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障害をもつ人のすみよいまちづくりをすすめる「アクセス環境改善評価指針」策定委員会 報告書

社会福祉法人 全国社会福祉協議会

項目 内容
発行年月 平成7年3月
備考 この報告書は、財団法人車両競技公益資金記念財団の委託を受けて社会福祉法人全国社会福祉協議会が作成したものです。

I部 アクセス 環境改善評価指針
はじめに-まちづくりの進展と評価の重要性-

 全国各地で「福祉のまちづくり条例」が検討され、あるいは制定され、「まちづくり関連法」も誕生した今日、日本において" 福祉のまちづくりは" 、<障害をもつ人々>に対する特別な配慮から、<すべての人々>にとって当たり前のこととなりました。
障害をもつ人々による問題提起と運動は、ノーマライゼーションの考えを浸透させ、それまでの" まちづくり" の重大な誤りを気付かせ、ようやく社会全体にとっての基本課題であると認識させました。それは、障害をもつ人や高齢者をはじめ社会を構成するすべての人々が建築・道路・公園・交通・通信などを安全で快適に利用でき、物理的にも心理的にも排除されることなくあらゆることに参加できる環境をつくること、つまり”福祉のまちづくり”の重要さです。
また、改正された「障害者基本法」は、市町村に「障害者計画」を策定する努力義務を定め、これにより、各地域社会において環境全体を改善する" まちづくり" を含む総合的な計画の策定が取り組まれていくことになります。

 この動きをより本格的に進め、その内容も形式的ではなく本物にする必要があります。

 福祉環境整備のための「指針」や「要綱」が策定され、ついに「福祉のまちづくり条例」が制定されるに至った動きは、加速されてはいます。ただし、ノーマライゼーションが目標とするレベルに向けて開始されたばかりであり、様々な障害をもつ人々のニーズにきちんと応えるものになるかが問われています。
さらに、まちづくりには長い取り組みが必要であり、全てが一朝一夕に変わるものではありまぜん。また、改善への取り組みの優先順位の決定に、住民の意志が確認され合意されなければ進みません。

 そのために、これまで全国で展開されてきた障害をもつ人々やボランティアによる" ガイドマップづくり" などの努力が住民全体に広げられて、改めて" まち" 全体を評価し、改善案とその優先順位を提案するものに繋がっていくことが重要です。

 本調査研究は、" まちづくり" を進めるこの具体的な方法を提案するものです。この提案を全国各地で実施に移され、より効果的な方法を確立する一歩としたいのです。

 最後に、この調査研究の意義を理解されご支援下さった財団法人車両競技公益資金記念財団に心からお礼申し上げます。

社会福祉法人 全国社会福祉協議会

目次

I部 アクセス環境改善評価指針

II部 ガイドマップの分析報告

(資料)

III部 参考資料

(資料)「アクセス環境改善評価指針」策定委員会 研究要綱

1 アクセス環境とは

(1)福祉のまちづくり

だれもが共に生きられるまちをめざして

 「福祉のまちづくり」という言葉をご存じですか。
ほかにも「ともに生きるまちづくり」「高齢者・障害者にやさしいまちづくり」などという言葉で表現されていますが、おとなもこどもも、若い人も年をとった人も、赤ちゃんをつれた若いおかあさんも、大きな荷物をもった人も、そして障害を持つ人ももたない人も、だれもが暮らしやすいまちをつくろうということです。
いいかえれば、まちは誰にとっても暮らしやすい、というふうにはまだなっていないのです。たとえば、ジュースの自動販売機や駅の券売機は、お金を入れるところが高くて、小さいこどもには手が届きません。駅の階段は、妊産婦や年をとった人には、とっても疲れてたいへんなものです。車いすを使う人にとっては? 目の見えない人にとっては? と考えると、不便なところが、もっともっとたくさんあります。
なぜ、そんな不便が生じてしまったのでしょうか。
おそらくは、この社会で現役で働いている人たち、20歳代から60歳くらいの、元気な人達を基準にして、まちがつくられてしまったからではないでしょうか。

まちの点検活動から

 「福祉のまちづくり」という言葉が使われだしたのは、70年代の始めです。
1971年に、仙台で「福祉の街づくり市民の集い」が発足、車いすの障害者を中心にまちを点検し、歩道の段差を削り、公共の場には車いす用トイレを設置するよう行政などに訴えました。翌年、仙台駅では車いす用のトイレを設置するなどの改造を行い、この運動はまたたくまに全国に広がっていきました。
73年には、A新聞社の厚生文化事業団が全国のまちづくり運動に関わる障害者に呼びかけて、「車いす市民全国交流集会」を開催。同年厚生省は「身体障害者者福祉モデル都市の指定」をスタート、翌74年には東京都町田市が全国に先駆けて「福祉環境整備要綱」を制定するなど、「福祉のまちづくり」という概念が定着していったのです。

