特集 サービスの利用者が主役になる地域中心の総合リハビリテーション-第39回総合リハビリテーション研究大会報告- 分科会2 発達障害のある大学生の支援をめぐって

特集 サービスの利用者が主役になる地域中心の総合リハビリテーション
-第39回総合リハビリテーション研究大会報告-

分科会2
発達障害のある大学生の支援をめぐって

【パネリスト】
村山光子((学)明星学苑 法人本部企画部企画課長,前学生サポートセンター長)
西村優紀美(富山大学教育・学生支援機構学生支援センター副センター長)
荒木朋依(目白大学・目白大学短期大学部障がい等学生支援室コーディネーター)
大学卒業生(当事者からの提言)

【コーディネーター】
吉川一義(金沢大学教授)

吉川 一義
金沢大学人間社会研究域教授

要旨

 近年の障害を取り巻く動向は,障害の有無や個人の違いを認識し,様々な人々が活躍できる共生社会形成の基礎として,現在及び将来の社会に重要な意味を求めている。発達障害を含む様々な障害のある学生の学ぶ権利をいかに確保していくのか,「合理的配慮の提供」を中心概念とした修学支援が喫緊の課題である。問題の発生時期は学生生活の節目で顕在化し,困難事態は交友関係・レポート作成・ゼミ教員との関係と卒業研究・就職活動等であった。支援には各大学に既有の基礎的環境状況により,合理的配慮のメニューも異なった。支援には,単に直面した問題の解決に止まらず,困難事態を他者との合意形成を基盤とした自己決定の機会と捉えて,本人の困難への理解と自己理解を支え,自己決定する力を高める事が重要と考えられた。

1. テーマにかかる制度上の背景

 近年,発達障害のある大学生の修学支援が活発になってきたが,その取り組みは試行錯誤の状況にある。
 「障害者の権利に関する条約」(2006)は,「教育についての障害者の権利を認める」(第24条第1項)とし「障害者が,差別なしに,かつ,他の者と平等に高等教育一般,職業訓練,成人教育及び生涯学習の機会を与えられることを確保する。このため,締約国は合理的配慮が障害者に提供されることを確保する」(第24条第5項)と定めている。これを受けて障害者基本法では,障害を理由とした差別やその他の権利利益の侵害を禁止し(第4条第1項),「社会的障壁除去」のための合理的な配慮(同第2項)を求めた。また,発達障害者支援法は「大学及び高等専門学校は,個々の発達障害者の特性に応じ,適切な教育上の配慮をする」(第8条第2項)とした。2012年2月,文部科学省高等教育局長名で「障害のある学生の修学支援の充実及び修学機会の確保に努める」通知が出された。発達障害を含む様々な障害のある大学生の学ぶ権利をいかに確保していくのか「合理的配慮の提供」を中心概念とし,大学に支援担当者を配置して情報発信が求められた。2016年4月には「障害者差別解消法」が発効した。これらの動向は,障害の有無や個人の違いを認識して,様々な人々が生き生きと活躍できる共生社会形成の基礎として,現在及び将来の社会に重要な意味を求めている。合理的配慮には,障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況が異なり多様かつ個別性が高い。このため,建設的対話による相互理解を通じて,必要かつ合理的な範囲での柔軟な対応が求められる。

2. 支援の実際

(1)目白大学の取り組み:荒木朋依氏

 日本学生支援機構実態調査の障害定義に従えば,2016年度,本学の障害学生は746人おり,在籍率は1.72%である。大多数は慢性疾患や内部障害を抱える学生であり,長期的な医療管理を必要とするが,通院・服薬等,自分でコントロールして生活し,卒業していく。
 ①「配慮学生」と支援:他方,相談の申出があり支援を要する学生は少ない。てんかん発作が起きやすい学生や授業での配慮を求める学生である。彼らを配慮学生とし,担当教員に文書で学生の状況を伝えて配慮を依頼している。昨年度から支援室活動のリーフレットを全学生に配布し,教員にはFD研修を通して活動を伝えてきた。本年11月時点で配慮学生は100人となった。卒業・就職・進級の時期になると相談件数が増えると予想される。
 ②「支援障害学生」と支援:配慮学生100人の内,細かな支援を提供している支援障害学生は46人である。彼らの多くは「学生相談室」で定期的なカウンセリングを受けている。また,医療系学部の少人数教育では教員と学生の交流が密接であり,配慮が必要な学生は早期に見出されて学科内で対応されている。このため,現在,支援室が支援する学生は5人であり,履修登録・授業での配慮・就職等への支援を開始した。支援には,本人・所属学科・学生相談室,保護者を交えて計画を立て実施している。一人が現在海外に留学している。この学生には入学時から様々な支援を行なってきたが,海外留学を希望した際にも,本人,学科や保護者と何度も話し合った。結果,本人の望みが実現した。まず本人の主治医に英語で診断書を書いてもらい,ホストファミリーを選べるように先方の大学と交渉した。8月に渡航して1カ月くらいは順調だったが,9月の新学期を迎えて友達関係で悩みパニックを起こし,また,英語の使用に不安を抱いて心身の状態が不安定になった。本学の国際交流専属の職員の協力を得て,先方の大学やホストマザーと連絡を取り合い,漸く現地のクリニックにも通い始めた。無事に帰ってくることを願っている。このように特定部署に限らず,支援内容に応じて,全学を挙げて支援している。本学は障害者差別解消法施行に向けて,2014年,学内に障害学生の修学支援に関する委員会・部会を立ち上げ,昨年度,障がい等学生支援室ができた。日々迷いながら支援をしているところである。

