特集 サービスの利用者が主役になる地域中心の総合リハビリテーション-第39回総合リハビリテーション研究大会報告- 分科会1 支援を必要とする子どもとその家族への継続的な関わりをめぐって

特集 サービスの利用者が主役になる地域中心の総合リハビリテーション
-第39回総合リハビリテーション研究大会報告-

分科会1
支援を必要とする子どもとその家族への継続的な関わりをめぐって

【ミニレクチャー】
小林芳文(横浜国立大学名誉教授・和光大学名誉教授)

【パネリスト】
大崎恵子(アンダンテの会代表)
岡正子(横浜市立桂台保育園園長)
高橋美雪(島田療育センター作業療法科科長)

【指定討論】
愛沢隆一(日本社会福祉士会副会長)

【コーディネーター】
増田まゆみ(東京家政大学児童学科教授)

増田 まゆみ
東京家政大学児童学科教授

要旨

 「支援を必要とする子どもとその家族への関わりをめぐって,その実際を,乳幼児期,学童期,成人期と切れ目のない生涯支援という視点で考える」という分科会趣旨に基づき,小林芳文氏によるミニレクチャー「ムーブメント教育・療法に基づく支援を要する子どもとその家族への関わり」でスタートした。実践を裏付ける『理論』を共有後,大崎恵子氏からは「重度障がいの我が子と共に育ったムーブメント活動の記録」,岡正子氏からは「支援を必要とする子どもと共に~子どもの主体性を引き出す保育を通して」,高橋美雪氏からは,「当センターでの子どもやその家族・環境へのリハビリについて」のテーマのもと,それぞれの実践について話題提供がなされた。指定討論者の愛沢隆一氏から話題提供者から多くの学びと示唆が得られたことと共に,今日的課題である児童虐待について児童相談所における体験と知見が述べられた。コーディネーターが提示した「今後の障害児支援の在り方について(報告書)」と関連づけて,大崎氏の具体的報告を核に,地域において,多様な人,施設等の家族を包含した支援の在り方について深く検討した。

1. 企画趣旨

 平成26年7月に出された「今後の障害児支援の在り方について」では,「発達の段階に応じて一人ひとりの個性と能力に応じた丁寧に配慮された支援を行うこと,そのためにライフステージに応じて切れ目の無い支援と各段階に応じた関係者の連携(縦横連携),また,丁寧かつ早い段階での保護者支援・家族支援を充実させることを目指して制度の在り方を考える」と示されている。この基本的な考えを具体的に推進していくために,支援を有する子ども等の育ち及び家族支援に有効性が認められている「ムーブメント教育・療法」理論のポイントと,3つの話題提供(支援を必要とする我が子の育ちとその支援,保育所・発達支援センターにおける取り組み)を提示し,検討する。

2. ミニレクチャー(小林芳文)
ムーブメント教育・療法に基づく支援を要する子どもとその家族への関わり

 M.Frostigによる「ムーブメント教育・療法」のゴールは,「健康と幸福感の達成」である。神経・心理学的アプローチで,学習や発達に困難や遅れを示す子どもへの支援にあたって,自発的な活動,そして喜びを大切にするムーブメント教育・療法を体系化し,動きの特性を活かして発達全体を支える教育・療法である。「動くことを学ぶ(動きづくり,感覚機能,身体機能)」,「動きを通して学ぶ(身体意識,知覚機能,認知能力,情緒・社会性)」という二つの方向性がある。
 ムーブメント教育・療法の特徴は「子どもの喜びと自主性の尊重」である。具体的には,楽しさ・成功感の重視,競争の排除,一人ひとりの活動の尊重と集団で活動する楽しさ,自分の身体・身近にあるもの・遊具等の活用,発達の理解・ストレングスに目を向けることが大切にされる。
 支援のためのアセスメントは,MEPA-R〔0~72ヵ月〕Movement Education and Therapy Program Assessment-RevisedとMEPA-IIR〔障がいの重い児(者)のためのアセスメント〕とがある。
 このアセスメントの特徴は,家庭や園での生活や遊びの中で,無理なくチェックすることが可能であること,できる+できない-だけでなく,芽生え反応±が評価されることである。アセスメントを支援者(保護者・保育者等)が生活・遊びの中に活かし,プログラム編成につなげることができる。IEP(個別の教育・療育支援計画)やIFSP(個別家族支援計画)に活用されている。
 現在,就学前の保育,特別支援学校,療育,介護,病院,地域での活動等多様な場でムーブメント教育・療法に基づき取り組まれている。支援者と家族が,共に楽しく取り組む活動は,発達や育児の良循環を生み出し,支援を必要とする子どもへの関わりを継続していくことにつながる。

3. 話題提供

(1)重度障がいの我が子と共に育ったムーブメント活動の記録 (大崎恵子)