「まちに人を合わせる」から「人に合わせたまち」へ

 この当時「福祉のまちづくり運動」に出会った、ある車いすの障害者は、
「それまで、病院や施設では、まちには段差も階段もあって、車いすでは動き回ることはできないから、社会復帰ができないよといわれ、とにかく松葉杖を使って歩けるようになることが唯一最大の目標でした。僕も両足に腰までの装具を付け、転倒の恐怖におびえながら歩く訓練をしたものでした。でも、福祉のまちづくりという話を聞いて、そうだ、まちに無理やり自分のからだを合わせていくのではなく、ぼくらに合わせてまちを変えていけばいいのだ、と、目からうろこが落ちる思いでした」と話しています。
「まちに人を合わせる」のではなく、「人に合わせた。まちをつくる」--この発想の転換こそが、「福祉のまちづくり」の原点であると言えましょう。

(2)アクセス環境

「アクセス環境」とは?

 最近では、まちの使いやすさをはかるときの言葉として、「アクセス環境」という言葉がよく使われます。
アクセス=access=接近、近づく道、近づく権利、などと訳されています。
たとえば車いすのひとが、目のまえのレストランに入りたいと思っても、そこに3段の階段があれば、ひとりでは近づくことができません。つまりこのレストランは、「アクセス環境が悪い」ことになります。
しかし、この段の脇にゆるやかなスロープが設置されれば、容易にレストランに入ることができます。これは、「階段」から「スロープ」に変わったことで、車いすの人にとっては「アクセス環境が改善された(アクセシブルになった)」ことになります。

「ハード環境」と「ソフト環境」

 アクセス環境には、「ハード環境」と「ソフト環境」の二つの側面があります。
さきほどのレストランの例では、もし階段がスロープにならなくても、お店の人が3、4人出てきて車いすごとかつぎあげてくれれば、やはりレストランに入ることができます。この場合、「階段」「スロープ」は「ハード環境」、3人の店員が手伝ってくれたことは「ソフト環境」です。
「福祉のまちづくり」や「アクセス環境の改善」というと、とかく「ハード環境」の改善と思われがちですが、「ソフト環境」も見逃すことはできません。
たとえば、先の例で階段がスロープに変わっても、腕力の弱い人はやはりだれかに車いすを押してもらわないと、レストランに入ることはできません。
また、歩道の段差が削られている場所に自転車を放置していたり、自動車が乗り上げていたりということもあります。あるいは点字ブロックの上に商品を並べている場合もあります。これでは、せっかく「ハード環境」が改善されても、「ソフト環境」によって台無しにされています。

障害の種別によって異なる比重

 さらに、障害の種別によっても「ハード」と「ソフト」のどちらに改善の比重を置くかが異なってきます。
車いすの障害者のばあい、上下移動が極めて困難なことから、「階段をスロープに」「駅にエレベーターを」「バスにリフトを」といったハード環境の改善が重要になっています。仮に、だれかに手伝ってもらうにしても、階段なら3、4人の大人が必要ですが、スロープなら小学生1人でも可能です。つまり「単独で行動する」ためだけでなく、「手伝いを容易にする」という視点からも、「ハード環境の改善」は重要な課題です。
一方、視聴覚障害者の場合は、移動が困難というよりも、情報が得られないゆえの不便さのほうが大きいと言います。
たとえば視覚障害者が買い物をする場合、セルフサービスのスーパーよりも、気軽に声を掛けてくれる小売店のほうが買い物をしやすいという話をよく聞きます。
聴覚障害者の場合は、手話の普及が最大の課題で、もし手話ができなくても筆談などを気軽にしてほしいと言います。
もちろん、視覚障害者にとっての点字ブロックや誘導チャイムの設置、聴覚障害者にとっての光や文字による情報システムの確立など、ハード面での課題もたくさんありますが、日常生活においては、周囲の人によるちょっとした声かけや手助けで、大抵のことは可能になると言います。

「ハード」と「ソフト」は車の両輪

 このように、障害によって「ハード」「ソフト」に対する比重は多少異なりますが、決してどちらか一方が充実すればそれでいい、というものではありません。むしろ「ハード」「ソフト」は、「アクセス環境」を改善していくうえでの「車の両輪」といえましよう。