(2)明星大学の取り組み:村山光子氏

 2014年度日本学生支援機構の調査では,発達障害のある大学生数は5年前との比較で約5倍増となった。合理的配慮が問われている今,「何を」「どこまで」「どのように」支援すべきかを模索している。
 ①STARTプログラム:学生生活で鬱的状態やパニック障害を呈する等,不適応を起こす学生が顕在化し,その背景には発達障害があると推測された。組織的対応として2008年に「STARTプログラム」を開始,翌年から本格的な支援を展開した。プログラムは社会移行支援ニーズとその重要性を鑑み,ソーシャルスキル・トレーニング(SST)とインターンシップを組み合わせて行なっている。1クラス5~10人で4クラスを編成し,月に3回程度で年間30コマ(1コマ90分間)を土曜日に実施している。クラス1は大学への適応を目的とし,授業への参加・レポート作成等,学生生活で必要なスキル習得をめざす。クラス2・3・4は就労や社会移行を意識したインターンシップが併用される。クラス2は,1~2日程度で就労支援事業所が主催する大学内のカフェで実習する。クラス3では,春・夏の休み期間中に実習する。実習経験に基づく個別面談を通して自己理解を深め,進路と向き合う。クラス4では実習期間も長く,他の学生と同様に一般企業へ実習に行く者もおり,各学生の力・要望・進路に基づき相談して実習先を決める。また,実習先に学生の状況や必要な支援を伝える必要から,プログラムのための実習先を開拓している。
 ②支援の在り方:就職の壁を乗り越えられない者がいる。大学4年になって進路を決めるのは難しい。早い時期から自分と社会を知り,就職を視野に入れた大学生活を送ることが必要である。学生にはインターンシップでの出来事を整理し,結果をフィードバックして自分の適性を判断することが難しい。支援者の介入が必要で,確認・整理する作業を要した。プログラムの目的は単に就職させることではなく,自分で決めた進路に進み働き続けることを念頭に置き,学生のうちに準備することである。課題は,実習前後で実施するアセスメントの精度を高めること,また,本人にフィードバックする実習評価所見は実習先担当者の主観によるところが大きく,統一された評価軸が必要である。これらと共に,進路選択時のマッチングでは本人の希望と適性を踏まえたアドバイスがどこまで可能かの検討も必要である。インターンシップ先が不足する現状では,企業側の要望や学生の状況と思い等,双方の情報のやり取りを一層充実させることも,進路の幅を広げることにつながる。

(3)当事者の立場から:吉沢氏

 ①支援を受ける前:2007年に明星大学の情報学部に入学した。動機は高校で明星大学の指定校推薦があったこと,なんとなくコンピューターに興味があったことによる。4年時にゼミ仲間との関係が上手くいかなくなり学生サポートセンターに行った。話しを聞いてもらい,相談する中で医療機関への受診を勧められアスペルガー症候群と診断された。コミュニケーションの仕方が周りの人と違うと常々思っていたが,診断されてこの違和感が腑に落ちた。
 ②STARTプログラムを受ける:発達障害の人たちと接する機会が貴重だった。プログラムではSSTを受け,相談していたが,発達障害で困ったことを学生同士で話し合う機会がもっとあれば良かった。以前の自分は,自ら抱える問題を解決できない無力な存在だと思っていたが,自分には支援が不可欠であり,その支援で自分らしくいられることがわかった。
 ③学生生活での不安:卒業を目標としたが,ゼミの教授と上手く関係がつくれず卒業研究を終了できるかだった。学生サポートセンターの先生や村山さんと一緒にゼミの教授と段取りを確認しながらスケジューリングした。これはとても有り難かった。就職活動との両立も難しかった。まずは卒業研究に取り組み,目処が立った時点で就職について考えた。就職を控えた発達障害の学生に伝えたいことは,焦らないこと,自分を甘やかしすぎないことであり,このバランスを覚えることである。また,支援にはぜひ履歴書の書き方や筆記試験対策・面接練習を入れて欲しい。私にとって「あって良かった」支援は,安心して話しを聞いてもらえる場所・相談できる場所の存在である。
 ④そして今:就労継続支援事業所に通っており,大手企業で5日間の実習をした。実習先は自宅から1時間以上満員電車に乗って行く所にある。いつもとは違う仕事に挑戦し,ラッシュの時間帯に電車で通勤する練習にもなった。今,自分の夢は企業への就職である。大手企業で実習したが,残念ながら不採用となった。与えられた仕事をこなすだけでなく,周りの人とコミュニケーションを取ることが必要である。仕事できちんと連絡・報告すること,相談することで効率よく作業することである。ゆっくりかもしれないが,課題を一つ一つクリアして夢を叶えたい。大学の支援とそこでの色々な出会いが,自身を理解する契機となり,自分らしく生きていく「出発点」になった。