 小林芳文先生の著書『乳幼児と障害児の発達指導ステップガイド』を読み,活動をぜひ一度見たいと思ったのが始まりで,26年間,ムーブメント活動に親子で参加してきている。障がいのある子の切れ目のない生涯にわたる継続的な支援,家族も一緒に楽しめる子育て支援,関係機関との連携した支援活動について報告する。
 なぜムーブメント活動を続けたかは,娘に苦痛を与えるのではなく,娘が楽しめることで成長を応援できたからである。また,アセスメントにより,娘の発達状況を確認しながら次を目指すことができた。娘の笑顔により,一緒に楽しみ,できたことを喜び合うことが続ける力となった。
 娘は,今29歳である。平成17年にA養護学校を卒業し,現在はB市の生活介護事業所に週に5日通所している。3歳から毎月1回,C保育園のムーブメント教室に通い,トランポリンなどの遊具を使い,楽しい遊びを経験することができた。また,春や秋には保育園の近くの川の土手に出かけて,屋外でのムーブメント活動を楽しんだ。4歳から自宅近くの保育園にお願いして,週に2,3回,園児と遊ぶ機会を作った。仲良くなった子どもは,保育園以外の場所でも娘に声をかけてくれた。アセスメントで,3歳,6歳で一番大きく変化したのはコミュニケーション領域,人に対する興味,特に同年代の子どもにとても興味を示すようになった。特別支援学校に入学し,同学年のクラスとの交流学習の機会を作ってもらった。
 中学3年の平成13年から,D養護学校の教員の協力のもと,重度障害児・者と家族のためのムーブメントサークル・アンダンテを開始した。活動開始の動機は,学校完全週休2日制となり,週末に出かける機会の少ない重度障害児に運動遊びの場作り,子育ての仲間作りを目指したいという思いであった。特別支援学校の教員はじめ,様々な養育施設などのスタッフや学生等の参加により,継続してきた。家族参加型の活動は①継続した活動ができる②情報をつなぐことができる③子育ての楽しさを経験できるというメリットがある。温度調節可能な場所の確保の難しさなど,解散の危機に陥ったが,社会福祉法人施設等の協力を得て継続している。平成24年から,年に一度,公開ムーブメント教室を開催し,多様な年齢,障害児・者,支援者が集い,子どもの成長を喜び合う仲間や専門家の方とつながりを実感している。

(2)支援を必要とする子どもと共に~子どもの主体性を尊重する保育を通して (岡正子)

 保育所では,子どもが安全で活発に活動できる環境の中で,伸び伸びと遊び,子ども自身が主体的に考え,行動する体験を積んでいる。保育で大切にしていることは下記の3点である。
 ①子どもの主体性を尊重し,体や五感を使いながら,考え行動し続ける学びを喜びとする力を育む。人とかかわることや自然のふれ合いを心地よいと思える感性が,幼い頃に育むことが大切であり,夢中になって遊ぶ中で身に着けていく。
 ②ノーマライゼーションの理念を幼児期に培うこと。高齢者,障がいのある方等,さまざまな人が生活し,活動しているのが社会である。しかし,制度が充実し,施設の整備により,多様な人々との接点が失われ,どのように接するかわからなくなっているのが現状である。幼児期からノーマライゼーションの理念を,日常的に高齢者や障害者の施設の方との交流,人とのふれ合いをとおして,心の中に刻んでほしいと願っている。
 ③地域の中で存在感のある保育所へ。子どもには人と人を結ぶ大きな力がある。子どもの存在が周りの大人を結びつける役割を果たし,地域の輪ができていく。地域の方の目が保育所に向き,子ども理解が深まっていくことで,虐待防止や災害時の協力につながっていく。地域の中で存在感を発揮し,園児だけではなく,地域全体の乳幼児の健やかな成長,生活を支えていく役割を担っていく。
 支援を必要とする子どもの保育で,日常保育で取り入れているのが,子どもが楽しいと感じながら,心身ともに成長していく発達支援プログラムであるムーブメント教育・療法のプログラムである。区全体で,年4回の夜仕事終了後の研修,公開保育を実施し,学びを継続しながら,支援を必要とする子どもへの保育に取り組んでいる。身近な素材やムーブメント遊具等を使って,思わず体,頭,心が動くような楽しい活動をしている。集団で活動しながら,自分を表現できるチャンスがあり,それぞれの表現が認められるという考えのもと,やってみたい,楽しい,できたという成功体験が,「一緒にできたね」という達成感につながっている。
 障害の有無にかかわらず,保護者,保育者,専門機関等の支援のもと,困難を乗り越える経験を積み重ね,問題解決能力,人とかかわる力が育まれていく。子どもの主体性を引き出す保育を展開し,子どもが楽しいと思える保育を提供することこそが,保護者の安心につながる。

(3)当センターでの子どもやその家族・環境へのリハビリについて (高橋美雪)

