特集 サービスの利用者が主役になる地域中心の総合リハビリテーション-第39回総合リハビリテーション研究大会報告- 分科会4 障害者雇用における差別禁止と合理的配慮等の課題をめぐって

特集 サービスの利用者が主役になる地域中心の総合リハビリテーション
-第39回総合リハビリテーション研究大会報告-

分科会4
障害者雇用における差別禁止と合理的配慮等の課題をめぐって

【パネリスト】
有村秀一(トヨタループス(株)代表取締役社長(トヨタ自動車(株)人事部主査兼務))
成澤岐代子((株)良品計画総務人事担当)
金子鮎子((特非)ストローク会副理事長)
田中伸明(「厚生労働省改正障害者雇用促進法に基づく差別禁止・合理的配慮の提供の指針の在り方に関する研究会」元委員,(社福)日本盲人会連合,弁護士)
尾崎俊雄(厚生労働省職業安定局雇用開発部障害者雇用対策課長)

【コーディネーター】
栗原久((一財)フィールド・サポートem.代表理事,日本福祉大学実務家教員)

栗原 久
(一財)フィールド・サポートem.代表理事

要旨

 企業(一般企業,特例子会社),障害福祉サービス事業者,当事者でもある弁護士,厚生労働省の立場から,分科会テーマに沿って発題を行い,その後,意見交換へと進んだ。全体を通して,法律・条例に関わる課題,精神障害者雇用に焦点を当てた問題提起,2016(平成28)年4月以降の企業・行政での相談の傾向,合理的配慮や過重な負担についての事例分析の必要性,企業側と障害者との話し合いの重要性,その際の就労支援機関の関わりの意義などが浮き彫りになった。改正障害者雇用促進法施行後,半年の状況と各立場での問題認識を鮮明にすることができたことは,意義深いものと考える。

1. はじめに

 分科会4では,「今年4月に施行された改正障害者雇用促進法に基づく差別禁止と合理的配慮提供義務について,半年余り経った現状での課題を整理する。あわせて2018(平成30)年施行の精神障害者雇用義務化や,障害者差別解消法の3年後見直しを踏まえ差別禁止と合理的配慮提供義務の展望を考える」ことを趣旨に,パネルディスカッションを行なった。以下に発言要旨と議論の経過を記載する。

2. 各パネリストの発言要旨

(1)(株)良品計画 総務人事担当 成澤岐代子

 「無印良品」という店舗を全国に展開している当社は,2009(平成21)年からハートフルプロジェクトの名のもと障害者雇用を行なっており,9月1日現在で260人の障害者が働いている(内208人が精神障害者)。当初はハートフル店舗を指名していたが,現在は,店舗自らが手を挙げてくるように変わってきた。以前から本人申請等に基づき,配慮事項をプロフィールシートにまとめ,各部署・店舗で情報共有しているが,店長会での説明等,法改正を機に更に取り組みを強化した。
 半年経った時点での課題としては,精神障害者への合理的配慮についての分かり難さがある。中にはお互いに話し合う前に外部機関に相談されることもあるが,支援機関が障害者寄りだったり,企業寄りだったりすると,課題が多く残ってしまう。精神障害者雇用義務化を見据えて言えば,就労の入り口段階での準備状況のことがある。医療機関と企業がつながることは難しいので,支援機関が間に入ること,通院同行する等の支援が必要になる場合もあるのではないか。
 また,精神障害者は疲れ易い傾向もあるので,雇用率において週20時間未満でもカウントできるようにすれば,一般的には雇用も進むのではないか。それから,配慮をすることによって,他の社員が障害者との間に隔たりを感じることのないようにもしたい。障害者が能力を向上できるよう,チャレンジできる体制作りも重要である。合理的配慮については,当事者の気持ちに立ち会社としてやるべきことを考えていくことが大事である。

(2)トヨタループス(株) 代表取締役社長 有村秀一

 トヨタ自動車では,1977(昭和52)年ぐらいから障害者雇用をスタートさせ,1100人程の障害者が働いているが,7割が中途障害者であり,障害者として入社したのは400人弱,ほとんどが聴覚障害者である。これは自動車産業全体の傾向でもある。欧米のように「あなたはこの仕事」と決めて採用するのではなく,日本ではマルチが求められる。障害者の場合,シングルタスクで仕事とのマッチングが合えば能力も発揮されるが,そうでないところに障害者雇用の難しさがある。
 そこで,多様な雇用を目的に2008(平成20)年に特例子会社である当社を設立した。当社では,三障害あわせて190人の障害者が働いている。精神障害者は40人程いるが,定着の難しさが課題である。自分の疾患についてよく理解している人は,不調になったときも黄色信号を出してくれるので,雇用側としてもリズムがつかみ易い。逆に少し調子が良くなると,服薬をやめてしまう等,好調不調の波が激しい人は離職に至る傾向も大きい。
 合理的配慮に係る相談窓口については,トヨタ自動車全体の窓口を当社が担っているが,半年経た現時点で10件程しか相談がなく,その中でも本来の意味(業務遂行に伴う当事者の障害に関連した障壁低減)での相談は2件程であり,何か新たな権利が生まれたというような誤解が多くあるように思える。障害者権利条約の批准の中から生まれた法改正なので間違え易いとも思うが,今後,合理的配慮について,前述の正しい理解を広めることが必要と感じている。当社自身での合理的配慮相談については,特に発生していない。これは入社時に個別に配慮事項を聞いているためでありこのことからも一般企業での,特に中途障害者の方向けにもっと告知等が必要ではないかと思う。