(4)富山大学の取り組み:西村優紀美氏

 2007年度から発達障害学生への支援を開始し,教育・学生支援機構学生支援センター アクセシビリティ・コミュニケーション支援室(以下,支援室)として組織化され,身体障害と発達障害・精神障害のある学生の支援を行なっている。スタッフは,室長(専任教員の兼任)と特任教員,3名のコーディネーター(契約社員)である。支援は,入学前から卒業後までの節目の時期を想定した4期にわたる。第1期は発達障害がある高校生への体験プログラム(夏休み中の1日間)。2期は入学後の学生生活・修学支援,第3期は3~4年時のゼミ配属・卒論作成・就職活動期の支援。そして,第4期は卒業後も就職できていない学生への就労支援である。支援室には支援全体のマネジメント,支援者には専門的能力だけでなく大学教職員や就労支援機関職員,保護者とフットワークよく話し合える資質が求められる。
 ①支援の枠組み:学生の自己理解を促し社会的自立を図るための修学支援と教職員の障害理解を深め適切な配慮を実施し得る対応が必要である。学生の自己理解には彼らの語りを尊重する。語りには,今起きている問題に止まらず,過去の失敗を連想させ,自己否定的な感情を惹起することがある。過去体験の影響を含め,学生が大学生活の中で経験的学習を通して自己を再理解しつつ特性を受け入れて,社会への歩みを進めていく過程を支えたい。
 ②語りの変容:このため,ナラティブ・アプローチの視点を取り入れている。「発達障害」を人生で体験される一つの物語として理解し,その語りを尊重する支援者の態度が重要となる。この二者関係の中で困難の内容が変化すると共に適応的な行動が可能になり,障害特性による困りごとは減少していく。支援では,学生・教職員・家族・支援担当者などが語る複数の物語を,今ここでの対話で摺り合わせ,新しい物語が創出されるプロセスが重要である。
 ③セルフアウェアネス:支援は学びの環境改善だけでなく,自身の特性への気づきが大切である。状況の客観的捉えが難しい障害特性ではあるが,社会人として歩み出すには負の自己イメージだけでは踏み出せない。支援者との対話から自分の能力に気づき,肯定的自己像を伴う特性の認識が重要である。
 ④青年期に相応しい支援:学生と支援者がより上手くいく方法を実践と対話から導き出す協働作業が必要である。アイデンティティの確立と自身への肯定的な見方を前提とする。アイデンティティの語りは,行きつ戻りつ,未来に向かって少しずつ歩みを進め,肯定的な自己像を基盤として着実に将来に目を向かわせる。

3. 支援の現状と課題

 支援の契機は,学生生活・就職活動上で問題事態に直面することであった。問題と時期は,学生生活の各節目に在り,入学後の交友関係の形成,授業での課題作成,3・4年時のゼミ配属に伴う教員との関係形成,卒業研究の遂行,就職活動での困難事態である。支援室が問題状況に応じて,本人と大学の各部署や教員,就労支援機関,保護者との連携をコーディネートし,相談やSST,インターンシップ等を実施している。支援者には専門的能力のみならず関係者とフットワークよく話し合える資質が求められる。現状では,大学既有の資源を活用した組織変更(又は新設)により対応している。課題は,支援に要する人件費や運営費が十分に措置されず,支援の拡充や安定継続が難しいことである。基礎的環境の整備状況により,提供できる合理的配慮のメニューも異なる現状にある。

4. 建設的対話による支援とは

 支援は問題により異なるが,共通する支援の構造は,個人面談を通して困難事態を整理しながら本人の状況理解を援助すること。その上で,事態への対応を協議して本人の実施を支援することであり,この結果に基づき,本人の自己理解を適性に促すことであった。本人には「安心して話しを聞いてもらえる・相談できる場所」が存在し,支援を受けながら自らの問題への主導権を発揮した実行から「私自身を理解する」機会を得て「自分らしく生きていく出発点」になったと振り返った。漸く,この時期に自分らしく生きていく出発点に立てたとの発言には真摯に耳を傾け,支援を単なる問題の解決に止めず,他者との合意形成に基づく自己決定と自己形成の機会と捉え,この過程を支えて,これらの力を高めることが重要である。


主題・副題:リハビリテーション研究 第170号

掲載雑誌名:ノーマライゼーション・障害者の福祉増刊「リハビリテーション研究 第170号」

発行者・出版社:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会

巻数・頁数:第46巻第4号(通巻170号) 48頁

発行月日:2017年3月1日

文献に関する問い合わせ:
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
電話:03-5273-0601 FAX:03-5273-1523

menu