特集 サービスの利用者が主役になる地域中心の総合リハビリテーション-第39回総合リハビリテーション研究大会報告- 障害者をめぐる国際動向 ―「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を中心に― 松井 亮輔

特集 サービスの利用者が主役になる地域中心の総合リハビリテーション
-第39回総合リハビリテーション研究大会報告-

障害者をめぐる国際動向
―「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を中心に―

松井 亮輔
(公財)日本障害者リハビリテーション協会副会長

要旨

 2015年9月の「持続可能な開発にかかる国連サミット」で採択された,「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(SDGs)は,「誰一人取り残さない」社会の実現を目指す,17の目標,169のターゲットおよびそれらの達成状況をモニターするための230の指標から構成される。このうち7つの目標にかかる8つのターゲットならびに11の指標に障害または障害者が明記されている。その意味でも,SDGsの国際的・国内的実施により障害者が取り残されることなく,障害者権利条約が目指す,「他の者との平等を基礎として」社会への完全かつ効果的な参加が,一層推進されよう。
 日本政府は,2016年末に策定した「SDGs実施指針」に基づき,国内実施と国際協力の両面で取り組みを進めようとしている。

はじめに

 2015年9月の「持続可能な開発にかかる国連サミット」で採択された,従来の8つの目標,21のターゲットおよび60の指標から構成される「ミレニアム開発目標」(MDGs)にかわる,新たな開発目標を含む,「われわれの世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(以下,SDGs(2016年~2030年))は,5つの中心的要素として,人間,地球,繁栄,平和およびパートナーシップを掲げ,「誰一人取り残さない」社会の実現を目指す,17の目標,169のターゲットおよびそれらの達成状況をモニターするための230の指標から構成される。これらの目標とターゲットは,統合された不可分のもので,持続可能な三つの側面,つまり,経済,社会および環境の三側面を調和させるものとされる。
 SDGsは,MDGsとは異なり,途上国だけでなく,日本をはじめ,先進国も含め,その達成が求められる,普遍的な目標である。また,MDGsでは,どの目標やターゲットにも障害や障害者は明記されなかったが,SDGsでは,7つの目標にかかる8つのターゲットならびに11の指標に障害または障害者が明記されている。その意味でも,SDGsの国際的・国内的実施により障害者が取り残されることなく,障害者権利条約(以下,権利条約)が目指す「他の者との平等を基礎として」社会への完全かつ効果的な参加が,一層推進されることが期待される。

1. 障害または障害者が明記されたターゲットと指標

 17の目標のうち,障害または障害者が明記されたターゲットおよび指標があるのは,目標1(貧困をなくす),目標4(質の高い教育),目標8(ディーセント・ワークと経済成長),目標10(格差の是正),目標11(持続可能なまちづくり),目標16(平和・正義・有効な制度)および目標17(目標達成に向けたパートナーシップ)で,それらのターゲットおよび指標は,つぎのとおりである。

(1)目標1(貧困をなくす)のターゲット1.3:各国において「床」(最低限の水準)を含む,社会保障制度および対策を実施し,2030年までに貧困層および脆弱層に対し,十分な保護を達成する。
〔権利条約第28条[相当な生活水準及び社会的な保障]に関連〕
〇指標1.3.1:性,失業者,高齢者,障害者(中略)別の社会保護の床/制度によりカバーされる人びとの割合

(2)目標4(質の高い教育)のターゲット4.5:2030年までに教育におけるジェンダー格差をなくし,障害者(中略)など脆弱者があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする。〔権利条約第24条[教育]に関連〕
〇指標4.5:均等指標(女性/男性,農村/都市(中略)および障害者(中略)などといったその他の人びと)

(3)目標8(ディーセント・ワークと経済成長)のターゲット8.5:2030年までに若者や障害者を含む,全ての男性および女性の安全かつ生産的な雇用およびディーセント・ワークならびに同一労働同一賃金を達成する。〔権利条約第27条[労働及び雇用]に関連〕
〇指標8.5.1:職業,年齢,障害者別の女性および男性被用者の平均時給
〇指標8.5.2:性,年齢および障害者別の失業率

(4)目標10(格差の是正)のターゲット10.2:2030年までに年齢,性別,障害(中略)に関わりなく,すべての人びとのエンパワーメントおよび社会的,経済的および政治的な包摂を促進する。〔権利条約第5条[平等及び無差別]に関連〕
〇指標10.2.1:年齢,性および障害別の所得の中央値の50%以下で暮らす人びとの割合

(5)目標11(持続可能なまちづくり)のターゲット11.2:2030年までに脆弱な立場にある人びと,(中略)障害者および高齢者のニーズに特に配慮し,公共交通機関の拡大など(中略)により,すべての人びとに安全かつ安価で容易に利用できる持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する。〔次のターゲット11.7とともに権利条約第9条[施設及びサービス等の利用の容易さ]に関連〕
〇指標11.2:年齢,性および障害者別に公共交通機関の利用が容易な人びとの割合

(5)目標11のターゲット11.7:2030年までに(中略)高齢者および障害者を含め,人びとに安全で包括的かつ利用が容易な緑地か公共スペースへの普遍的なアクセスを提供する。 〇指標11.7.1:性,年齢および障害者別に都市の建物密集地域におけるすべての人びとのための公共的空間の性,年齢および障害者別のスペースの割合
〇指標11.7.2:性,年齢,障害,発生場所別の,前の12か月間における身体的または性的虐待被害者の割合

(6)目標16(平和・正義・有効な制度)のターゲット16.7:あらゆるレベルにおいて,対応的,包括的,参加型および代表的な意思決定を確保する。〔権利条約第29条[政治的及び公的活動への参加]に関連〕
〇指標16.7.1:全国分布に比べ,公的機関における(性,年齢,障害者(中略)ごとの)地位の割合
〇指標16.7.2:性,年齢,障害(中略)ごとの意思決定が,包摂的で,対応的と信じる人びとの割合

(7)目標17(目標達成に向けたパートナーシップ)のターゲット7.8:2020年までに(中略)障害(中略)その他各国事情に関連する特性別の質が高く,タイムリーかつ信頼性のある,分類されたデータの入手可能性を向上させる。〔権利条約第31条[統計及び資料の収集]に関連〕
〇指標17.18.1:(中略)ターゲットに関連して国レベルで完全に分類化された持続可能な開発指標の割合

2. SDGsの国内実施への取り組み

 日本政府は,SDGsの実施をすすめるため,2016年5月20日安倍晋三総理大臣を本部長とし,全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を内閣に設置。SDGsに国内実施と国際協力の両面で取り組むべく,省庁横断的に総括し,優先課題を特定した上で,市民社会団体(日本障害フォーラム(JDF)なども含まれる),民間企業,大学や研究機関など多様なステークホルダーへのヒアリング結果も参考に,「SDGs実施指針」を2016年12月に策定している。


主題・副題:リハビリテーション研究 第170号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第170号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第46巻第4号(通巻170号) 48頁

発行月日:2017年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

menu