(3)緊急時の対応で知るアクセス環境

阪神大震災と障害者・高齢者

 今年1月17日に起きた阪神大震災では、障害者、高齢者の緊急時の問題が浮き彫りにされました。
避難所となった小中学校は、階段だらけで車いす用トイレもなく、生活を続けることが困難なため、倒壊の危険のある自宅に戻った人や、施設に措置された人、避難所の外には温かい炊き出しの食事があるのに、そこまで出ていくことのできない高齢者など、悲惨な状況が報道されました。

町田市の実践から

 わが国で最初に「福祉環境整備要綱」を制定した東京都町田市では、すべての小中高等学校にスロープと車いす用トイレが設置されています。元町田市役所の職員として、車いすの立場から街づくりに関わってきたKさんは、「町田市の場合、緊急避難時のためという視点でなく、『誰もが使えるように』という視点で、たとえ車いすの児童生徒がいなくても、すべての学校に車いす用トイレなどを設置してきました。もし町田の学校が避難所になった場合には、車いすの人にも十分対応ができるはずです」といいます。

緊急時の対応マニュアルは皆無

 また、これまでの点検活動のなかで、ホテルなどで、障害者の避難に対する対応--聴覚障害者に非常事態発生をどのように知らせるか、エレベーターが止まった場合車いすの客をどのように階下に下ろすか、視覚障害者の誘導は、等--が、きちんとマニュアル化されているところは、皆無でした。聴覚障害者の場合、事故で電車が止まったというようなことを知らせる緊急放送は聞こえない、ということに気づかなかった駅さえあります。

大切なのは日頃からのまちづくり

 こう見てくると、緊急時にはそれまでのアクセス環境--ハード環境、ソフト環境ともに--の不備や矛盾が一気に吹き出してくるような気がします。
言いかえれば、日頃からだれもがともに生きられる社会を目指してアクセス環境を整えてきた地域は、緊急時にも障害者・高齢者に対し、きちんとした対応が可能になるのだと思います。

(4)まちづくり運動とガイドマップ・ブックづくり

全国で行われているガイドマップ・ブックづくり

 「福祉のまちづくり」を具体的に進めていくうえで、よく行われる有効な方法が、まちのアクセス環境の点検活動とガイドマップ・ブック作りです。この活動は、70年代に盛んになった障害者を中心とした「まちづくり運動」のなかで、全国各地でさまざまな方法で行われてきました。
たとえば「車いすTOKYOガイド」「車いす京都ガイド」といった、地域に根ざしたものから、「車いすトイレガイド」「宿泊ガイド」「駅ガイド」といった調査対象を絞ったものまで、さまざまな種類のガイドマップ・ブックが作られています。

作る過程が重要

 ガイドマップを作ることには、その情報を生かして障害者が外出し、生活圏を広げていくということに大きなメリットがあります。しかしそれ以上に、ガイドマップを作る過程--点検活動--そのものに、とても大きな意味があります。
まず、障害を持つ人にとっては、この活動自体が外出のチャンスになります。そして、点検活動を通じてまちのなかでの障害や、逆に利用可能な建物を発見していくことができます。思いがけないところに車いす用トイレがあるのを発見したり、親切な店員の対応に出会ったりすることもあり、身近なところで生活圏を広げることができます。
また障害をもたない人にとっては、障害をもった人の視野に立ってまちを見ていくことができ、生活の視野を広げていくことができます。
さらに点検対象となった商店、役所、駅、施設などに、改善の必要性を自覚させたり、促したりするという効果も大きくあります。

課題と問題意識が共有できる

 なによりも障害をもつ人ともたない人がともに点検活動を行うことで、まちづくりや障害のことなどを話し合う機会が生まれ、さまざまな人がともに生きられる地域を作っていくための課題や問題意識を共有できるということが、「ガイドマップ・ブック作り」のもつ大きなメリットと言えましょう。

2 アクセス環境改善の評価の必要性

(1)なぜ、評価をするのか?