 当センターは,医療法による病院,同時に,児童福祉法による生活の場である。さまざまな専門職が協力し,医療並びに各種リハビリテーションサービス,生活援助等を通じて,残存機能の開発と維持を図り,社会の一員として生活することを目的としている。平成18年の発達障害者支援法,特別支援教育の法改正を受け,発達障害児を対象としたソーシャルスキルトレーニングなどのグループ指導,地域機関への巡回相談,また,ペアレントトレーニング等保護者への支援も行うようになった。
 発達支援センターでは,3歳未満の子どもが最も多く,次いで小学生低学年,年少児や小学生高学年の順である。3歳未満児の保護者は,行動面での困り感や,発語や独歩等発達の遅れに関する心配事である。それ以降は,集団行動や友人とのコミュニケーション,日常生活でのスキルの未発達等である。年代,時期に必要なサービスを提供している。
 保護者相談では,母親が家族や親族から育て方を責められ,子育てに自信を持てず,相談できずノイローゼになったりと,保護者自身が進むべき道を歩めないときに,まずは寄り添い,共感し,幸せな方向へ導くことが必要となる。
 相談事業で本人または家族の個別相談サービスと,保育所,幼稚園,学校等地域施設の職員相談に応じ,療育全般に対する技術的な支援を行うサービスがある。
 情報発信事業では,保護者や支援者を対象に発達障害に関する理解を深めることを目的とした心理相談室講演会や就学情報交換会が毎年行われている。小中学校での交換会に加え,情報の少ない高校の交換会が開催されている。
 委託事業の一例としては,保育士のレベルアップを目的とし,発達障害に関する知識と考え方を学び,症例検討会で,各園の垣根を越えて,共通理解と支援方法を習得していく研修である。
 これまで当センターは個別的な支援を中心に行なってきた。しかし,日常生活の中で個別支援が生かしきれず,周囲から発達障害への理解が得られない状況がある。そこで,個々のスキルが発揮できる環境の整備に焦点を当て,家族や学校,地域関係者への間接的な支援を積極的に行なっている。
 今後は,ライフステージに沿った切れ目のない支援を縦断的に行なっていく。発達促進や自己有能感が得られる場を広げていきたいと考えている。

4. 討議~指定討論者(愛沢隆一)の討議のポイント

 必要な支援を必要なときに届けられることによって,発達が保障されている。そのことにより,子どもと家族に,また地域に笑顔がもたらされることがレクチャー及びパネリストより語られた。
 増え続ける児童虐待は,親と子の悲痛な叫びである。子どもに必要な支援を届けるために,考え合うことが必要である。全ての子ども,子育て家庭を視野に入れた「妊娠期から子育て期にわたる総合的な相談支援を行う『日本版ネウボラ制度』といわれる子育て包括支援センター」での取り組みが,平成27年度スタートしたことが紹介された。
 こうした制度が進展していく中で,支援を必要とする子ども,家族への多様なサービスをつなげていく仕組みをいかに作るかが重要課題である。

5. おわりに~全体を通して

 コーディネーターから,5人の発言に共通していたのは,支援を要する子ども,家族への継続的なかかわりの中で,「自己肯定感を育むことの大切さ」という視点を提示した。
 大崎氏が「娘がもうあと10日で3歳,初めてムーブメント教室に参加したとき,一緒に遊んでくださった先生が,がらがらのおもちゃを回して見せて,娘が目で追いかけると,『よく見てくれますね』,おもちゃに手を伸ばそうとすると,『すごいですね,いろいろできそう,楽しみですね』って言ってくださったんです。それまで病院とか,保健所では,健常の子どもとの発達と比べて,『ああ,これできませんね,これもまだですね』と言われ,親はどうしていいかわからない。3カ月の子どもができることでも,3歳の娘に向かって,『すごいですね』のことばに,涙が出た」と語った。人の育ちにかかわる者としての基本に,改めて気づかされた瞬間である。
 前述の「今後の障害児支援の在り方について」の中で,理念として,「地域社会への参加・包容(インクルージョン)の推進,そのための後方支援~一人ひとりの個性と能力に応じた支援を行うことができる体制,障害児本人の最善の利益の保障,家族支援の重視」が示されている。また,「グランドデザイン:地域における『縦横連携』を進めるために」として,「ライフステージに応じた切れ目の無い支援(縦の連携)と保健,医療,福祉,保育,教育,就労支援等と連携した地域支援体制の構築(横の連携)」が示されている。
 この考え方を具現化したのが,3人のパネリストの取り組みと言えよう。しかし,支援を必要とする子ども,家族への継続的なかかわりは,関係する人,施設,機関の熱意や努力によってなんとか成り立っている。今後も,子ども,家族一人ひとり,さらに支援者自身が「自己肯定感を育む」ことを第一義にする取り組みの在り方を,本協会,諸学会等さまざまな場で検討することが求められる。
 M.Frostigの「尊敬と共感性のもっともよき伝達者とは,自分自身を尊敬し,共感する人のことである。(フロスティッグのムーブメント教育・療法263頁)」ということばを紹介して本稿を閉じる。


主題・副題:リハビリテーション研究 第170号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第170号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第46巻第4号(通巻170号) 48頁

発行月日:2017年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

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