(3)(特非)ストローク会 副理事長 金子鮎子

 昭和50年代から精神障害者とサロンを作り,話し合いをしてきた。働きたいという声が上がり,清掃会社に依頼して職場に受け入れてもらったが,続かない人が多く,きちんと働けるようにするため,1989(平成元)年から精神障害者の働く場として,(株)ストロークを立ち上げ人を育ててきた。社会適応訓練事業を使って訓練から雇用してきたが,2012(平成24)年以降は以前からあった(特非)ストローク会の中に,就労継続支援A型事業所ストローク・サービスを作り,パートナーと呼ぶ利用者,25人程が都内22か所の清掃現場で働いている。
 まだ精神障害者が雇用率に入っていない当時,労働省の精神障害者の雇用に関する研究会の2期にわたる委員となり,雇用率に算入されるよう働きかけてきた。また,社会適応訓練は国制度ではなくなったが,現在も約半数の自治体で実施しており,その全国組織である全国精神障害者就労支援事業所連合会や,就労継続支援A型事業所の集まりである全Aネットなどにも関わっている。そうした経験から,精神障害当事者が企業に対して,どのような配慮をしてほしいのか自ら伝えていく力をつけることが重要であると思う。そのために,SST(Social Skills Training)のような訓練をしたり,当事者同士で話し合うワークショップを重ねる中で力をつけることが必要ではないか。また,支援者にもそのためのサポートを望みたい。
 精神障害者は病を負ったことで大きなダメージを持ってしまい,自信をなくすことが多いが,働きながら徐々に,自分の可能性を信じられるようになるというプロセスを経ることが大事であり,更に新たな可能性を喜び合って,そこからまた次の力を伸ばすといったことも経験してほしい。そのような場面を多く作っていくためにも,合理的配慮の提供が重要であると思う。

(4)弁護士 田中伸明

 大学生の時に視力を失い,障害者として生きることになり,弁護士として活動しているので,そうした視点から話をしたい。まず,地方公共団体の条例で,雇用に関する条項について懸念がある。それは,「合理的配慮をなされてもなおその業務を適切に遂行することができない場合その他の客観的に正当かつやむを得ないと認められる特別な事情がある場合を除き」といった「留保文言」が広く解釈されると,事業主がまだ実施していない合理的配慮の効果を推測して,応募を拒否したり解雇したりすることが可能になってしまうので,注意が必要である。
 また,改正障害者雇用促進法については,3点課題を提起したい。1点目は,間接差別,つまり障害とは無関係な基準を立てて,実際には障害のある人を排除する効果を得ようとする場合を,どのように防止するかである。2点目は,合理的配慮指針の別表の具体例に人的サポートが明記されていないことである。ヒューマンアシスタント制度の充実を図る方法,同僚にアシスタント的な役割を求める方法等を考える必要がある。
 3点目に,中途障害者への対応の充実について述べたい。中途障害は突然やってくる。だから「今日からあなたは障害者です。配慮しますから頑張りましょう」ということにはならない。障害の受容には非常に時間がかかるし,その後も視覚障害者なら音声パソコンや歩行訓練なども学ばねばならない。そうした中途障害者特有のニーズを踏まえた,例えば一定の休職期間といったものを,合理的配慮に入れていただきたいと考える。

(5)厚生労働省障害者雇用対策課長 尾崎俊雄

 1年前,現在の部署についた直後,ある支援機関に見学に行き,企業で働く精神障害者の事例を聞いた。体調が良くない時に休憩室があったらということを恐る恐る話したら,ぜひ作ろうということで,何度か話をしてできたという話だ。その時に思ったのは,相互に理解しあうこと,よく話し合うことがとても大事であるということだ。
 差別禁止と合理的配慮の提供についても,対立関係ではなく,よく話し合うことが重要だが,それでは解決できない場合もある。その時はハローワークへ相談をしてもらうが,8月までで全国の相談件数は数十件である。ハローワークによる助言がなされたものも数件ある。経営者の家族が,精神障害者の面接に反対して断った事例では,助言を経て面接が実施された。また障害者に使い易いトイレが物置になっていたケースでも,改善がなされた。労働局での調停まで行ったものも数件ある。数十件という相談件数は,企業でしっかり対応しているからか,周知が進んでいないからか,どちらもあると思うが,引き続き周知を図りたい。
 また,企業に相談窓口がきちんと置かれているか,社内での話し合いの状況はどうだったか,どういうケースが過重な負担となって,過重にならない範囲での対応は,どのような形でされたのかといった分析も必要である。それから,中小企業で相談窓口の対応が難しい場合について,支援機関にアドバイスを求めたりするなど体制を整備することも検討をしている。できる限り早く多くの企業に根付き,より良い雇用と雇用の継続につながるよう,しっかり対応していきたいと考えている。