何が不十分なのか

 「福祉のまちづくり」からはじまったまちづくりへの取り組みの歴史は、すでに20年以上を経過しています。この間に公共建築物の改善や道路の段差切り下げなど個々の取り組みから始まって、順次基準が設けられ、環境整備要綱や指針の制定、近年のまちづくり条例、昨年のハートビル法などへと制度的な整備も進み、まちづくりの社会的なコンセンサスも形成されつつあります。
しかし、それでもまだ環境整備に対する要望や条例や法律への不満がたくさんあります。
いったい何が不十分なのか、どこを改善すべきなのか。これまでの環境改善について検討してみましょう。

1.不完全なまちづくりの環境改善事業

 厚生省のまちづくりモデル事業や、各地での環境整備指針や要綱にそったまちづくり事業は、アクセシブルな環境への改善に多大な役割を果たしてきました。しかし、「仏作って魂をいれず」といえるような、せっかくの改善が利用者からみると不十分なものがかなり見受けられます。
例えば、
歩道の段差がスロープ化されたのに傾斜がきつかったり、歩道が車道側に傾いていて、歩きにくい現状は変わらない。
せっかく、車いすトイレが新設されたのに、その前に段差がある。
道路工事のために、それまで改善されていた点字ブロックが途中で消えてしまった。
……
このような例がいくつもありますが、こうした残念なことが起きてしまう理由がいくつか考えられます。
イ)施工主、設計者、工事実施者などが条例、要綱等をよく理解していない。
ロ)事前、事後に障害をもつ当事者やさまざまな人の意見を聞き入れていない。
ニ)当事者からの意見表明がなされていない。
多くの人が利用し、何度も変えることは困難ですかち、着手する前に専門家だけでなく、当事者をはじめ多くの人の意見を聞き入れて作っていただきたいものです。

福祉のまちづくりの歩み

1971

  • 仙台で「福祉のまちづくり市民の集い」発足

1972

  • 仙台駅、車いす使用者向け改善。
  • 町田市、リフト付きバス「やまゆり号」運行

1973

  • 仙台において「車いす市民全国交流集会」開催。以後、「車いす市民全国集会」と名前を変え、障害者主体の実行委員会主催で隔年に開催している。
  • 厚生省、身体障害者福祉モデル都市の指定
  • 建設省、歩道段差切り下げ指定通知

1974

  • 町田市、福祉環境整備要綱施行

1975

  • 厚生省、電動車いすの支給開始

1976

  • 京都市、「福祉のまちづくりのための建築物環境整備要綱」制定
  • 川崎市で車いす障害者60人がバス会社の対応に抗議行動

1979

  • 厚生省、障害者福祉都市推進事業(人口10万人以上の都市を対象)

1983

  • 国鉄、点字ブロックの設置義務化
  • 運輸省、「公共交通ターミナルにおける身体障害者施設ガイドライン」作成

1985

  • 建設省、視覚障害者誘導用ブロック設置指針

1988

  • 東京都、「福祉のまちづくり整備指針」制定

1989

  • 東京都、福祉のまちづくりモデル地区整備補助事業

1990

  • 神奈川県、兵庫県、建築基準条例改正(福祉的対応導入)
  • 運輸省、高齢者障害者等の公共交通機関の車両構造に関するモデルデザイン策定

1991

  • 大阪市、京都市、リフト付きバス運行開始

1992

  • 横浜市、神戸市、東京都、リフト付きバス運行開始
  • 横浜市、大阪府、建築基準条例改正
  • 兵庫県、大阪府、福祉のまちづくり条例制定

1993

  • 山梨県、障害者幸住条例制定
  • 町田市、福祉のまちづくり統合推進条例制定
  • 運輸省、鉄道駅におけるエレベーター、エスカレーターの整備指針

1994

  • 建設省、高齢者、障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(ハートフル・ビル法)制定
  • 厚生省、障害者や高齢者にやさしいまちづくり推進事業
  • 運輸省、エレベーター、エスカレーター整備補助制度スタート。
  • 財団法人「交通アメニティ推進機構」発足。

2.線(移動交通)の改善が遅れている。

 市役所、デパート、劇場、公園など、個々の公共建築物の改善は着実に広がってきています。しかし、そこへ行くまでの交通手段の改善は未だ不十分で、ようやくその緒につき始めたという状況です。とくに、電車やバスなどの公共交通機関の改善が遅れています。
リフト付きのキャブやタクシーも走っていますが、ニードに対応できる数が確保されていません。

3.民間施設の改善の遅れ

 自治体が管理する公共施設の改善は進んできましたが、民間の施設の改善はまだ遅れています。
それでもデパートやスーパー、劇場など多数が出入りする施設では良くなってきていますが、系列店では会社の方針によってばらつきがあります。また、日常利用する商店街の店や診療所などのは改善が遅れています。
この背景は、要綱や指針が民間の施設に対して拘束力が弱いこと、および一定面積以上の施設しか対象にしてこなかったからだと思われます。小さな商店などでは、少なくも出入口の段差をなくすだけでも事足りることが多く、きめ細かな運用が必要です。

