な参加は必要になり,真の連携システム・プログラム」が必要となったことから,「総合リハビリテーションの在り方やすすめ方について再考し,原点に戻って皆で力を合わせてつくっていくのが大きな課題」とされたのである。(「リハビリテーション研究」NO.166より。)また研修会の開催によりWHOのICFモデルの活用を図ることが始まったことも重要なことである。
 さて金沢市(金沢大学)で開催された第36回研究大会から上記のような課題意識をさらに追究しようと,「総合リハビリテーションの深化を求めて」がテーマに設定された。翌年の仙台市で開催された。第37回研究大会へと続く2年間の研究協議の中で利用者(当事者)の主体性と自己決定の尊重,当事者の社会参加への希望や自己実現の要求を支援する専門職員の蓄積された専門性をさらに有効なものへと再構築する必要性,また社会参加の実現過程における当事者同士のサポートの有効性が検証されたことが重要である。

2. 第38回研究大会名古屋大会の成果から継承したい視点

 実行委員長の愛知医科大学教授の木村伸也氏による基調講演は,第38回研究大会のテーマ「総合リハビリテーションの深化を求めて~明日から一歩を踏みだそう~」の趣旨を「協働的コミュニケーションからはじめる総合リハビリテーション~私たちに求められるもの~」と具体的に提示した。内容は医療・介護における総合リハの問題,急性期医療の問題,リハ医療の問題,当事者と専門職間の認識乖離,居宅サービスの問題にわたる多岐な課題において,サービスの利用者(当事者)が情報を共有し,共感をもって支援を享受することができるためには,障害,高齢というラベルではなく,利用者の生活全体をとらえ生活機能の低下に起因する課題を十全に理解すること,機能回復訓練という呪縛をとき利用者の生活全体の向上というリハビリの本来の目的に向かうために,総合という連携の視点こそが専門職間に共有されなくてはならないこと,そして制度で決められた期間・時間ではなく,利用者の生活時間全体を考え,生活機能の向上と社会参加の観点からそれぞれの支援の在り方を工夫し連携を図る必要性を提言された。

3. 第39回研究大会の開催とプログラムの工夫

 第38回研究大会の成果を継承し,本研究大会のサブテーマを「サービスの利用者が主役になる地域中心の総合リハビリテーション」として「地域中心」を加えたことは,利用者の社会参加が地域生活を前提とするからである。名古屋大会が延べ400人を超える盛会であったので,「総合」の観点を継承すると同時に東京大会としての特色をだす工夫もしたいと考えた。そのためには交通の便利さ,多くの参加者を受け入れる会場の大きさ等を考慮する必要性があった。この点については目白大学が協賛者として新宿校舎を会場に提供してくださり,心より感謝を申し上げる。
 会場の利便性からプログラムを前夜祭と2日間の大会に設定することができた。日本障害者リハビリテーション協会の事務局がある戸山サンライズが国際障害者年の関係イベントの中心会場にもなったことから,前夜祭では新宿区という地域性を加味した内容を考えた。前夜祭の報告はこの特集で掲載されないのでふれておく。社会福祉法人日本点字図書館理事長の田中徹二氏,日本障害者協議会総務委員長の春田文夫氏と私で,11月4日午後5時より鼎談によるアッピール「障害者福祉のメッカとしての新宿~日本の国際障害者年から障害者権利条約締結までの歩みを中心に~」を行なった。この後,日本障害者リハビリテーション協会顧問の上田敏氏,総合リハビリテーション研究大会常任委員の大川弥生氏による「学生と若手ワーカーのためのICF研修会」が開催された。
 11月5日から始まる研究大会の開会式では,まず7月26日に相模原市の津久井やまゆり園で起きた殺傷事件で亡くなった利用者の方々のご冥福をお祈りし,かかる事件を再び起こさないことを誓い黙祷を捧げた。その後,日本障害者リハビリテーション協会の炭谷茂会長,厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長の堀江裕氏,東京都福祉健康局障害者施策推進部長の高原俊幸氏,目白大学長代理鐙屋一副学長からご挨拶をいただいた。
 開会式を除く研究大会の内容は本号の特集にすべて収録されている。研究大会のバックボーンの機能を持つ2つの講演「障害者をめぐる国際動向」(日本障害者リハビリテーション協会の松井亮輔副会長),「障害者をめぐる国内動向」(日本障害フォーラムの藤井克徳幹事会議長),東京大学先端科学技術研究センター准教授の熊谷晋一郎氏の特別講演「当事者の立場から考える自立とは」と私の基調講演があり,第1日目の残りの後半と2日のプログラムは,今回の研究大会の「総合」を特徴づける2つのシンポジウムと5つの分科会によって構成されている。
 今回の特徴の一つは研究大会実行委員会の構成の仕方にある。この大会を企画する日本障害者リハビリテーション協会常任委員会の推薦による委員と会場を提供した目白大学の教員推薦による委員が協力し大会を運営した。シンポジウムと分科会は実行委員会の発案である。研究大会の全体的に関わるテーマで斯界各領域の提言者によって総合リハビリテーションの課題を深めるシンポジウムⅠ,今日的な課題である地域包括ケアについて研究大会のサブテーマに沿って深めるシンポジウムⅡ,そして,課題別に,子どもと家庭への継続的支援,発達障害学生への支援,コミュニケーション・意思疎通の支援,障害者雇用における差別の禁止と合理的配慮をめぐる課題,介護予防の今日的課題の5分科会を設定した。
 講演,シンポジウム,分科会の講師の皆さまのご提言,実行委員の皆さまのご協力とご尽力に心より感謝を申し上げる。


主題・副題:リハビリテーション研究 第170号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第170号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第46巻第4号(通巻170号) 48頁

発行月日:2017年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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