3. 議論の経過

(1)パネリスト間の意見交換

 はじめに,成澤氏からは,障害者手帳を所持していないが,合理的配慮を必要とする人に関する定義の必要性等について語られた。また,ハローワークに相談に行った際に,精神障害者について精通していなかった経験を踏まえ,公的機関における専門家配置の充実について希望を述べられた。
 次に,有村氏からは,精神障害者の職務遂行能力を定量的に把握できるようなアセスメントの仕組みがあれば,企業は前向きに取り組み易いのではないかという提案がなされた。精神障害者にとって服薬は大事だが,機械操作についてのリスクも書かれており,この辺りをどう捉えていったら良いのかという問題についても触れられた。
 続いて,金子氏は,有村氏の話の中にあった障害の受容について共感され,当事者が体調について自分も把握し,企業にも伝えられることが大事である旨強調された。服薬については,就労定着支援システムであるSPIS(Web上のツール)で,服薬状況を記録したり,日々の調子について企業や支援者と共有したりすることも提案された。
 続いて,田中氏は,企業サイドの取り組みに謝意を述べた後,確かに合理的配慮は権利ではないが,企業には提供義務があり,だからこそ,尾崎氏のいう協議が重要になってくる点,そして就労支援機関の職員が同席することの意義が補足された。金子氏の発言に関連して,もう本を読めないとあきらめていたが,点字を覚えることで読書はできると思ったこと,それが自信の回復にもつながったということが,自己の体験として語られた。
 最後に,尾崎氏から,田中氏が述べた指摘に対して,実態調査をしていくことや,事例集で対応していくことなどを検討していきたい旨が話され,更に,障害者のキャリアアップを支援することについて,一億総活躍という観点もからめて述べられた。また,精神障害者雇用の義務化へ向けて,ハローワーク等での対応を強化していくことが説明された。

(2)フロアを交えた意見交換

 その後,フロアからの次の発言を受けた。①企業として相談を待つよりも障害者にアンケートをしたらどうか(特別支援学校教員),②クローズで就職した人等は自らの障害について言い難いのではないか。また課題があった時に,まず会社と話し合いをしていくことが重要ではないか(当事者),③聴覚障害者だが,会社の朝礼で発言内容を隣の人に聞いたら,発言した人に聞いてくれと言われたが,合理的配慮の不足ではないか(当事者),④中途障害者の復職支援をしているが,可能な業務の切り出しや時差出勤を求めていく際,その仕組みがない会社に対して,合理的配慮として求められるのか(医師),⑤発達障害のある部下がいて,産業医も交えて障害受容に至っているが,土日に病院のSSTに通ってもらうようにすることは,果たして法的にどうなのか(地方公務員)。
 以上を受け,再度パネリストから発言した。成澤氏は,①について聴き取りすることには賛成であり,②について自社経験から同感であること,④について話し合いが大切であること,⑤について本人の思いが重要であること等を話された。
 有村氏は,①について手帳所持を申告していても,年末調整のための場合もあり,それを会社が利用してアンケートを行うことはプライバシーの問題が出てくるので,全社員に均等に聞く中で本人から申し出てもらう必要があること,②について同様の趣旨でクローズで就職した人には会社からは聞けないこと,④について時差出勤が困難な現場もあり,一概には言えないことを説明された。
 金子氏は,①についてアンケートを取ることは,当該の障害者のこととしてではなく,社内でこういう声があるというような形で参考として取ることもできるのではないかとの感想を述べられた。
 田中氏は,①についてアンケートは良い方法であること,②③の当事者の意見について,いずれも社内協議が大事であること,④の時差出勤については合理的配慮指針の別表にも記載されているので,それらも示しながら会社に理解を働きかけていくのも一つの方法であること,⑤について土日に病院へ行くことが業務命令的なものになってしまうのはどうなのかということを指摘された。
 尾崎氏は,①について5年に1回行う雇用実態調査で,合理的配慮の把握ができないか検討したいこと,また全体を通して話し合いをしっかりしていくことが重要であることを補足された。更に,差別禁止と合理的配慮について,中小企業やA型事業所も含めて,全ての企業がしっかり底上げされるよう,対応していきたい旨語られた。
 最後に,コーディネーターの栗原がまとめを行い,本テーマについて,1年後,2年後にも検証する場を持てればとの期待を述べ,閉会とした。


主題・副題:リハビリテーション研究 第170号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第170号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第46巻第4号(通巻170号) 48頁

発行月日:2017年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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