4.学校の改善が遅れている。

 小学校から大学まで、ほとんどの学校で障害者へのアクセスの配慮がなされていません。
ハード面が遅れているため、そこに在籍する障害者は少なく、体育授業のもち方や実習のもち方などのカリキュラム上の改善とか、点字図書の常備や手話通訳者の配置などの設備やサービスの配慮などソフト面の不備につながっています。
学校は児童生徒だけでなくその親が授業参観やPTAで行くこともありますし、また、時に選挙の投票所になったり、地域開放で体育館が利用されたり、地域の住民も利用します。学校は特別な施設でなく、公共的な施設であることを念頭に施設改善を進めるべきではないでしょうか。

5.住宅の遅れ

 新たな団地が建設されるとそこに車いす向けや高齢者向けの住宅も建てられます。しかし、大方の例では、一部の棟の1階部分のみアクセシブルになるだけで、上の階や他の棟へは行くことができません。これでは生活はできても、団地の人々との交流もままならず「住民」になりきれず、ノーマライゼーションの理念にかけ離れています。
また、マンションや高層アパートなど半公共的な建築物は改善の対象に含められておらず、入り口の2、3段の階段さえなければ利用できるのに、といった例がたくさんあります。

6.不特定多数の利用者としての改善で、そこで働く人や暮らす立場からの改善は見過ごされている。

 建物等の改善は、その施設を利用する人々のためになることはもちろんですが、建物等への関わりには利用者として以外にも、住まいや近隣、商店街といった日々の暮らしの中での関わりや、町内会活動、地域行事、選挙の投票などまちに参加するかかわり、そしてまちで働くといった関わりなどもあります。
建物の外側から関わるような方向でみるだけでなく、内側からの見方で改善を進めることも必要ではないでしようか。

7.ハード面の改善と、機器やソフト面の遅れ。

 これまでに策定された要綱や指針では、道路、公共建築物、公園などのハード面に関しては、改善の基準が細かく作られてきました。各地の要綱や指針あるいは条例、法律のいずれを見ても、対象の範囲や運用のしかたなどで違いはあるものの、技術的な基準はほぼ同様で、かなりなレベルに達しているものと思われます。
例えば、車いすの人の利用を想定して受付カウンターの高さは70cm位までという指針はできていますが、耳の聞こえない人のために音声に代わる電光標示盤を設置するとか、手話のできる人を配置するとかの指針はできていません。
ですが、スーパーなどでは、設備改善や店員の接客マニュアルが作られつつあるというように、こうした設備や機器の基準や、サービスや人の対応といったソフト的な面の改善はこれからだといえます。

8.車いす障害者の対策は進んだが、他の障害者への対策は遅れている。

 これまでの環境改善は移動系の障害--特に車いすと視覚障害--に対応したものが主で、これに対し情報系の障害--視覚、聴覚、知的障害など--に対する環境改善は遅れています。
これは、前述したこれまではハード的な改善が主で、ソフト面や機器面での改善が遅れていたことに対応しています。
さらに、高齢者やこども、外国人など環境に対してのハンディキャップをもつ他の当事者からの改善の要望や提案をも含めて考えていかなければならないでしょう。

9.防災の観点からのまちづくりが抜け落ちている。

 今回の阪神大地震で明らかになったように、震災に対する備えがまちづくりの中で十分でなかったようです。障害のない人でも大変ですが、車いす障害者や高齢者などは、学校に避難してもトイレが利用しにくいとか、視覚や聴覚の障害者は情報面でたいへん苦労していると聞いています。まず逃げること、そしてサバイバル的な避難所生活など、ハンディキャップをもつ人にとっての震災対策が全くないということが明らかになりました。
また、火災などで障害者の避難を想定した訓練を行ったり対策をもっているという例は寡聞にして耳にしません。
改めて、アクセス環境改善を防災の観点からの見直すことが必要です。

 以上のように、これまでのまちづくり、環境改善の取り組みで不十分な点を列挙してみましたが、これらを踏まえてこれからの環境改善にどう取り組むか、その必要性を考えてみましょう。

(2)評価の必要性

環境改善を具体的に進める

 (1)で述べたように、環境改善にはまだまだ多くの欠点や不十分なところがあります。それらの問題点としてはある程度わかっていたとしても、まちの具体的な場面で一つ一つ取り上げ改善に結びつけていくという作業にはなかなかつながっていきません。
道路のA地点のスロープが急なので直してほしい、B市民会館に車いす席を設けよう、Cレストランにも点字メニューを置いてほしい、というようにアクセス環境の改善は、常に具体的であることがもっとも基本的なことです。

