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国際援助活動のあり方


アジア眼科医療協力会理事長 黒住 格


途上国というと、文明の便利さからは見放されているが、そのかわり澄み切った空気と水には恵まれていると思われがちである。
私が知る限り、カトマンズの空気は昔から埃っぽかった。まず第一に、この国の土が細かい粒子の黄土であることと、街自体が空気の澱みやすい盆地であるということに原因があっただろう。最近ではその空気が車の排気ガスによって耐えられないほど汚染されている。街を行く人の半分はマスクをしている。これは、街を走っている車のほとんどが、先進国で使い古されたディーゼル車だからである。先進国並みの便利さを求めて取り入れた利器であってもこのような結果になってしまえば、発展の一方で環境破壊をしていることになる。
ネパールでの車の弊害はこればかりではない。昨今立派に作られた舗装道路では、たいていの車が時速100キロをこえるスピードでぶっ飛ばしている。
私は昨年の訪ネの際、カトマンズから600キロのビラトナガールまでジープで往復した。随分便利になったものだと思った。しかしその途中見たのは、川に落ちた小型トラック、シャフトが折れて路上にうずくまったバス、家に飛び込んだ大型トラック、山に衝突したさらにもう一台の大型トラックの計4台であった。いずれも、数日の間に起こった新しい事故であった。犬などの小型動物の交通事故死体を見るのはこれまで日常のことであったが、その日は車にはねられた牛を見た。大型動物の死体は、見慣れないだけに一層凄惨であった。いずれも、車が新しく獲得した超スピードという能力に、運転手も動物も、対応能力ができていないことから起こった惨劇である。
ネパールの車問題は効率と利便を第一とする先進国の合理主義を無批判に取り入れた結果の一つであろう。新しい文物が取り入れられる一方でその国古来の大切な文化や習慣が失われてしまう。NGOのすることも、相手国の文化保護の面から言うと決してよいことではないと考えたうえで、さらに社会正義の立場から考えて、”それでもやらなければならぬ”ことをするという気持ちが不可欠であろう。


出典
”JANNET NEWS LETTER” Vol.5 No.1 (通巻17号)

発行者

障害分野NGO連絡会(JANNET)

発行年月

1998年4月

文献に関する問合せ先

(財)日本障害者リハビリテーション協会
162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
Tel 03-5273-0601  Fax 03-5273-1523