環境改善の方向性を見いだす。

 具体化の作業にともなって、個々の施設の評価をすすめると、そこでのアクセス環境改善の良いところと欠点とがより明確に浮かび上がってきます。調査する施設が多くなればなるほど個別の問題からそのまちのアクセス環境改善の取り組みの進んでいるところと遅れているところが見えてきます。A市民センターのトイレの直し方がよいからこれをもっと普及すべきだとか、視覚障害者への対策が遅れているとか、が見えることによって、そのまちの改善の方針を出すことができます。

最高の技術やサービスを吸収していく。

 点検チェックするだけでなく評価をするという作業には、その時々のまちづくりの考え方が反映されます。公衆電話の改善が始まった頃には、視覚障害者のために5のダイヤルの位置にマークの点をうった電話がどれだけあるかをチェックし、それに良い評価を与えていました。しかし、今ではそれは当然のこととなり、音声でカードの残り度数を教えてくれるような電話機に高い評価が与えられます。評価は技術などの進歩とともに変化しますので、良いモデルとなるものを基準としていくことがまちづくりの水準を高めていきます。

ノーマライゼーションを検証する

同様に、より高い評価をえるものは、より限られた人のためのものでなく、より多くの人に支持される技術やサービスです。より開かれた方向は、障害の垣根を低くしていきます。評価の高いレベルに近づけることは、ノーマライゼーションの考え方や方策を検証する良い機会となります。

人々の参加とまちづくりの人材を育成する

 点検評価の活動は決して少数の人間でできるものではないし、そうあるべきものではありません。より多くの人が参加してこそ、まちづくりへの関心を広め、まちの活性化に貢献します。
そして、そうした人の中から公平な視点でまちづくりのニードを把握し、改善にあたってリーダー性を発揮する人材を育てていくことができます。

3 評価の指針と方法

(1)調査と評価にあたって

調査施設を差別しない

 評価するための調査チェックする対象をどのように考えたら良いでしょうか。実際のまちづくりの中では、例えば「ここは、障害者があまり来ないところだから改善しなくてもいい」なんてことがままあります。例えば、お寺とか、船とか、留置場とか。
障害をもつ当事者や周りの人も「あそこは大変だから行かなくていい」と避けてきたことも改善を遅らせている原因の一つで、駅や学校も今まではそうでした。
しかし、障害があるからといって、行かれないことはあっても、行かない必然性があるわけではありません。また、改善に順位をつけるということとも異なります。
行ったり利用したりする可能性が一分でもあるところは、全てチェックと評価の対象です。

 また、アクセスの対象となる施設では、そのハード環境だけでなく、ソフト環境と合わせて最大限の考えられる要素を取り入れて評価することが必要です。

調査対象施設

建造物の分類
1.公共建築物
官公庁 役所、出張所、警察、税務署
福祉施設 老人施設、身体障害者施設、保育園
医療施設 病院、診療所
教育施設 小・中・高等学校、大学、専門学校
文化施設 博物館、図書館、美術館、展示場等
公会堂・集会場
体育館、プール、スキー場などスポーツ施設
商業施設 百貨店、スーパー
小売り店舗、喫茶店、レストラン
理・美容院、公衆浴場
電話局
金融機関 銀行、信用金庫、郵便局、質屋
宗教施設 結婚式場、葬儀場、寺院、教会
宿泊施設 ホテル、旅館、保養所、ユースホステル
共同住宅 団地、マンション
事業所 事務所、工場
娯楽施設 遊技場、劇場、映画館、
観光施設
(公園も含む)
歴史的建築物、展望台、サービスエリア
テーマパーク、動物園、植物園
2.交通機関
鉄道 駅舎、駅前広場
バス ターミナル、停留所
タクシー 乗り場
船舶 乗船場、ターミナル施設
飛行機 飛行場
3.道路
歩道
横断歩道
安全設備 信号
路上の設備 案内板、公衆電話、

できるだけ多くの建築物、施設を調査する

 1つのまちの中には、さまざまな種類の建築物や施設が実に数多く存在しています。この全てについて調査をするというのは並大抵のことではない、というより不可能に近いといえましょう。
しかし、でき得る限り数多く調査できればそれだけ評価の信頼度は高くなってきます。
できるだけ多くの建物・施設を調査するために、施設分類のそれぞれごとに、代表的な所を何ヶ所かずつピックアップしてそれを調査します。
選択する数は、まちの大きさによって異なるでしょうが、例えばまちの中のスーパーが15ヶ所あればその内の8ヶ所、50ヶ所あればその内の15ヶ所というように。まちの中に同種の建物が5ヶ所以内しかなければその全てを、6~10ヶ所ならその8割を、11~20ヶ所なら6割をというように数に応じて調査数を決めておくとよいでしょう。
また、どのように選択するかについては、いくつかの方法が考えられます。例えば、電話帳から無作為に選び出す方法。面積順とか、売上高順に上位から何番目かまでを選ぶ方法。まちの中心地区の何平方kmの範囲内にある建物全てを対象にする方法、等々。さまざまな方法が考えられます。

さまざまなハンディキャップを想定する

 障害が異なると、バリアーも異なってきます。聴覚障害者にとっては音や放送による案内は役に立ちませんが、視覚障害者には重要な情報伝達手段です。このようにアクセス環境の改善も障害によって評価が変わってきます。そこで、評価にあたっては障害ごとに評価するようにしなければならないでしょう。この場合、障害というのをここでは、車いす、杖などの歩行障害、視覚障害、聴覚障害でだけ述べていますが、環境如何によって何らかのハンディを負わされてしまう、高齢者や子ども、知的障害者、精神障害者、外国人などさまざまな立場からの検証が必要であることは申すまでもありません。
そうしたさまざまな立場からの検証によって、自分たちの住むまちの環境改善の進んでいるところ、遅れているところがわかることができ、将来への指針とする事ができます。

一人で出かけた場合の想定を基本にする

 買い物に行ったことのない人に、スーパーやデパートの評価をすることは困難であるように、体験から指摘される事柄には重みがあります。また、体験しないとなかなか気がつかないことがたくさんあります。そのことからだけでも、調査と評価に当事者が参加することは大切です。
健常者と一緒にでかけると、店員の応対が丁寧であるのに、一人で出かけると邪険になったりすることはよく聞かされます。また、付き添っている人に何でもやってもらっていてはどこに問題があるか見いだせにくくなります。こうしたことでは本当のアクセスの実態を見ることはできません。ですから、評価にあたっては、一人で出かけた場合を想定して行うことを基本に置きます。

未来志向で、どこを評価し、どこを直すべきかを明らかにする

 出入口は段差なく入れるようになったがトイレは使えなかったとか、点字料金表は置いてあるけど誘導ブロックが見えにくかったとか、改善にはさまざまな問題があります。
調査と評価は、改善が遅れていることのみあげつらったり、他との優劣を争うことを目的とするのではありません。
調査と評価の目的は、アクセス環境のどの部分がよく改善されているか、どこがまだ改善されていないかを明らかにし、よりよい環境改善を進めていくための指針を得るためのものです。
ですから未来に向けて環境改善の志向のないところではチェックや評価は何の意味ももちません。

【※注 今回の報告にあたって】

 今回のアクセス環境改善評価では、調査及び評価の対象としたのは、公共の建築物とその周辺の道路と交通機関のハード的環境--駐車場、通路、出入口、屋内通路、トイレ、個別の施設、および設備等と、ソフト的環境--コミュニケーションや情報などの設備と人の対応に絞りました。
公共の建築物や交通機関を利用するにあたっては、アクセス環境の概念をどのようにとらえるかが問題になります。一般的には、これまでは移動の制約からアクセスをとらえ、ハード面からの視点で概念が作られていたと思われます。
しかし、現実にハード的に改善がなされても、従業員や住民の無理解や無知のため利用できなかったりする例が多々あります。また、ハードの改善だけでは限界があり、人の対応に負うケースもたくさん経験していますので、アクセス環境の概念の中に是非ともソフト的環境も含めようということになりました。
ただ、ソフト的環境にも、上記以外に、行政の制度やサービスのあり方もアクセスを左右します。また、その場所のもつ雰囲気や近づきやすさといった心理的なことがらもアクセスを左右します。こうして考えるとアクセス環境の概念はずいぶんと幅が広くなります。
しかし、全てを網羅するとより複雑で、評価の仕方が困難になると考え、これまであまり取り上げられていなかったソフト的環境の内、上記に絞って取り上げて評価することにしました。

また、評価する立場を
車いす
杖使用者等の歩行困難者
視覚障害者
聴覚障害者
の、4つの障害の立場から検証することにしました。

 これも、本来であればこれ以外のさまざまなハンディキャップの視点を含めるべきですが、前記同様、課題の簡略化のため障害を絞ることにしました。

(2)評価の方法

1.一つの建物・施設を区分してそれぞれを障害別に評価する

【施設の構成区分】

ハード環境
周辺の歩道、屋外通路
駐車場
出入口
屋内通路
垂直移動設備
トイレ
その他の設備
施設に特有の部屋等
ソフト環境
コミュニケーションの手段
情報の伝達
従業員の対応

これらの区分それぞれごとについて評価する。

評価は4段階

 ここでは、単純に評価できる方法として、4段階に評価する方法で行ってみました。

表現としては、
◎-○-△-×  とか、
A-B-C-D  とか
優-良-可-不可 とか
1-2-3-4  とかいろいろあります。
ここではとりあえず、◎-○-△-×で表現することにします。

 前項で述べたように、この環境改善評価は、今後の環境改善に向けての指針を得るためのものですので、評価できるのはどこなのか、改善すべき事項は何なのかを明らかにするように組み立てます。

◎ は、アクセス環境改善がとても良い評価であることを示します。ハンディをもつ人からみて他の施設でもこうあればいいなあ! ということで、モデルとなりうる改善です。
○ は、アクセス環境改善が良いという評価にあたります。ベストとは言えないがベターといえるものです。

◎と○のふたつの場合がアクセス可能、アクセシブルといえるもので、合格ラインを越えると言えるものです。

△ は、利用しにくいけど何とか利用できる、ちょっと手助けしてもらえれば利用できる、という評価に相当します。できれば改善してほしいものと言えます。
× は、ほとんど利用困難というものから、まったく利用できないという評価です。基本的に改善をしてほしいというものです。

△と×はアクセスが不完全か困難か不可能といえるもので、どこが悪くどういう改善をしたらよいかを明らかにする必要があります。

2.一つの建物・施設の全体評価

 1.の評価で、建物の個々の部分についての評価を出しましたが、それによって建物全体をみたとき、建物のハードのどういう改善が優れているか、どの部分が改善を計らなければならないか、同様にソフトの面でどうかと、全体の傾向を評価できるようになります。
これも障害別に見ていきます。

【点数化は困難】

 評価の方法にはいろいろな方法が考えられますが、その一つとして点数化があります。
100点を満点として現状の改善をそれぞれに何点かと評価を与えていくというような方法です。しかし、どの程度の改善を何点とするかという基準を決めることはなかなか難しいことです。
例えば、ドア幅が120cm以上なら80点、65cmなら10点というように、数値化されているものは点数化しやすいですが、通路上に灰皿や植木鉢があって通行を困難にしているという場合、その判断には主観が入りやすく数値化に困難があります。
また、障害が違えば基準も異なります。例えば、車いすにとっては、出入口が階段でアクセシブルでない場合、例え屋内通路やトイレが100点でもほとんど意味がありません。おそらく移動系の障害者ならハード面に、情報系の障害者なら情報面に重要度があるという違いがありますし、同じ障害の人でも個々の人によって異なります。
このように点数化を客観的に表現するというのはなかなか困難です。
そこで、ここではアクセス環境改善の傾向を評価するにとどめました。

3.まちの中の同種の施設について、評価する。

 2.で一つの建物の環境改善の傾向を評価しましたが、これを同じまちの同種の施設について行います。例えば、官公庁施設について、そのまちのいくつもの官公庁施設全体を一つ一つ調査し、個々に評価していきます。これをまとめることによってそのまちの官公庁施設では、どういうところが◎が多い優れている、しかし逆に、どういうところに×が多く改善すべき課題であると、アクセス環境改善の傾向を評価することができます。

 これを、建物・施設の分類に沿って、順次評価していきます。

4.「わがまちのアクセス環境改善」の評価

 3.の積み上げによって、そのまち全体のアクセス環境改善の状況がわかってきます。
例えば、建物・施設の分類上で官公庁施設は改善が進んでいるが交通機関や観光施設はおくれている、というように。また、施設の項目区分でトイレの改善は進んでいるがエレベーターの設置が遅れている、とかハード面はよくなってきているがソフト面で従業員によるサービスを向上する必要があるとかというように。

 このようにして自分たちの住むまちのアクセス環境改善を客観的に把握することによって、
1「わがまちのアクセス環境改善」すぐれた建物や施設を表彰する。
◎ベスト・ビル・イン・マイタウン
◎人にやさしい建物十選
2行政の進めるまちづくり事業や地域福祉計画の中に今後の改善課題を提示する。
というようなことが可能になります。

3.まち全体の

わがまちのアクセス環境改善を現した図


主題:
●障害をもつ人の住みよいまちづくりをすすめる 「アクセス環境改善評価指針」策定委員会 報告書 NO.1
1頁~22頁

発行者:
社会福祉法人 全国社会福祉協議会

発行年月:
1995年03月

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